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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月上旬 団体戦
27/113

二十四話 旧団体戦六日目 後

お久しぶりです。







強化魔力で強度を底上げした木剣の刃先が、たったの掌打一撃で刃毀れした。

想像以上の威力。


こいつは、






「ガードも駄目かッ」


「その通り。」






一撃で数十センチ打ち上げられていた此方の腹部を撃ち抜く様な掌打の打ち上げが叩き込まれる。


それは、咄嗟に潜らせた木剣の腹を直撃した。





びきっ

罅の入る音がした。


反射的に真空剣を真下のガトレットに放つ。







「あぁーーーーその技か。」






瞬間見た。

ガトレットの右手にこれまでの打ち込みとは明らかに密度の違う重みのある魔力が集まるのを。


それは、黒ずんでいて、俺と同じ強化魔力である事が漸く解った。





そして、問題も一つ分かった。






ガトレットのここまでの試合や、実際に今放とうとしてる一撃以外での攻撃のどの時点でも。


奴の魔力が何故判別できなかったのか。

理由が分かった。




こいつ、


















「ーーーーーごっぉおっ!?痛"でぇ"っ!」



「真空剣、だったっけ。

斬撃を飛ばすのは良い発想だけど、本体の剣と共存してない時点で僕の肉体を伴う攻撃に打ち勝てる訳無いでしょ。」








「ーーーーーブレイドの腹部に直撃。

成る程、彼が肉体のセンスと頭の切れで特待入学を叶えた裏生徒。

興味深い伸び代ですね。」


「そこから、どう巻き返しますか。

巳浦の子孫、ブレイド。」









「はぁっは"ぁっ………ん"はぁ"っ」







解った。

あいつは、ガトレットは。




殆ど魔力を使ってなかったんだ。

単純な戦闘技術で補われている強さがある分、自分の魔力消費を抑えて戦ってたって訳か。


だから、側から見たら何となく魔力を纏っている程度しか感知できなかった、見極められなかった。


ふざけた奴だ。

フィスタどころの騒ぎじゃない。






口から胃液の様なものが滴る。

腹の1発で吐きそうになったのを堪えた時、抑えきれず迫り上がった体液だ。


それだけ重い攻撃だった。

でかい石を腹に落とされた様な衝撃だ。


何とか立ち上がる。







ガトレットが言い放つ。







「そんな状態で、しかも武器も半壊しかけている。

勝てる可能性があると思ってるの。」



「……っ」



「僕の右手の本気を内臓に喰らって、武器をクッションにしたとはいえ耐えたのは凄いよ。

でも、武器ありきじゃ所詮限界がある。」


「体が強くなきゃ、何かあった時、例えばこういう時に何もできなくなる。

今の君みたいに。」



「…………あ"ぁ……全くもってその通りだ。」








ふらふらの体を鼓舞し、全身に残りの魔力を全て纏う。


ぼわぁっ。






「出来ることはこれだけだ。

たったの数十秒で、こうもあっさり形勢を潰されたことなんか無い、お前が初めてだ。

強いな、ガトレット。」



「………何をしてる。

気力を振り絞って魔力を纏おうが、肉弾戦をこなせる様には、








「ーーーー何…………その手の物。」







無意識に体が創った。

それは、無造作でただぼんやりと棒状になっているだけの魔力の塊。


だが、俺の真空剣を何発分も、何発分も込めて一箇所に固めた魔力。

木剣を骨格に一か八かで全魔力を集めた、物の試し。






「悪いなぁガトレット。

さっきまでの俺じゃお前には100%勝ち目がなかったもんで、無理にでも足掻いてみる事にした。

この、思い付きの魔剣でな。」







ただ冷たい、そして薄い期待を含んでいたガトレットの視線が、再び俺の満身創痍の顔へと向けられた。

その目には、得体の知れない未知への興味心がありありと感じられる。





ガトレットは、再度右手に先の一撃と同じ量の魔力を込める。

あれは強烈だ、捌きをミスすれば確実に意識が落ちる。


見極めろ。

じいさんの冷静で状況を客観視するあの態度を思い出せ。






「ーーーーー思い出せ、じいさんの背中を。」











「…………巳浦…………?」




松薔薇は、一瞬自身が知る英雄の背中を脳内にフラッシュバックさせた。


それだけ、似ていたのだ、彼と。

まるで小さい時の、古き時の彼の年少の姿そのものだったから。







ガトレットは、その剣の鋭利さが微塵も感じられない、しかし異常な濃度の魔力が押し込められているその木剣から意識を外さなかった。




一歩、二歩、










「三歩。」



「な、






足から腰までを全開で使った、一切力を損わず放たれた右掌底のフック。


ブレイドは目前まで踏み込まれるその時まで、反応することが出来なかった。

そして、左手の上腕に全速力で撃ち抜かれる。



木の板を踏み抜いた様な、軋む音がした。


恐らく、左手の骨まで衝撃が入った。

もう使えない。






疲れ切った体を構うことなく、右手の魔剣を力任せに振り抜く。


ガトレットは予想していない反撃にほんの刹那戸惑いを見せたが、軌道を見切り右手で掴み止める。






「嘘だろ…おい。」



「本当だよ…………あれ、右手が痛い。」







「あぁ?

…………これは、俺の魔力が………」








ガトレットに握り込まれていた部分の魔力。

それ即ち、真空剣の数倍の斬撃の盾。



彼の右掌の皮、皮膚は握り込んだ面積分全てを深く切り裂かれ、まともに握るのが不可能な状態になっていた。

ブレイドも想定していない効果であった。







ガトレットは自身の右手を即席で破いた学服の右袖の布で縛り、一時的な止血を行った。


これは、考えなかった展開だ。

だが、冷静に考えてみて当然の事であった。


ブレイドの魔剣を見る。







…………明らかに、僕が自然と右手に集められる魔力出力の数倍、十数倍分の魔力が集められている。


コスト度外視の背水戦法で作ったあの魔剣。

攻撃力も相当なんだろうけど、防御として機能しているのがかなり面倒だ。



ーーーーーーはぁ。







右手の肘を曲げ、背へ回す。

逆の手の左手を、握らず広げたままブレイドへ向ける。






「?………右手しか使えないんじゃない、のか?」



「僕が一言でもそんな事を言った?」







「使えないんじゃない。

使わないんじゃない。

使いたくないんじゃない。」






左手をまっすぐ此方へ向けたままのガトレットの体が、1秒経ったか経たないか。


瞬時に目前へ迫っていた。

魔剣を振り回す。





(頼りになるのはもうこの魔剣だけ。

これが通用しねえなら……終わりだ。)





ガトレットの顔面へ直撃するかどうか。

その間に滑り込んで来た左手が、先の右手の様に剣の鍔を握る。



今度は左手も、












ばき。









「は?」



「利き手掌底。」







利きーーーーー。




……………。


………。







「面白かったよ、ブレイド。

利き手を人間に使ったのは初めてだ、良い経験になった。」



「……………隠し………て…………?」








「うん。

昔これを猪や木に打ち込んだら、どっちも耐えられなかった。」


「人に打つなんて無いだろうと思ってたのに、君のその魔剣とやらで右手を完全に潰されたから、仕方なく、ね。」







それを聞いた直後、ブレイドの意識は飛んだ。

人生で、最初の惨敗だった。










「………Aブロック勝者、11番のガトレット。

現在8時58分からBブロック開始の9時10分までを休憩時間とします。

敗戦者は後日から原則として観戦側に立ってもらう形になりますので悪しからず。」







ーーーーーブレイドが負けたっ!?

ーーーーー私の予想が当たったわ!

ーーーーーあの薄目何者だぁっ! 









そんな歓声が、Aブロック最大の見せ場で起こっていた。


地面に倒れたままうずくまるブレイドを起こす。









「ん………松薔薇さんか?………ありがとう。

負けたよ、俺。」



「…………」






覗き込むと、ブレイドは左の上腕骨が折れた負傷で酷い内出血を起こしていていた。

おまけに口から流れ落ちた胃液跡、破けた学服の腹部分から覗く掌状の痣。


正直すぐにでも医務室に送るべき状態だった。




だが、彼の精神はそれどころではなかった。

彼は、肉体の傷など微塵も省みず、自身の浮き足立っていた心を酷く責めていた。







「俺っ!俺はっ!

っ…………世間の事を何にも知らなかったんだ。」



「ガトレットは強い、あの強さは付け焼き刃で喜んでる俺とは全く別の強さだ。

どうしようもない基礎と応用の差、単純に戦闘能力の全てで劣っていた。」






襤褸クズの様な左手を持ち上げ、天に翳す。

二の腕から滴り落ちる血流が学服を段々と染めて行く。


それは、体が哭いているように見えた。







「強くなりてぇ"っ!!

俺"はっ!もっと強くな"りてぇよっ!

ソディアっ!悪いッ!!お前を迎えには行けねぇっ!こんな俺なんかじゃ守ってやれねぇっ!」







慟哭。

その魂の後悔は、周囲の第三者達を思わず黙らせる程の鬼気を帯びていた。



松薔薇はそれを遠くから見ていた。

古い記憶、似た様な経験をし涙を流して決意を固めた巳浦の顔を思い出す。


そう、ブレイドを介抱していたのは松薔薇ではない。

それは。








左手首を握られる。

滲む視界を右手で拭き、知らぬ間に膝枕をしていたその相手の顔を見て思考が止まった。





血だらけのその左の掌は、先程自分の腕を掴み付いた血ではない。

俺の魔剣を弾いて傷付いた左手。





ーーーーーガトレットの左腕。






ガトレットは他の者からは見えない様にしながら、とても優しげな笑みを浮かべていた。


薄目は変わらないが、最初の彼とは明らかに俺に対して向けられていた雰囲気が一変している。

これは。







俺の右手と左手をそれぞれの腕で支え、俺の体がこれ以上疲労を蓄積することのない様に手厚く介抱してくる。


あまりに急な態度の変わり様でブレイドは飛び上がりそうになる。

が、飛び上がる気力も残ってはおらず、少し上がった首が再びぼすんっとガトレットの太腿に支えられる。



一体、どういうつもりで。







「終わった直後に僕も自分の状況に気付きました。右手は勿論ですけど、左手の表皮もかなり刻まれてて。

もしあの後君が奇跡を起こして僕に攻撃を仕掛けていたら………抵抗出来ないほど掌を傷めていました。」



「………慰めのつもりか?

勝者の嫌味としか思えねえよ。」








「………え…………?」







ぼつ。

顔に、塩気のある液体が落ちて来た。

涙だ。



閉じていた目を開くと、ガトレットがきょとんと腑抜けた様な顔で涙を蓄えていた。

何故だ。

意味が分からない。





焦って言葉を口ずさむ。







「あ、悪い。

素直に褒めてくれたんだよな、そうだろ。」



「!うん、そうだよ。

僕の気持ちは理解出来た?」



「!………ああ、良く解った。」



「良かった。

僕の初めての友達だからね、仲良くなるにはお互いを認め合わないと。」








…………………友達?

えっと。



ガトレットは俺を年寄りの様に丁重に担ぎ、校庭から学院内へ運び始めた。















医務室内。


ベッドでガトレットに優しく消毒や止血を施されながら、俺はにこにこと薄目を躍らせるガトレットに疑問を投げ掛けた。






「俺達、友達になる様なきっかけあったか。

犬猿の仲になる様な終わり方だったはずだが。」



「え。

僕としては、人生で初めてこんなに話をしたし、手合わせした人なんだ。

こんなに僕と本気で戦いあえる人なんか滅多に居ない。

だから、仲良くなりたいと思った。」







「………それじゃ、駄目、かな。」



「っ………!?」







ソディアやナジャと言った身近の女子と比べても、不思議な魅力を感じてしまう。





どう考えても男の筈だが、綺麗に手入れされている長い黒髪に、整った女顔と長い睫毛。


聞いていて落ち着く中性的な声のせいで、脳が混乱する。





何より。


試合後までの周りに散らしていた射殺す様な威圧感が綺麗に拭き取られ、不粋にも憎もうとしていた俺とは対照的に純粋な好意で接してくるこの態度の相違に。




俺は、俺は。








「僕は他の人にはもう興味は無い。

君の知り合いとかは少し気になるけど、でも今日は君の事を診ているね。

医務室に来た所で医療専属の先生も何故か居ないし、良いよね。」



「あぁ、一緒に居てくれ。

ガトレットの事でも教えてくれよ。」



「え?…………うん、分かった。

君の事も教えてね、ブレイド。」







それは丁度9時10分。


Bブロックの一回戦が始まるタイミングでの会話だった。





「ガトレットのレベルは?」



「30。

君もでしょ?」



「あぁ、そうだな。

…………中身の無い30レベルだ。」







窓際へ顔を向ける。

いざ現実を思い出し、ガトレットに同じ立場で話をする事に躊躇いを感じる。



だが。




そっ。

毛布越しに両手を翳し俺の身体に強化魔力を放ち、回復力を補助し始める。


とても善意に満ちていて、呆れるほどに素直な好感に逆恨みも消し飛んだ。



 


試しに、興味で言ってみる。






「あの、さ。

一緒に寝てくれないか。」



「え、でもその体じゃ擦れるだけでも激痛なんじゃ。

というか何故?」



「いやあ、その。

………落ち着くから、くっ付いてて欲しいんだ。

俺に勝った奴なら、安心して体を預けられる。」








ガトレットは納得する。

それに数秒頷くと、靴下を脱ぎブレイドの背中側の毛布に入り込む。



人肌の温もりが感じられる。

それに空気が逃げないせいか、甘い芳香剤の香りもする。


何とかこじ開けていた瞼も一気に重さを上げ始める。






背中越しに腹に両手で抱き込まれる感触と共に意識が落ちていった。


人には言えないが、最高の寝心地だった。















廊下を走り、顔を真っ赤にして思考を回転させる。


ちゃんと看病を受けているか心配で見に来てみれば、ブレイドと一緒に仲の良い家族さながらにガトレットが二人一緒に眠っていた。




ソディアの中に渦巻く妙な罪悪感と背徳感は、勝手に覗いたのが原因か、それとも自分以外の人間がブレイドと添い寝している事が不快だったのか良く分からなかった。




ただ、あの男の実力は私の二段上というのは確実だ。

私が勝てないブレイドが、魔力に於いても技術に於いても全て負けていた。





「ーーーー私はEブロックだが、もしナジャを倒したとしたら、彼と当たる可能性が有るのだな。

…………おぉ、もしもの時を想像して鳥肌が。」








校庭まで出る。


すでに開始しているBブロックの試合をぼんやりと見つめながらあれこれ考えていると、視野の端に見覚えのある人物が確認出来た。









ナジャが宥める。

何をかと言えばそれは。





拳を血が出る程握り込む。

フィスタのこの上ない怒りの容姿を見て軽い恐怖心を抱く。





ブレイドが、負けた。

当然勝ち上がると思って安心して見てたら、よく分からねえ化け物に武器も壊されて散々な容態で敗北。


有り得ない、俺達以外にも確かに入学テストで順位の高い奴らはいた。

確かあのガトレットとかいう奴もそうだ。



俺に次いで体力が2位だった。

更に学力テストも9位。


ふざけんな。

俺に次いで2位?どう考えても俺の方が下だ。





入学テストで本気を出してない人間がいた事に怒りと悔しさを覚える。

益々苛立ちが募る。







ナジャが心配してくれているが、今の俺は自分の世界を否定された感覚のせいでどうしようもない程に。





手を開く。







「面白え、やってやるよ。」





「やってみせます。」





「………面白いね。」






フィスタ、クラス、フレム。

三人がほぼ同時に、ブレイドの分まで勝ち上がる意志を固めた。











松薔薇は壇上の上で天を見上げながら、込み上げる高揚感を抑えていた。






「表の代表格四人が英雄の子孫。」


「ならば裏の代表格四人は、現代における英雄の卵。」






「このトーナメント、想像以上に面白い。」

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