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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月上旬 団体戦
35/113

三十二話 圧倒的な不利









現在時刻、10時59分。

第三試合開始、11時。


既に役者の二名は学院のエントランスで待機していた。




片方は第一試合でフィスタを降したガトレット。

 対するもう一方は第二試合でブレイズを乗り越えたクラス。


この二名の試合がどうなるかは解らない。

だが、クラスの実力を未だ測り兼ねている事実が既に確認出来た。






ガトレットは、どうやってこの謎多きクラスを攻略するか考えていた。

答えとしては、【色々試す】事であった。





(まず間違いなく話術は通用しない。

だから彼の行動の一部を抑制する芸当はまず無理だ、難しいな。)





手首を鳴らしながら、ガトレットは珍しく目を確りと開いた。

それはとても意外な光景であり、彼の中性的で独特な魅力が画面越しに校庭へ伝わる。


だが、当人としては至って真面目な理由があっての行動であった。

良く見る必要がある、動きの機微を。





息を整え、右手の平を開く。

体の右半身を相手に向けながら、落ち着いた呼気で右腕をクラスへ突き出す。


ガトレットは、まずこの姿勢を作る事で自身の心構えを取るのだ。







「ーーーー成る程。

ガトレットさんはやはり掌打、掌底による腕の攻撃が主体になりますか。

遠距離で攻撃を仕掛けられたらどう対処を?」



「………それは、色々試す。

君に近づく事が出来るなら何かしら手立てが立つだろうし、近付けないならまず近づく方法を考える。

それだけだよ。」



「うん、そうですね。

分かりきった事を聞きました、すいません。」







そう言うと、クラスは【右手と左手】の両手に機関銃らしき物と先のブレイズ戦で見せた六連式のリボルバーを創り出した。





それを見るガトレットの顔が途端に警戒を帯びる。

二つの武器を同時に操れたのか、想定外だ。


最初から攻撃を避け切るのは無理だと解っているガトレットは、彼の手元がどう方向を決めているのかを確認し、感覚で魔力防御するつもりでいた。

実際それ以外に現実的な対処法が無い為、一先ずはそれで行く。





クラスはガトレットの構えがとても自然で強気な立ち姿だと感じながら、更に【予備の弾薬】を生成し始める。


クラスを見つめていたガトレットもこれは思わず、






「ず、ずるい。」






そう口遊んでしまった。

だが、ルール上反則ではない。


剣使いが事前に学院の私物である木剣を借りて戦う事が許されている様に、試合前に用意出来る準備は出来るだけして良いのだ。


苦い思いを感じながらも、ガトレットは集中を維持する。






そんな間で、10秒前の宣言が始まる。


もう、考える時間はない。

やるだけやる、そうしてここまで勝ち上がってきた。

それで、決勝まで残る。







「行きます。

10秒前。」







二人の耳には、既に時を刻むカウントだけが響いていた。


……………。

………。














ーーーーーー開始。



言葉と共に全力で走り出す。

無論ガトレットである。





クラスは冷静に足に狙いを定め、左手の機関銃を連射する。


凄まじい弾幕が体を中心に乱射される。

勿論魔力を纏い防ぐが、硬いボールが体に激突する様な感触が複数箇所に訪れる。





だがそれで怖じけては何も進まない。

堪えて正面を両腕で塞ぎ突き進む。


そうして、向こう十数mという中距離まで詰め寄る。

一旦前を確認しようと顔を上げる。





(ーーーーま、ず)





右手のリボルバーが二発撃ち抜かれる。

それはガトレットの右鳩尾と右太腿に命中してしまう。


当然機関の小口径弾のレベルではなく、ブレイズはこれを喰らっていたのかと理解する。

当たり前ながら進む足は止まり、守りに徹する。





クラスの左腕が、右足を庇い動き回るガトレットの進行方向に偏差撃ちで機関連射を行う。


避け切れない。

仕方無しに顔面付近を両手で防ぐ。


一旦防いだ所で、即座に停滞した自身に向けてリボルバーを向ける気配が伝わる。

反射的に開脚し下へ屈む。





ぼがぁん。

そんな穿つ物音が背中側の地面から聞こえる。

予想通り撃ち放ってきた。


何と面倒な攻撃だ。

ガトレットは自身の機動力が後一歩足らない現状に苛ついていた。






それとはお構い無しに無情なリロード音が響く。


クラスの隙と言えば隙なのだが、あまりの未知性に迂闊な飛び込みを躊躇してしまう。

攻めなければ始まらないのだが、自分の攻撃手段が至近距離である事に人生で初めて恨みを覚えていた。


ガトレットは、八方塞がりである事を理解してしまう。






クラスは連射を続けながらも、余る魔力を肉体を保護する軽鎧の作製に割く。


考える時間すら与えて貰えない。

ガトレットはやり方を変える事にした。







大きく踏み込む。

クラスは、空気が変わった事に気付いた。






大きく地面を蹴り付け、ガトレットが勢いを乗せた跳び上がりを見せる。


クラスは冷静に反応して、対空の機関銃を放つ。

しかしどうにもガトレットの自信ありげな表情が疑問であった。




(彼は、一体何を考えてーーーー)





撃ち放たれた自然魔力の弾丸がガトレットの肉体に衝突する。

それは彼の肉体を弾き飛ばし、また一から距離を詰める作業を行わせる、





ーーーー筈だった。





全く怯む事なく、全開に纏った魔力を全て【防御】に割り当てたガトレットがクラスの目前に着地する。


クラスはその無鉄砲な作戦に軽く笑ってしまった。






彼が行ったのは博打。


二分の一でリボルバーによる阻止ではなく。

機関銃による安定した阻止をする事に賭け、機関銃の弾丸なら防ぎ切れる魔力を纏い距離を詰めてきた。





それを頭で理解した瞬間。

反応が遅れたクラスの左脇に対し、最大まで踏み込みを入れた右掌底がL字に打ち込まれる。


クラスの纏っていた防御壁を一発で罅割れさせ、続けてもう一発無理矢理に右腕の掌打を腹に打ち込む。






ばきり、と。

そんな破損音と共に魔力がクラスの体から霧散し、鎧が破壊された事を周囲へ伝える。


クラスとしても、ブレイズ戦で学んだ複数枚の防御という手法で編み込んだ三層の鎧が二発で砕かれるとは思っていなかった。






これが、ガトレットの破壊力。

ブレイドやフィスタを破ったのはこの無慈悲な破壊を伴う一撃が元凶。


成る程。




クラスの両手に握られた銃器を素早く両手で弾き飛ばし、更に両手を背に回し完全に拘束する。


傍から確認すると既にクラスが一転不勢に陥っている様に見えた。

そんな状況でクラスは背に座り込むガトレットに声を掛ける。







「…………素晴らしい。

私は、正直貴方には近付かれずに勝てると思っていました。

完全に想定の範囲を超えた対応力です。」



「………ふ、褒めたって何もないよ。

どうするの、負けって事でいいかな。」



「…………えぇ。

近付かれる事は想定してませんでした。

【第二フェイズ】です。」









突然の事であった。

クラスがズボンのポケットから何かを落とした。




一瞬反応が遅れたが、ガトレットの脳に対し激しい危険信号が送られる。

咄嗟に腕を離しその場から飛び退こうとした。


しかし僅か数コンマ、行動が遅かった。






相当な量の自然魔力を詰め込んでいたのだろう。


それはこの試合の前後に用意した物ではなく、ブレイズ戦を行う前から既にクラスが準備を進めていた物。




【ポケットとピンが結ばれていた手榴弾】






右ポケットの中に手榴弾の型を作り、そこにずっと魔力を流し続けていた。


ブレイズ戦の直後一時激減した魔力は松薔薇の治癒により大半が戻り、10日目の戦闘の前日に貯め始めた1日分の魔力+、ブレイズ戦後に回復した魔力の半分、つまり3割程度。


実に当人の魔力総量130%分の魔素が貯め込まれていた。






それは仮に自身が行動不能の状況になった際、

【自身の魔力は自身には害にならない】という性質を利用して無害の自爆を行い止めを刺すための切り札であった。


その威力は、

ブレイドの魔力を詰めた魔剣。

ガレトットの全力を込めた左手の掌打。

フィスタやブレイズ達の空中から行う必殺の攻撃。





それ等の切り札の約倍近い破壊力を持っていた。

当然だ、瞬間的だと良くて半分弱の魔力を出力するのが精一杯。


彼は、5割ではなく13割の魔力を貯めていたのだ。

叶う訳がない。

















無惨にも至近距離で爆裂音と共に強風に吹き飛ばされたガトレット。


頸で結んでいた髪留めが千切れ、長髪が体に凭れていた。

どう見ても動ける状態ではないのは瞭然。






クラスは、既に体内の魔力残数が数%近い事を感じ、何ともぎりぎりの攻防であったと思い返す。


目の前で顔を下に向け微動だにしないガトレットに対し難敵であったと感想を浮かべ、その場から背を向ける。







「松薔薇先生、終わりました。

もう続行は不可能です、私の勝ちです。」



「…………クラスは、そう感じたのですか。」



「はい。

…………何故、そんな事を訊くのです?」








後ろを振り向く。


ガトレットはそこに倒れている。

どう見ても動ける状態ではない。


…………いや、何だこれは。






良く見たらそれは、クラスから奪い取った機関銃と大口径銃を髪留めで一纏めの塊にした頭部と、引きちぎった長髪を上から垂らした状態の出来の悪い案山子であった。


上に着る長袖制服と下のズボンは本物だ。

極限の疲労状態で判断を間違えた事をゆっくりと呑み込む。


本人は、どこに。






ーーーーーークラス、上をご覧なさい。





え。

ぼんやりと真上を見上げる。


刹那、鼻の先に左手の掌らしき物が映る。

それ以降、景色の続きを見る事はなかった。













「ーーーー危な、かった。

も、動けない、や。」



「ガトレット、第三試合勝利です。

極度の疲労ですから、二人共私の治癒を受けた後、保健室に再度連れて行きます。」



「は、い……………ーーーーーー」








松薔薇は、最後の現象を確実に視認していた。




ガトレットは、手榴弾の炸裂に対して即座に背後に飛び抜け、残る魔力を全て【左手】に集めていた。


そう、防御に割かず左腕の掌に集めたのだ。





本人にとって最大の防御手段は、不慣れな魔力の保護ではなく最高の威力を込めた利き腕である左手の掌打であった。

空中で利き腕掌打を手榴弾の爆発に打ち込み、威力を4割ほど削ったのである。









だが、それでもブレイドの魔剣を直に身に受けたような破壊力が体に伝わり、その場の思いつきで低レベルなダミーを壁端に置いた。


正直クラス本人の肉体機能が低下してくれている

前提で通用する不出来な案山子ではあったが、遠目から見て何とか錯覚してくれた。




ガトレット本人はその間ずっと10m少しある学院エントランスの天井に両腕でぶら下がり、

(ダミー作製後に速攻で壁を伝い上へ登った)

クラスが真下に来るのを待っていた。


全てが連鎖した結果、奇跡に近い確率で勝利を捥ぎ取ったのだった。







「ーーーー二人共、お疲れ様でした。」








松薔薇は二人に癒しの自然魔力を流し、同じ箇所に倒れ込む二人を担ごうとした。

しかし。




ガトレットの服装を一瞥する。


下は内履きのショートズボンに、上は内着の白シャツ。

元の黒い制服はもう生地が襤褸雑巾であった。






松薔薇は裂けた制服を手に取り、5、6秒程目で見つめる。

……………、








「…………………現状、【観察】終了。」



「構成、形状【解析】……………終了。」



「経歴【完全分析】…………終了。

上記3段階を以て完全な復元を行う。」









ーーーーーー模倣、終了。


松薔薇は、自身が持つ3つのスキルを戦闘以外の万事に使うことが出来る。


この場合、

①ガトレットの制服の形状を【観察】

②制服の材質、及び本来の形状を【解析】

③ガトレットと共に過ごして来た制服の細かな傷や解れ、縮みなどを【完全分析】


そうして当人の制服の残骸に魔力の型を作り、細かな調整を経て完璧に本来の戦闘前の制服を復元した。








それは、一連の行動全てが映像として映されていた。


先ほど繰り広げられていた戦闘に熱狂歓喜していた生徒や教師等の意識が全て傾く様な現象が目前に放映され、不可能なレベルの損傷の修繕に皆が絶句してしまう。


だが、松薔薇はそんな事を気に留める様子すらなく、淡々と直した服をガトレットに着せて、クラスとガトレットを共に保健室に運ぶのだった。








そうして、第三試合は幕を閉じる。


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