二十六話 青い炎
夜中に起きたので続きです。
10時10分より開始されたCブロック。
経過を省略し最終戦まで時間は飛ぶ。
「ーーーーー12番、20番。
10時55分より開始ですので中で準備を。」
「………」
「…………」
フレムはここまでの流れを整理する。
正面にいる女はブレイズ。
恐らくだが自身と同じ熱魔力の使い手。
だが不明な点がある。
未だ手の内を明かさず最低限の魔力使用のみで攻撃を行なっているのだ。
先のフィスタ対グラプロの時も似た様な状況だった、やはり易々と手を明かす者はいない。
相手の容貌を見る。
自身と同じ程度の背。
雰囲気も何やら似ているが、明確に違う点が一つある。
それは。
ひらりと、髪が舞う。
「………はぁ、女子か。」
ここまでの試合で女子生徒が最後まで勝ち上がる事が無かった為妙な感覚である。
だがその首辺りで切り揃えられているショートカットの髪が白色のせいか、周りと空気がずれている様にも感じた。
黒髪以外の人間も居るにはいるが、白は珍しい。
この場合は少し悪目立ちだ。
しかも、さっきから視線を外してる僕に対してずっと睨む様な視線を送り付けてくる。
何だ、僕が何かしたのか。
身に覚えがない。
時間が経ち松薔薇が試合開始の準備を始める。
フレムは意を決してその視線に対して静かに見つめ返す。
改めて見ると、何とも戦う気の失せる対面だ。
ブレイドやフィスタが羨ましく感じる。
思わず顔に釈然としない表情が出る。
だが、それがまずかった。
「おい。」
「………何。
無駄な会話をする気はないよ。」
試合前なのでこちらに踏み寄ってくる。
突然強気な態度で接せられて一瞬戸惑いはしたが、面と向かってこちらも向き直る。
「さっきの目は何だ。
私と戦うのが嫌なのか?女だからか?」
「………それを聞いて何か結果が変わるの。
僕は単に男と戦いたかったからがっかりしただけだよ。」
「ほう、そうか。
女に対して手加減する常識思想がある様だ。
お前、負けて恥晒しにならないよう気を付けておけ。」
「何だと。」
聞き捨てならない挑発を受けて流石に態度が荒れる。
だが、その堂々とした振る舞いに少し嫉妬する自分の心の弱さに少し引け目を感じる。
精神的に追い込まれてる、僕が。
松薔薇のカウントが始まる。
「5秒前。」
僕が彼女に何かしたのか。
理由は分からないが、どうにも快く思われて居ないらしい。
どちらにしても勝ちに行くが、何だかやり難いものだ。
正面に逆手持ちのライターを構える。
この状態でダガーの様に振り抜くと炎を振り撒く事ができる。
ここまでで使ってきた戦法だ。
それに対してブレイズは、
……………これは。
何だ。
体が、燃え上がっている。
彼女の髪を逆立たせる様に体から噴出するその炎は青く燃焼していた。
青い炎?
赤じゃないのか、普通は。
フレムは様子を見ようとして一瞬距離を置こうとした。
その時には既に、
背後が青く照らされる。
何ーーーーー
「反応が遅い。
炎の噴き出す推進力で移動したんだ。
…………聞いているか?」
「熱っ………僕が炎を反射的に出してなかったら、大火傷だったな。」
フレムは背中に全開で熱魔力を集中させその強烈な青火を相殺した。
ギリギリではあったが威力を大きく殺すことに成功した。
まぁそれでも、
背中に縦一本の火傷が残る。
横2センチ縦30センチ程度の火傷だ。
火傷を負うのなんて随分久しぶりで痛みが苛立たしく感じる。
彼女の方を向く。
全身を青く照らし存在感を放つブレイズ。
そうだ、青い炎は赤い火よりも温度が高い。
だから僕の魔力は直接衝突しても威力負けする。
これは、どうするべきか。
考えようとしたが、瞬きする間に正面へ青い炎が飛び込んでくる。
ブレイズの突進だ。
こうなったら色々試すしかない。
ライターを正面に向け、全力の魔力を込める。
ブレイズはお構いなしにフレムの胴目掛けて頭突きをかます。
だが。
青い炎とフレムとの間から赤い炎が凄まじい勢いで放出される。
威力自体は負けているが、魔力の総量には自信があるんだ。
ライターに全開の力を込めて、後ろにふらついたブレイズに突きを入れる。
彼女の腹に当てた瞬間に大量の炎を撃ち出す。
質量による押し出しで空中に打ち上げられる。
よし、威力では劣るが出力はこちらの勝ち。
滞空しているブレイズに対してライターから圧縮した炎を撃ち出す。
「お前っ」
「縄の外に弾き出されたら君の負けだろ。
ほら、馬鹿みたいに突っ込んできたら?」
「……………解った。
だったら次の段階だ。」
自身に直撃する炎によりそのまま縄の淵まで追い込まれる。
側から見ても危険な立ち位置である事が分かる。
だが先程口にした次の段階という言葉に薄い危険を感じたフレムは、考えが纏まるより先にブレイズに攻撃する。
チャージを終えたライターを腹に当て、フレムは問う。
「これ以上まだ、何か出来る?
もう詰みじゃないの。」
「そう感じるか。
だったら撃ってみろ、答えが分かる。」
「………あぁそ。
じゃあね。」
全出力でライターの火吹き口から魔力を放つ。
彼女の体は勢いよく縄の外へ弾き出される。
フレムはこのまま場外落下で勝ちになるまでの流れを想像していた。
このまま勝ち残って、そしたらフィスタ達と、
その時だ。
再び。
背中から周囲10数mを巻き込む様な青い炎が一瞬霧散した。
瞬時に後ろへ振り向く。
……………居ない。
「ブレイズが、居ない。」
「後ろだよ。」
「へ、
青い奔流を纏った蹴りが、【空中から】襲い掛かってきた。
想定外の攻撃に考えも纏まらない内に外に弾き出される。
目を見開くと、
地面。
「ーーーーーちょ、」
ライターで地面を殴り付け、壊す勢いで魔力を集約させる。
地面に体が付く直前で、ライターの爆発と共にフレムはステージ内に戻る。
紙一重での対処だった。
ただ先の攻撃の様な撃ち出しでは出力不足で自分を浮かせる事など出来ない。
何とか機械を爆発させて、魔力が散る反動を利用して間一髪。
息を荒くしながら、空を見上げる。
とても不思議な光景だった。
ーーーーー人が、浮いてる。
ブレイズは全身から立ち上る炎をバーナーの様に集中させて、それを完全に制御し空中での機動力を得ていた。
こんな事が、出来るのか。
…………いや、出来るのかもしれない。
事実僕も、さっき魔力の勢いを利用して一瞬空に飛び上がった。
彼女のそれは滞空でなく飛空だが、上手く制御出来れば魔力には未知の可能性が。
…………クラスが、僕の魔力を使って以前銃身を作り出したのを思い出す。
もし繊細な魔力操作が可能なら、がむしゃらに魔力を放つだけでなくブレイズの様に熱魔力を使い熟す事も出来るのか。
残った魔力を全身に滲ませる。
ブレイズは怪訝に思いフレムを睨む。
(私の真似事か?
一朝一夕で出来る訳が無いだろう。)
地上に戻り、魔力を一旦切る。
無駄に浮いていても燃費が悪い。
フレムの事は入学テストの際から意識していた。
私の様に実力を晒すリスクや影響を考え目立たぬ様に調整する人間がいる一方、目立ちたがりの人間が同じように存在する。
魔力総量も実際は私の方が多いし、魔力の火力だってそうだ。
威力も出力も私の方が上なのに、なんでこんな生意気な根暗に表面上とはいえ負けなければならないのか。
ガトレットやグラプロの様に力を隠して目立たぬ様にする人間達は利口だ。
目立つというのは狙われるという事。
事実団体戦ではまず彼らのチームから集中的に狙われた。
もしこれが自身より力のある者だったら、真っ先に潰されていたという意味でもある。
考えなしの馬鹿には心底腹が立つ。
先程から残り僅かな魔力を体に纏い必死に堪えているフレムは、無言でこちらを見つめてくるブレイズに構う事なくこの場を打開する方法を考えていた。
だが、どう考えても戦力差が有りすぎた。
おまけに彼女の様子からして未だ余力がある。
到底勝てそうにない。
ーーーーーーはぁ、ここまでか。
フレムは全身の魔力を右手に集め、炎を圧縮する。
ブレイズはそれを黙って見ていた。
何が出来るのか最後まで踊らせているのだ。
フレムは魔力が無駄に空間へ散り散りにならない様に気を配りながら、右手首を左手で握り締めて集中する。
意識するのは、あの炎。
青く、強烈な熱気を纏う高温の炎。
赤い炎が段々とその幅を狭めていく。
右手に燃え上がっていたスイカ大の大きさもあった炎は、それを今やオレンジ程の大きさまで圧縮させていた。
そして、その炎は色を少しずつ変色させていき。
「ーーーー何だと。
お前、青い炎を使えたのか?なぜ隠していた!?
私を馬鹿にしていたのかッ!」
「あぁもぅ、煩い。
使えなかったよ、だから今出来る様にした。
僕の炎の質が悪いって事は、正しく練ればそれだけ良質な炎になる余地があったって事だろ?」
右手を纏う青い炎を一旦消して、右手に青火、左手に赤火を別々に照らし出す。
見ている者達にもとても分かり易い理屈であった。
濃度の違いである。
どれだけ一定の空間内に魔力を集中させるかで魔力はその性質を変化させる。
熱魔力の場合は色や温度に影響が出るという事であった。
松薔薇は、戦闘の最中一段と強くなったフレムを見てその応用力に驚いていた。
これだけの相手を敵に、冷静に力量差を把握して魔力精度を向上させるとは、
「嘗て【黒炎】をその手に纏い戦っていた永澤の強さがどれだけのものであったか、再認識させられますね。」
炎の英雄永澤。
彼の両手には黒い炎と紫の炎が灯っていましたが、流石にあの領域にこの子達が達する事は無いでしょうね。
とはいえ、大した者ですよ。
本当に素晴らしい。
フレムは体中から汗を流しつつ、ブレイズの顔から視線を外さなかった。
まだ終わってはいない。
だが。
その手に宿していた両の炎が突然根本から消えてしまう。
魔力切れだ。
疲労困憊でその場に倒れ込んでしまうフレムを、ブレイズはずっと睨み付けていた。
「ーーーーー勝者12番、ブレイズ。
11時から11時10分の試合開始時間までにDブロックの生徒は準備を済ませておく様に。」
「よお、お前も来たかフレム。」
「………ブレイド。
何でガトレットと一緒に居るの。」
「彼は僕の友達になってくれたんだ。
だから色々と好みだったり世間話をしていたんだよ。
初めまして、フレムとブレイズ。」
「……………は。
馴れ合うつもりはない、フレムは同じ熱魔力の使い手として見込みが有る。
だから同じ魔力の誼で医務室まで付き添ってやっただけだ。」
「ブレイズ、今日は熱魔力の良い勉強ができた。
僕もまだまだ強くなれることが分かったから、またいつか戦おうね。」
「………あぁ、そうだな。
青の炎を使い熟すお前なら、ある程度戦いになるだろう。
頑張って修行しておけ。」
「うん。
付き添いありがとう、じゃあね。」
「ふん…………………………じゃあな。」
フレムはその会話を最後に疲労で倒れ込んだ。
結局ブレイズは部屋から出ようとした手を止め、フレムの看病をする事になった。
ガトレットは手際よくタオルや寝相を整えてやるブレイズを見てぼそりと、
「奥さんみたいだ………」
と言ったのを地獄耳で聞き取り、
ガトレットに怒鳴り付ける事態となっていた。
そんな会話を耳にしながら、ブレイドは思う。
(なぁクラス。
俺やフィスタなんかは個人で強いから良いけど、お前は大丈夫なのか?)
「ーーーーおお、流石は私の子孫。
これは何と言えば良いのか、嬉しい限りです。」
クラスは、目の前で痣だらけになり倒れ伏した15番の生徒にお辞儀をし、右手に握り締めていた拳銃を自然魔力に戻し大気へ戻す。
対戦相手の裏生徒【デガー】。
片手ナイフ大の木剣に電撃を纏わせる戦法を目の前にして尚、一切の油断も緊張もないままに淡々と脳に描いた装備を大気から作り出し使い捨てていった。
デガーも、最初はクラスの魔力を固めた空気弾や精度の甘い槍投げをいなし調子付いていた。
が、途端に弱々しい態度から鳥肌の立つ様な冷酷な雰囲気を纏ったクラスによって遠距離からの機関銃、狙撃、至近距離での両手ナイフ等のあまりに多彩な攻撃に対応が完全に後手に回り始め、
11時55分からたったの2分、11時57分で残酷なショーを経て処刑されるに至った。
終わった途端に急に臆病な態度に戻るクラスを見て得体の知れない恐怖を感じながらも、デガーはクラスの力が間違いなくAブロックやBブロックの彼らと同等以上のものである事を確信した。
そして、時は12時10分。
Eブロックの試合が始まる。




