二十九話 団体戦最終日
今回は色々と接触があります。
二十九話
時は流れ4日後。
団体戦もとい勝ち残り戦最終日。
最終的に残ったメンバーはやはり6日目時点で頭角を現していた表生徒のフィスタ、クラス、ソディア。
そして裏生徒のガトレット、ブレイズ。
10日目の今日、初日の6日目と同じく激戦が予想される。
果たしてその結末はいかに。
「ーーーーって所だね。
他の生徒は皆今日の試合がどうなるかがメインだーって騒いでたよ。
皆、今日は頑張ろうね。」
「おう、ガトレット。
もし俺とお前が当たったら、その時は勿論全力だぜ。」
「おいおい二人共………保健室の負け組を傍に話す内容じゃないだろ。
ちょっとは遠慮してくれよな。」
「まぁ良いのではないかブレイド?
6日目は私も泣きが入ったからな。
二度とあんな醜態は晒さないつもりだし、ブレイドも心機一転で今日の試合を見届けてくれ。」
本日はこれまでの様な実力未知数の生徒達を炙り出す物ではなく、既に素晴らしい実力を持った者同士が戦う事が決定している。
それにより5分ごとでの試合開始ではなく、8時10分から開始ではなく9時からとなる。
そして第一試合の内容は、
「…………ガトレット対、フィスタ。
本日9時より行う第一試合はこの二名が先陣となります。
準備をしておく様に。」
その内容発表を保健室で聞いた瞬間、二名の間に迸る様な視線が交わされる。
そう、フィスタにとってはブレイドの仇でもあり似た戦闘スタイルの珍しい手合いでもある。
それはガトレットとしても同じ事であり、6日目にグラプロ戦で見せた鮮やかな身のこなしを実際に感じてみたいと思っていた。
この試合、どうなるのか。
続けて発表されていく。
「第二試合は10時からとなります。
ブレイズ対…………クラス。」
あまり想定していなかったマッチアップ。
お互いが顔を見て、瞬時に攻略法を模索する。
どうやって倒したものか。
「11時開始の試合は、第一試合で勝ち残った者と第二試合で勝ち残った者同士で戦って下さい。」
未来の話にはなるが、勝ち上がってくるのがどちらかで対処法がかなり変わってくる。
どうしたものかと考え始める。
だがソディアの対戦相手が奇数の関係上居ない。
一体松薔薇先生はどうするつもりなのか。
横に立つアラガンは、その予定表であろう紙を軽く覗き見て驚いた。
そこに書かれていた内容。
それは、
「12時からの第四試合は、ソディアに事前の対戦相手候補を訊きました。
誰と戦いたいのかを聞いた結果、対戦相手はブレイドという事になりました。
尚、これでソディアが負けた場合ブレイドは決勝に上がる形になります。」
「何だと………?
ソディアこれ本当か?俺、準決勝に出られるのか。」
「あぁ、本当だよ。
前に言っただろ?勝ち残って君と戦うと。
約束は果たして貰うからな。」
「………っ、あぁ。
お前の期待に応えられる様にするよ。」
そんな会話が行われているのを軽く想定しながら、松薔薇は13時、午後1時のマッチアップを説明する。
「第三試合で残った4分の1の誰かと、第四試合の二分の一で残った方同士で13時からの決勝戦を行います。
それを以て本日のトーナメントは終了となりますので、他の生徒は立ち去らず最後まで見届ける様に。」
そうして時刻8時現在、校舎全体では大きな盛り上がりが起こっていた。
誰が勝つのか、どうなるのか、例年と比べても段違いの強さを持つ一年達の精鋭に関する話題は止まる事なく騒がれ続ける。
そして、保健室から塊となって表生徒5名と裏生徒5名が校舎内の食堂に集まり始める。
和気藹々とした様子の10名を目撃した他の生徒達は、誰でも良いから話がしてみたいと周りへ集まり始める。
「おーいブレイド、下剋上頑張れよー!」
「クラスって強かったのね、文武両道で素敵ぃいぃい!!」
「フィスタ、熱い戦い見せてくれよな!」
他にもデガーの負けっぷりが逆に恰好良いだとかガトレットは女装したら性別軽く誤魔化せる等軽口を叩く生徒達も多かったが、皆が皆今回のトーナメント戦を楽しんでいた。
揶揄われているのが解ったガトレットは思いもしない女装が似合う発言を聞きとってしまった。
学院に来る前の15歳の時に母親にワンピースやスカート類を穿かされた記憶を思い出し咄嗟にブレイドの横にくっつき始める。
ブレイドに密着して移動する様がどう見ても乙女なせいでソディアは一瞬反応が遅れたが、まぁ女子じゃないから問題無いかなと置いておく事にした。
そんなソディアのあの醜態に関しての話が飛んでくる。
普段は分かりにくいけどかなり色気のある体だとか、性格も相まって男子も女子もどっちも結構な人数がファンになっているらしい。
男子は余りにも魅力のあるその体や凛とした立ち居振る舞いに、女子は麗人然とするその女性らしからぬ気高い在り方に惚れていた。
それを耳にしてソディアも思わず顔を赤くして9名の中心に避難してしまう。
時折見せる女子らしさがギャップを感じさせて可愛いと言う声が聞こえてきて、もはや出てくる事は無かった。
デガーとグラプロは、その縁の下と言う言葉の似合う隠れた実力者として強者マニアの間で議論が交わされていた。
デガーがクラス以外とぶつかっていたらどうなっていたのか。
グラプロのあの攻撃はどの生徒に対しても万能である為1番伸び代があるんじゃないかと言う考察には当人らも含めて成る程と思った。
フィスタやフレムは身体能力と魔力の部門で1番の成績であったが、今回ガトレットやブレイズという対になる存在が現れ一強の環境が変わったと話題が広がる。
何故あれだけの力があって試験では成績を残さなかったのか疑問視する声も多かったが、目立ちたがりとは思えないという意見に二人は刹那脚を止める。
その通りもその通り、自然と周囲の声は当人達にも聞こえてくる。
全員が一旦解散して行動を別にする。
ブレイドとソディアは二人で朝食を摂り。
クラスとフレムはデガーとブレイズを誘って今日の試合に関して話をしながら時間を潰す。
フィスタとナジャは孤立していたガトレットとグラプロを手招きし、ナジャを審判にして腕相撲を始める。
色々と内容が気になるところではあるが、そんな時想定もしていない面子が食堂に顔を見せた。
その人物は、団体戦の頃から特に話題に挙がる事が少なくどちらかと言えば教師間の間で騒動になっていた人物。
本日の早朝5時から6時まで瞑想、6時から8時までロルナレ家の連中に稽古を付けている人物。
巳浦であった。
周りを囲む様にアラガン以外のロルナレ家の者、具体的には教師のエイガや騎士のイジャエが巳浦と稽古の話を振り返りながら食堂に来ていた。
ソディアと話をしていたブレイドは、8時過ぎの時間帯は食堂を利用する生徒が居ないから会う機会のない巳浦やロルナレ家の人達と突然再会して反射的に飛んで行く。
ソディアは急に飛んで行ってしまうブレイドに何となく付いて行く。
そこにはエイガ先生に見慣れぬ金髪の女性、そしてどこかブレイドに似た雰囲気を醸す男性が居た。
六月の終わり以降会っていなかった為ブレイドは巳浦に色々な出来事があったと楽しそうに話しており、まるで年齢的に親子の様に見えた。
巳浦は団体戦や勝ち残り戦の内容を知らず初めて事の次第を聞いていたのだが、ブレイドが負けた話を耳にして感心していた。
「そんな子が居るのか、随分強いんだな。
にしてもブレイドお前、後ろにいる子は?」
「ソディア、俺の大事な人だよ。」
「!…………あぁ、本当に色々あったんだな。
ソディアちゃんか、ブレイドの事見守ってやってくれ。
コイツは若い時の俺と良く似てる、だから性格も解ってるつもりだ。」
「ーーーーは、はい!
あの、私はその、ブレイドの、」
「彼女なんだろ。
体付きを見た所剣士か、肩周りや脹脛が強そうだ、踏み込むタイプの剣士か?一刀使いだな?」
「………え?
はい、そうです。」
「そうか。
一刀は多刀に比べて手数に劣る、その一太刀が仮に相手に当たるとしても、その後の自分の姿勢や展開がどうなるかも考慮して時には打ち込まないのが適解になる事もある。
二手先三手先を考えるのが一刀使いの本質だ、余計な世話だろうが教えておくぞ。」
「な、なるほど、確かに返される事も多い場面が多々あって困っていたんです。
巳浦、先生ですか?初めて拝見したばかりなのに何故そこまで私の事が解るのですか?」
「慣れだな。
例えばソディアちゃんは体の練度に対して少し息が上がるのが早い感じがするな。
気のせいかもしれないが、もしかしたら息苦しくなる様な事を体に強いてるんじゃないのか、晒しとか重りとか、さ。」
見てるんじゃない、観てるんだ、視てるんだ。
人の本質を、内面を。
この人は、一体。
ソディアは不気味と思う事はなくただ立ち尽くしてブレイドと話すその教師の背中を見つめていた。
彼が、初めて会った時にブレイドが言っていた巳浦先生かと記憶が蘇る。
そうか、確かにこの人は普通じゃない。
そんなソディアの肩を後ろから突いてくる人がいた。
何かと思えば、金髪の女性がそこにいた。
「私はイジャエって言います。
バルト王国で王城や国王の警備をしてるんだけど、貴女とても鍛えているのね。
重心とかかなり安定しているし、良かったらブレイドと一緒に七月中旬くらいから朝稽古に来ると良いよ。」
「え、はい!
ありがとうございます!イジャエさん!」
「ふふ、羨ましいな私。
好きな人と一緒に居られるなんて羨ましい。」
イジャエは不意に巳浦の横顔に届かない物を見守る視線を送る。
ソディアは直感で事情を察したが、確かにそれは厳しいだろうなと理解した。
そうして食堂端まで移動し始める巳浦達一行を見届けながら、ソディアはある疑問を抱く。
彼は何処に武器を持っているのだろう、と。
当然の謎ではあるが、無論空間に刀剣を顕現させるなど想像出来るはずもなく、7月の初めに見せられたロルナレ家以外はブレイドさえも知らないのだ。
底も天井も見えない謎の多い巳浦は英雄の中でもとりわけ特別な部類ではあるのだが、一般のものからすれば英雄も大英雄も反英雄も到底理解できる次元ではない。
戻ってきたブレイドに先程イジャエに言われた提案について話す。
「誘われたのか、じゃあ丁度いいな。
7月11日からは二年生の団体戦が始まるから、そのタイミングから一緒にバルト城の訓練場に朝6時から行くぞ。」
「朝の6時か?かなり早いのだな。」
「巳浦じいさん……巳浦先生は朝5時から瞑想を始めるんだぜ。
6時から8時まではロルナレ家のアラガン校長や王城料理長のルーラン先生達を全員相手取っての剣術訓練をしてんだ。
そこに混ぜてもらう形になるな。」
「そうか、解った。
心構えはしておく。」
因みに何故巳浦が王城ではなく学院で食事を摂っているのかといえば、一応形式としては教師として国に在籍している為月に何度かは学院に来ないと駄目だからである。
来ても別段授業を執り行う事も無いのだが、今日は奇跡的に出会った事になる。
すると後ろから松薔薇がアラガン校長と何やら日程に関して話しながら食堂に来るのが分かった。
一瞬だがその視線が書類から巳浦に向けられる。
偶々学院に来て居る事だけを把握し、特に話す事も無いのかそのまま適当な席に座りコーヒーを飲み始める。
この食堂には今一人の英雄と一人の大英雄が共に居るのだが、当人達の戦いを目にしたことがない以上生徒達は畏れ多くもトーナメントに関しての話題を続ける。
無駄に関わるのは恐らく不味いという空気が流れており喋りたくても喋れないというのが実情だが、クラスは席の三人に言葉を掛けて席を立つと、なんと松薔薇の席へと向かう。
近づいて行き、書類に目を通す松薔薇に声を掛ける。
以前から気になっており、今回偶然会話する機会ができた為話してみようと思っていた。
「あ、あの、松薔薇先生。
少しお話しする時間はありますでしょうか?」
「ん?クラスですか、どうぞ。
書類確認は粗方終りました、私も貴方に確認したいことがありますから丁度良いです。」
「た、助かります。
じゃあその、前の席に失礼します。」
そう言ってそわそわとするクラスに対して松薔薇が時折眼鏡の奥から優しい目付きになるのが遠くで食事を摂る巳浦には分かった。
そうか、あいつの子孫だったのかと。
松薔薇は表生徒の男子4名の血縁関係は把握していたが、巳浦は知らなかった為少し周りの生徒達に意識を向け始めていた。
そうして勝ち残り戦の前に様々な事態が進行する中。
トーナメント戦開始への時間は確実に近づいて行く。




