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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月上旬 団体戦
30/113

二十七話 秘めた才能

気分が乗ったので続きです。








12時10分より開始したEブロックの試合。


他のブロックでは主に男性が目新しい活躍を残していたが、女性陣でも強烈な実力を誇るブレイズなる生徒がCブロックのフレムを倒した事でEブロックのソディアやナジャにも期待が寄せられていた。



当人たちからすれば迷惑な期待感ではあったが、兎にも角にも勝ち抜くつもりに変わりはない。







ソディアは使用予定の木剣を右の腰に提げて自身の番号である1番を見つめていた。


1番。

…………。









「さ、最初!?

強い人は後半に呼ばれるはずではないのか…?

自分で言いたくはないが。」



「貴方もなの?

私も2番だった、仲良くしましょ。」



「な、ナジャ。

この流れで負けずに行くと、最後の最後にぶつかる事になるな。

が、頑張って残ろう。」



「えぇ、雑魚を蹴散らして今日最後に相応しい最終戦を皆んなに贈りましょう。」








背後でナイフ状の木剣をじっくり見つめるナジャを気味悪く思いながら、周囲の空気がこちらに注目している事に気づいた。


もしかして、先程の会話内容に怒っているのだろうか?

勝って当然の様な言い振りだったし、怒るのも当たり前だろう。






身の程を弁えようと心に釘を刺していると、松薔薇さんの試合開始の合図が宣告される。









「では、1番から4番の四人、縄に入り試合を始めます。

直ちに位置に着きなさい。」








(緊張する。

だが、ブレイドとの稽古で私も自信を付けた。

簡単には負けないぞ!)






勝つ。

勝って、せめてブレイドの代わりに良い結果を残すんだ。


その為にも、対戦相手の人には申し訳ないが負けて貰う。










「ソディアの実際の強さは知らねえが、俺だって女に負けるのはプライドが許さねえ!

勝つのは俺だ!」







対戦相手の青年は背を向けていたソディアに気持ちで勝ちにいこうと声を上げる。


周りが目立っているだけで、途中途中の生徒達も結果を残そうと頑張っているんだ。



俺達は主役じゃないかも知れない。

だけど、脇役だろうと頑張っても良いじゃねえかよ。






気持ちを再確認し、ソディアの方に顔を向ける。

絶対に怯まないつもりで彼女の顔を見返した。


……………なん、だよ。

その、表情。







「……………ん、あぁ。

もう始まっている、来て貰って構わないよ。」



「お、おう。

い、行くぜ!おらぁ!」







ソディアの顔は、突然人格でも切り替わったかの様に先程のお上りさんだった調子が鋭く冷たい雰囲気に変わっていた。



それは、周りの観戦者達にも伝わっていた。









相手を即小口でハメ倒したナジャが背中から感じた悪寒に振り向くと、そこには対戦者を緊張感で一歩も動かせなくさせているソディアが居た。


お世辞にも女子のしていい顔ではない。

まるで鷹の様な、冷酷な目をしていた。




(お相手はどうするのかしら。

ーーーーーいや、違うわね。)





「ソディアは、彼をどうするつもりなのかしら。」












足が震えて動けずにいる彼に、確りとした足取りで近付いていく。



未だ木剣は抜いていないが、彼も手に得物は握っていない。

構わないだろう。







段々と近付いていく。

距離が縮まる。









ぼんやりしていたら、いつの間にか手の届く距離まで彼女が来ていた。



焦って腰の木剣を抜く。

いや、おかしい。


手に握った感触がない。

なぜ。





前を見ると、何故か二刀の木剣を両手に握る彼女が居た。

どうやら放心していた一瞬に盗られていたらしい。



まずい、どうしようも無くなってしまった。

急いで状況を打破する策を考えるが、どうにも無理そうである。




試しに訊いてみる。









「あ、あの、返して貰えるか?」



「うーむーーーーーーーー駄目だ。」



「だよ、ね。

負けで良いよ、ぼけっとした俺が悪い。」








驚いた。

反射的に聞き返す。









「良いのか?

もしやすれば勝てるかも知れないぞ。」



「無理だろ。

団体戦の映像で、皆んなソディアとナジャの強さは解ってる。

無駄に怪我を負うくらいならまだ冷静な判断で松薔薇様に評価を貰った方が良い。」



「そういう、ものか。そうか、解った。

縄を出てくれ、そうすれば君の負けだ。」



「あぁ、戦いにならなくて悪いな。

頑張れよ。」



「こちらこそ、君の活躍を応援するよ。

お疲れ様。」








動悸が胸に走る。

彼女の人の良さに、自然な笑う顔の明るさが、彼の心を鷲掴みにしてしまった。



縄を出た後、彼は暫くソディアの周りをウロウロしていたがナジャにしばかれて渋々帰って行った。


















「5番の人か。

宜しく頼むぞ。」



「おお、ソディア、君と戦ってみたかった。

手加減はいらない、全力でやろう!」








む。

全力か。




対戦相手の男性を観察する。


背丈はまあまぁ、体は………少し筋肉質かな。

性格は、まぁ好きではないか。



まぁ良いだろう、このぐらいの男なら問題無さそうだ。

木剣を引き抜く。







「おお、抜いてくれるか!

私は君をこの縄で拘束する、だから体を触る事になるがそれは赦してくれ。」



「あぁ分かった。

では手合わせ願う。」










ソディアの、変態を前に全く動じない態度に周囲の女子生徒が騒つく。



ソディア、カッコいい〜!

変態なんかやっつけろー!

ブレイドの仇と思ってやれぇッ!






何故ブレイドの仇と思わなければいけないのか謎だが、とにかく好かない相手なのは間違いない。


ソディアは、威勢よく飛び掛かってくる男子生徒を前に、刀を構える。






柄を両手で握り、両肘を曲げ肩より上の標高まで剣先を上げる古風な一刀流の迎え方は、一太刀で獲物を仕留める猛禽類にも似た圧を感じた。


何より、静謐で美しささえ感じるほどの洗練された構えは、団体戦の映像では見なかった物であった。


それを見る物達は、思わず息を止めてしまう。








対する男子は、そんな彼女を見ても尚構う事なく突撃する。

側から見るとそれは自爆にしか見えなかった。








「ソディアアアァアアァァアアッ!!

俺に縛られろォォオオォオッ!!」



「何とも気持ち悪いな、解った。

縛られないが、斬ってやる。」








荒い吐息を漏らしながら上空より飛び込んでくる彼。





そんな中、彼女は【一瞬だけ】全身に魔力を流し、肉体の速度限界を超える。


時間にして0.3秒あるかないかで練り出した電気魔力で肉体の動きを高速にし、上から斜めに斬る様に剣を振り下ろした。


その際、斬撃の瞬間に合わせて体の魔力を木剣に集中させ電気を纏った強烈な一太刀に変化させたのを、松薔薇率いる教師達やブレイズ達生徒一行は目視した。







松薔薇は不意に口にする。







「何と、無駄のない。

最低限の電気魔力で体を強化して飛び込んでくる相手に最適化した一撃を合わせる。

 更に、速度が乗り切ったタイミングで肉体に回していた魔力を剣に回し、無駄に魔力を消費せずに抑えた。

凄まじいセンスだ、下手をすればブレイドよりも強いかも知れません。」










そして、ブレイズは同じ女子生徒として注目していたソディアのその天性の才を感じさせる一撃を見て、内心心躍らせていた。



(何だ、男子四人組よりも強いじゃないか。

私も珍しく興奮してきた。

彼女と戦うのが楽しみだな。)











彼は、胸に付けられた感電による火傷を愛おしそうに撫でながら倒れた。


最後まで気持ち悪かったが、ここまで潔いといっそ好感すら持てた。







ソディアは、ほぼ魔力を消費する事なく試合を終えて、息一つ乱さないままその場に正座した。


武道における残心、その理想形がそこにはあった。






















「ーーーーふぅ、9戦目完了。

見ててね、フィスタ。」






ナジャは、相手の脇腹や顳顬などの弱点を木剣で殴り付け地味な勝利を積んでいく。

こちらもまた、一切の魔力を見せず淡々と勝っていく光景を注目されていた。


いや、魔力を使える人間の方が現段階では寧ろ珍しいのだが、今年の一年は異常に強いので浮いて見えているだけだ。






ソディアの方はと言うと、












「ま、参りました。」



「あぁ、お疲れ様。

あ、さっき手首を打ったろう、痣になるだろうから後で塗り薬を使っておくんだぞ?」



「〜〜ッ!は、はいっ!

ご心配ありがとうございます!」



「敬語は要らないぞ?はっはっ。

ではな。」








「……………何、あの状況。

ソディアの対戦相手の女の子、完全に惚れてるじゃない。」









相手の女の子はソディア相手に頑張って短剣を振り回していたのだが、剣すら使わずにソディアの身のこなしだけで遇らわれてしまった。


最後は右手首を思い切り手刀で打たれて得物を落としてしまい、それを奪われて終了だ。




然りげ無く武器を没収している所とか、ちゃんと徹底しているのね。

態度とは反対の行動をする彼女に一種の恐怖を感じたが、ナジャもまた実力を伏せている身。

条件は五分五分だ。








ナジャはソディアの縄の方に移動する。

こちらを最終試合の縄にする事にした。









「ねぇソディア。

お互い殆ど手の内を見せていない訳だけど、ここからが本番って事で良いのよね?」



「ん………………あぁ、そうなるな。

私としてもナジャ、君の戦闘スタイルが気になっている所だ。

全力で戦おう。」



「…………そうね。

私の速度に貴方がついて来れれば、だけど。」



「ん?」








彼女は、自身の未だ見せていない戦法がどれだけソディアに効くのか不安に思いながらも、時間を待つのだった。

















「ーーーーーーでは、これより1番と2番の最終試合を行います。

二人とも、5秒前。」



「…………」

「…………」




「4、3、2、」








息を飲み込む。

瞬きをして、前に顔を向ける。






「ーーーーー開始。」










目の前からナジャが消える。


驚き、焦って右横へ飛ぶ。





顔に風が当たる。

左に向き直ると、






「ッ…………それが、ナジャの戦い方、なのか。

恐ろしく速い、正直見えなかったよ。」



「ふん、避けた癖に。」



「いや、偶々だよ。

これは、私も最初から本気で行った方が良さそうだ。」








全身から赤い霧の加速魔力を噴出させるナジャを見て、ソディアもまたここまでに温存していた魔力を全身に巡らせる。



それは彼女の足先から頭を駆けるような電流で、これから二人の間で繰り広げられる戦闘の熾烈さを物語っていた。















「あれが、君の彼女さんなんだ。

ーーーーー強い。」



「あぁ、あいつは強いよ。

しかも、俺が知ってる時より強くなってる。」



「あぁ、俺の方もそうだ。

ブレイド、俺達はもっと強くならなくちゃならねぇみてえだ。」






「あぁ。

ーーーーーあぁ、グラプロとか言う奴の見舞いか。

何で全員集まってくるかなぁ。」



「まぁ、構わないでしょう。

私もデガーさんには色々酷い事しましたから、お見舞いに来てる訳ですし。」







デガーは保健室で吠える。







「ざけんなぁ!

敗者に情けとは許せねぇ、後で潰ぅすッ!」



「そうですか、待ってます。」



「こんにゃろおっ!」








そんな保健室の中でブレイズはフレムのベッドに座っていた。

彼の傷を見ながらも、ナジャとソディアのどちらが勝ち上がってくるのか楽しみで内心仕方がなかったのだ。



ふと感情が昂まり、漏れた青い熱魔力がフレムに当たる。







「すぅーーーーーーー熱っ!?」



「あ、すまない。」



「っ…………まぁ、良いよ。

次は気を付けてね。」



「どれ、私が火傷を見てみます。

ブレイズさんは少し横にずれてください。」








「………………今頃、じいさんは城で精神統一でもしてんだろうな。」








ブレイドは、これからどうやって強くなるか考えていた。

悔しいが、今の目標はソディアに恥じない男になる事とガトレットへの再戦及び勝利だ。




その為にも、今はゆっくり休む事にした。

ガトレットはブレイドを見守りながら、ブレイズと共に外の試合を観戦する事にした。




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