二十二話 旧団体戦六日目 前
久しぶりです。
気が向いたので少しだけ。
団体戦六日目。
の前に。
先日行われた五日目の内容に関してだが、特筆して語る部分は無かった。
というのも。
フィスタ達に萎縮して残存チームは基本逃げに徹し始めていて、総人数に大きく違いが生まれなかったのだ。
まぁ、いずれは全滅に向かっていくだろうが。
それに対してブレイド達はいつもながらに稽古を行い、学院のギャラリーに余興を齎していた。
その容貌は普段と同じく全開の打ち合いであり、一歩間違えれば後に引く程の傷を創りかねない鬼気迫る様子であった。
クラスとフレム等の団体チームは常に再開地点を中心に威圧と監視をし続け、どんな状況にも対応出来るよう鉄壁を布していた。
その甲斐あってか脱落者は出ておらず、四日目のイレギュラーでも起きない限り危険は無いだろうと言える安定感を醸している。
だが、六日目。
早朝。
「良いですか、生徒の皆さん。
私はギルドと呼ばれる組合の総統に位置する松薔薇と言います。
知っていようがいまいが構いませんが、現在七時時点のこの朝礼にて、校長の認可も得た上での団体戦ルール変更を発表します。」
ーーーー当然ながら、校庭中に喧騒が起こる。
前例のないルール途中変更、当然と言えばそう。
だが、そこでは無かった。
説明を行うその黒コートの男。
名乗り名が間違いでなければ、英雄松薔薇と言う事になる。
生徒等が視線を向ける。
立っているのは、現状数百名が目を向ける中。
「ーーーーー良いですね、集中している。
そのまま耳と目を向け続けなさい。」
…………動揺の欠片もない統率者の発言が、その場を支配した。
その場の全員が感覚で理解した。
この人は恐らく本物だと。
そして、淡々と口にしていくルールの全貌は、余りにも凄惨を極める物であった。
「このまま10日目まで続いても、貴方達を成長させる切っ掛けにはならない。
そこで私自らが今現在500名まで総数を落とした貴方達一年を5ブロックに分け、厳正な審査を潜り抜けた者たちが正しく力を付けられるトーナメント戦を開催したいと思っています。」
その言葉を聞き、某カップリング達に完全なホールドアップを決めていた生徒達も希望を見出す。
そう、これが松薔薇の狙い。
長い時を生身で生きてきた彼は理解していた。
個で圧倒的な力を持っていたとしても、それに頼るだけでは能力が落ちていく。
故に、才のみを汲まず努力する者達を尊ぶ平等な力の社会を組み立てると。
そうすれば、自然と目立たない者達にも成長の機会が訪れる。
精神的な強さを育む環境を作れると解っていた。
だからその為に。
「現状明らかに頭抜けている一部生徒達。
名前を挙げましょうか。」
「ーーーーブレイド、フィスタ、クラス、フレム、貴方達は全員別ブロックになりますので、頑張って上がってくる様に。
Eブロックには今回の団体戦にて急激に力を付け始めた二人の女子、ナジャとソディアです。
二人を配置します。」
「ブレイド、私はどうすれば?
上がり続ければ良いか?」
「ん、まぁそうだろうな。
でも俺と最終戦で戦いたいなら俺の馴染みやナジャにも負けちゃ駄目だからな、出来るのか?」
「む、舐めるな。
私はこう見えても昨日の稽古である物を覚えた。
本当は今日お前に見せてあげたかったが、寧ろトーナメントという場を借りて皆にアピール出来るならその方が良いな。
楽しみにしててくれ。」
「そっか、心配して悪い。
お前の事だ、俺より弱い奴相手ならまず後手に回ることはないだろうし、一先ず休戦はここまでだな。
上がって来いよ。」
彼女にハイタッチを求める。
最初にもこんな事をやった様な気がするな。
ばちん、と乾いた音を響かせる。
「勿論!お互い頑張ろうな!
あ、でも夕過ぎからは仲直りするのだろう?
ずっとガミガミするのは嫌だからな。」
「それこそ勿論だ。
そんな心配してる余裕があるなら、感覚鈍らない様に精神統一でもしたらどうだ?」
ブレイドはそんな事を彼女と喋り合っていたが、ずっと後頭部から感じる重い視線に対して心拍が上がるのを抑えられずにいた。
松薔薇である。
上り台から周囲を見渡し、巳浦の直系の子孫らしいブレイドを見ていた。
ステータスは、この場にいる生徒達の中では抜けて高い、こんな子を他の学生と混ぜてはいけない。
どう考えても勝ち目はないだろう。
魔力の質、系統。
その姿形すらも、確かに似ている。
間違いなく巳浦の遠い血筋だ。
「…………私の視線に薄らと気付いてますね。
心拍音が60〜70程度から110程度に上がっている、素晴らしい感覚だ。」
彼は幼馴染の彼らと比べてもやはり危険性が一枚上。
彼をAブロックに置き、それを基準に生徒達を割り振る事にしましょうか。
フィスタを見る。
こちらに気付いては居ないのか、彼女なのだろうナジャと和んだ空気を出している。
涼木によく似ている、近い波動の加速魔力に赤を好む遺伝も涼木そのものだ。
彼はBブロックにしましょう。
フレム、そしてクラスの二人を見つけ、観察する。
嘗ての永澤の様な人見知りの気配を感じる。
系統魔力も同じく熱、何より私の知る永澤と人間的ポジションが同じだ。
彼はCに置きましょう。
クラス。
……………クラス。
!
反射的に後ろを振り向く。
誰も居るはずが無いのに、亡き父の感触が背中に当たり、振り向いてしまった。
クラスは学院に入る少し前に既に父を亡くしている、急性の病であった。
少し前まで一緒に暮らしていた父が死んだという実感は実はまだ感じておらず、漠然とした喪失感を胸に燻らせていたのだが。
何故だか壇上に立っている、話によれば大英雄。
あの松薔薇を名乗る男に、古い眼鏡をずっと付けていた父と同じ人相を重ねてしまった。
不思議な感情だ。
何故か解らない、この妙な安心感。
彼が私にとって大きな意味を持つ人だというのが、自然とこの瞬間に理解出来た。
怪訝そうに覗き込んでくるフレムに適当な弁解をしつつ、頭の片隅から松薔薇の姿を忘れられないクラスであった。
そしてそれは、松薔薇もそうであった。
自分にしては珍しく、暖気の籠った感情を抱いてしまいました。
らしくない。
ですが、どうしても自身の当時の子供の姿を重ねてしまう。
これ迄に何人の子達を、何代この若い姿で見送ってきた事か。
小さかった子が大きくなり、幾らかして顔を老け込ませて、暫くしたら体を弱らせ背も小さくなって行き、次代の子孫に代を託す。
それに耐えられなくなった私は、この若い姿は未練そのままに維持し、家系を見捨て人々を陰から支えるだけで済む様な組織、ギルドを設立した。
親と呼ばれる資格は無いと巳浦は嘆いていましたが、私も似たような感情に悩まされます。
まぁ、彼と違って自身の代の子は育てましたが。
「クラスは少し心配だ、Dブロックに置きましょうか。
ですが甘やかしたりはしませんからね、頑張って上がりなさい。」
「解ってます、お父さん。
…………ん、私は今、何と………」
「……さっきから、様子が変。
何か有ったの?」
「え?いや、特にありません。
ありませんが、不思議と今気分が良いです。」
「……まぁ、別に良いけど。
頑張って上がって来いよ……上で待ってる。」
「ええ、戦いましょう。
あの4日目以来なんだか景色の見え方が変わりましたからね、負ける気がしません。」
っ。
本当に人が変わった様に自信を持つ様になったクラスを見て、自分も今のままでは不味い気がし顔を逸らす。
クラスが大見得切ってるんだ、僕だって後攻に回る気はないぞ。
最後の握手を交わし、以降二人が早朝に顔を合わせる事は無くなった。
そして着実に進もうとしている六日目の団体戦。
否、勝ち上がり戦。
その結末を知る者は、誰もいない。




