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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月上旬 団体戦
34/113

三十一話 青い炎とリボルバー








「確か、クラスだったな。」



「え?ーーーーあ、はい、そうです。

自己紹介、そういえばしてなかったですか。」



「あぁ、これが初めてだ。

保健室ではそれぞれが敗者の付き添いで顔を合わせていただけだからな。

一応手合わせをする前に改めて、な。」



「どうも、ご丁寧に。

ですが、私としては貴女とは当たりたくなかった。」







10時寸前の会話。

他のメンバー達もそれぞれが明確な強みを持っているのに、何故クラスは集中的にブレイズを嫌がったのか。


実はとても単純な理由で。

魔力で作り出した武具を相手に使用する戦法を取るクラスからしたら、空中に避難することができるブレイズは自在に動き回る的の様な物であった。




なので、可能であればそれ以外の人と当たりたいと思っていたのだが、こうなった以上は仕方無い。

松薔薇は、クラスがどの様にあのブレイズと渡り合うのか気になっていた。


そして、数分後。











松薔薇の開始が宣告される。

クラスが前に捉えていたブレイズは、開始と同時にその場で独楽の様に体を回しながら赤い炎を振り撒き始める。




何をやろうとしているのか。

クラスは右手にリボルバーを創り、様子を見ながら魔力の弾を3発生成する。


ハンドガン程度では口径が小さくあの出力の炎を貫く事は出来ない。

よって、あまり生成燃費の良くないリボルバーを作り出す事にした。




創り出したそれを正面に構え、2発打ち込む。

ぼしゅう。

炎を貫通し、奥まで突き進むのが見て解った。


だが、空中の炎を吹き飛ばしてブレイズの居た位置を確認すると既に移動した後だった。

冷静に空中に残る火炎の軌道を視認し、最も新しい炎が真上に飛び上がっている事に気付く。


咄嗟に残った1発を上空に放つ。

すると、軽いうめき声が耳に入る。








「ーーーークラス、お前ぇ。」



「右頬に掠っただけですか。

痣が出来てますね。」



「………私は、デガーがお前に倒された時の試合からずっと警戒してた。

こいつは他の実力者とは根本的に未知な相手だ、と。

杞憂ではなかった様だ。」








右頬を左手で触り鈍い痛みを感じつつ、ブレイズは会話の最中も容赦なく弾を装填し続けるクラスに対して考えを切り替える。


まるで、狩人の様だ。

この男は、他のフレムやブレイドの様に甘さがない。

何かに集中すると、それに対して異常にキレが上がる、さっき即座に空中へ発砲したのもそうだ。


正直言って、この男に対して地上から挑む場合の恐怖感は凄まじい物だろう。

空に飛べたとしてもこれだ。






ブレイズは肩まで伸びていた白髪すらも邪魔に感じ、後ろに一纏めに縛る。

少しでも視界を良くしたい。


そして、この男の運動能力の低さを必ず潰す。

それが唯一の弱点だ。

両手に、青い炎を纏わせる。







「成る程。

試してみますか。」



「やってみろ、もしこれも貫通出来るなら、







会話の中。


一気に足元の魔力を炸裂させクラスが指を掛けているリボルバー。

それを左手で塞ぐ。








「ーーーー私にはそれを防ぐ手段はないッ!」



「ええ。」








破裂音が聞こえる。

銃弾が2発打ち込まれたのが解った。


数秒ほど経ち、ブレイズの左手から血の川が出来ているのが映像として出る。

リボルバーの瞬間火力が、青火の熱を突き抜いた。





無言で左腕を庇いながらも、至近戦に持ち込んだこの好機を逃すまいと青い炎を率いる右脚をクラスへと突き出す。


それは一旦クラスの腹へと衝突する。

だが、





クラスは服の中に魔力で形成した鎧を着込み、渾身の蹴りを防御する。

蹴り込んだ足の方がその硬さにぶつかり痛みに喘ぐ。


思わず右足を抑えたくなるが、無理矢理堪えて今度は左足の上段突き蹴りを放つ。





フィスタから見てもその体術は中々のものであり、クラスがそれに物怖じしない事に内心驚く。

 それはブレイズも同じであり、瞬間的に軌道を見切り後ろへ引き躱されたのに怒りを覚えた。


しかし焦っても何も変わらない。

視界正面に赤い炎を撒き散らし、即席の目眩しを作り出す。





クラスは付き合わんとばかりにその場から左へ飛び出そうとするが、流石にブレイズからしたら動きが緩慢であった。


右足の脛をスライディングで蹴り付け、クラスの動きを鈍らせる。

強烈な痛みにクラスは左足で飛び上がる。


その隙を逃すはずが無かった。






正面にクラスを捉え、一気に息を吸い上げる。


前へ軽い爆発で跳び上がり、縦回転しながら青い炎を纏う左踵落としを打ち出す。

クラスは何とか自然魔力を眼前に集約させ、踵のしょうげきを相殺する。


だが威力で大きく負けており、七割ほどの威力を胸元の辺りで喰らってしまう。








「〜ーーーーっ!」



「私の左腕の方が痛いッ!」








続けて両足を軸に回転し、そのまま飛び込んで全力の青火を吹き上がらせた体当たりをする。


クラスはそれを避けようとして右足を突っ張り、そのまま脹脛を攣ってしまう。

それが幸いして偶然姿勢を崩し、右肩への衝突だけで済む。






奇跡的に避けたクラスに、まだ止まらないとばかりの猛撃を仕掛ける。


右手に大量の赤い炎を蓄え、それをエントランス中央へ避難するクラスに浴びせる。

逃げるのに精一杯のクラスはその範囲攻撃を対処し切れず、体を高温の熱気で焼かれる。





喘息の様に息を荒げながら左足で踠き逃げるクラスの真上に青火で飛行する。


そうして、最後の一撃が放たれる。







「っ!そ、その出力はっ、



「私の必殺技だ。

倍以上はキツいから、安心して燃えろ。」



「ちょ、待って、








右腕と左腕の双方に溜められた青い炎が、巨大なバーナーの様に真下のクラスを炙り付ける。


誰が見ても恐怖するその攻撃に、クラスは瞬間どう思ったのか。


その攻撃は10秒近く行われた。





















ばたり、と倒れる。


地面に臥したその相手を見つめながら、言い放つ。








「ーーーー惜しかったですね。

ブレイズさん、貴女は今ので魔力を使い切りましたね?それならこの勝負、私の勝ちです。」











「お、お前、何を…………?」



「1度目の火炎放射で私を倒すべきでしたね。

2度目はほら、この通り。」



「っ?…………………盾……か……?」








強烈な高温を防御で凌ぎ切るには、一つの防具では足りなかった。


空中から放たれる青火は遠くからでもその熱気が伝わってくる程の温度である。

クラスは円形の自然魔力による盾を一枚創り、それが熱で溶け切るタイミングを計り連続で盾を創り続けた。


計5枚。

厚さ2cm程度の盾を体を覆う程の規模で創り続けるのはかなり苦しく、クラスに残された魔力ももうなけなしであった。







再装填するのにリボルバーを回す必要はなかったが、明確に今作れる弾数である2発を装填し、内1発をブレイズの左太腿に撃ち出す。


掻き切れる様な悲鳴を挙げる。

瀕死のブレイズに対し、クラスはもう1発の弾を打つ事はなく。






一発の弾を抜き出す。

それを改めてリボルバーに込め、態と勢いを付けて銃本体へと装填する。

弾倉部が横に嵌まった際の慣性で回り続けており、6発の内のどこに弾が入っているのか分からなくなってしまう。


それをブレイズの【頭】に突き付けて、引き金に指を置く。

ブレイズにその意図が伝わる。








「ーーーっ!や、止めろ!

負けで良い!私の負けで良いからッ!!」



「いいえ、もしかしたら何か攻撃する手段を隠している可能性もあります。

加減する訳にはいきません。」



「か、加減だと!?き、貴様。

私を脅しているだろうがっ!」



「精神的な恐怖感を与えて、貴女の活力を削ります。

まだこんなに大きな声が出せるんだ、魔力抜きでも私を捕らえるくらいは出来るんじゃないですか?ねぇ。」








クラスは眼鏡越しにその眼をブレイズに突き付け、森の中の梟の様な不気味さをブレイズに与えた。


何度も声を浴びせ続ける中、突然一発分の引き金を引く。

それはまるで息をする様に自然と引き抜かれた。





かちゃり、と。

空撃ちであった。






ブレイズは唖然とし、そのまま表情を固める。

クラスの真顔が何を考えているのか解らなくなり、途端に思考中枢を恐怖が支配した。


そんなブレイズに意も介さず、2度目の銃撃を放つ。

無駄撃ちであった。






「んい、や、やめて。

お願い、負けだから。先生、助け、



「かちゃり。」



「あ"ぁあぁぁあ"ああ"ぁっ!!」









ーーーーぇっ…………………

気絶してしまった。


その極限の追い詰め方を見ていた松薔薇は、嘗ての冷酷な自分の過去を思い出していた。





研究と称し魔物を解体していた時。

そのスキルの能力を畏怖され、化け物の様に扱われていた事。


彼の対象を解析、理解する能力は、相手の思考や行動を読むに至る。

それは他者からすれば人外そのものであり、もし今英雄と呼ばれている者たちと会うことがなければ、どうなっていたのかと思う事があった。






息を切らし急に倒れ込むクラスと、意識を途切れさせたブレイズの両者に魔力の治癒を施す。


そうして2名を回収し、先と同じ様に保健室へと連れて行った。









映像を見ていた者たちは全員が同じ事を思った。

【クラスは加虐嗜好者】と。


確かに追い詰める理屈は筋が通っている様に感じるが、幾らなんでもやり過ぎであった。

仮に実弾が放たれていたら彼女はその強烈な空気圧で頭を思い切り地面に打ち付けられ、今以上の地獄を見ていただろう。





普段強気な性格であるブレイズがあれ程までに負の感情に包まれるというのは相当の事態だ。


フレムはブレイズの容態を心配して保健室に向かった。









尚、同じくSっ気のあるナジャからすると先の勝ち気なブレイズが泣いて鳴いて恐怖に喚く状況は非常に興奮する物であった。


横で一緒に見ていたソディアが思わず後退るほどの荒い息を上げていたのだ。






こうして、第二試合は初日のソディアの試合に引けを取らないほどの恥をブレイズが晒して終了となった。


後にブレイズがクラスに対して苦手意識を持ってしまうのだが、必然と言える話であった。


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