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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月上旬 団体戦
24/114

二十一話 松薔薇

久しぶりです。

モチベ上がれ。








団体戦五日目は、依然として生徒達が互いを削りあい、伸ばし合う光景が繰り広げられていた。


そんな中、王城周辺では現在、大きな騒ぎが起こっていて。






「おい、城の区画に部外者を立ち入らせるなよ。

今城内にとんでもない大物が来ている。

もし迷惑でも掛けてみろ、今元気なその五体が無事じゃ済まないぞ。」



「りょ、了解しました。

では警備第一隊、これより城外周辺を見回りに参ります!

失礼します!」



「おう。

今日は朝の5時から巳浦様が精神統一なされているらしいが、それと現時刻8時時点の訪問者である誰か様との話し合いの時間を、正午まで設けるらしい。

 ロルナレの人間が冷や汗垂らしていたが、一体何者なんだか。」







そんな会話を他所に。













明朝5時過ぎ。

王城四階の寮に、その訪問客は居た。





驚く事にその者は、空中を自在に移動して、開いていた窓から飛び込んできたのだ。

 寝惚けていた者達もその異常さにハッと目を覚まし、咄嗟に身構える。


だが、アラガンとエイガはその者を先日に確認しており、畏れ多いと言った様子でイジャエ等や小さい兄妹達諸共頭を下げさせる。






その者、松薔薇。

周囲を確認し、ここが寮である事を察知。


この場にいた者達に何の口を聞く訳でもなくそのまま窓から飛び降りた。







「ちょ、えぇっ!?あの人何をして、」







ぼぉっ。

そんな音が眼下から聞こえて来た。


下を覗くと、何処からか取り出した片手銃を射出し、それにより放たれているのであろう魔力を推進力に城外を旋回している松薔薇の姿があった。


理解不能だ。






アラガンとエイガが、改めて硬直する者達に補足を加える。








「あの方は何処にあるかも分からないギルド本部の総元締め、21世紀の英雄【松薔薇】。

今日は巳浦様と松薔薇様のお二方のみでの相談があるそうだから、私達はこの事を外部に漏らさず作業に就く様に。」



「………あの人が、巳浦様と同じ時を過ごした、【万里眼】の松薔薇、様。」



「廊下に立っていたのに、入ってくるまで気配を感じなかった。

 あれだけ派手に移動していたのに、何故その音を耳にしなかったのか気になる。

だがそれは私達には理解出来ない領域の問題。

 私はもう王城の朝食調理に入る、今日は巳浦様との稽古は無い、皆んなもすぐ二階の食堂に来てくれ。」







そうしてロルナレ家の一同は朝から空中を飛び回る英雄を横目に、鳥肌を立てながら朝食を済ませた。










そして。

















王城、三階。

無の空間、兼只の空き部屋。





巳浦は朝から自身の日課であった稽古を一旦止め、様々な状況に振り回される思考を鎮めるべく精神を統一していた。



今日は先日感知した松薔薇の魔力を肌に感じ、久方振りに同等の知り合いと立場抜きの話が出来ると感慨に耽っていた。






松薔薇の野郎と最後に会ったのは22世紀の加速文明記だったか、現在の時系列から約20世紀前って事になる。





(俺は殆ど時間を過ごした感覚ってのが無いが、アイツは人間組の中で唯一一刻も漏らさず体感している奴だ。

 当時の様に気の弱いサポーターとしての影はもう残ってないかもしんねえが、顔を見れるだけでも嬉しいって物よ。)






そんな事を考えていると、自身の周りを大気が包むのを微かに感じた。


反射的にその場を飛び退く。






そうしていると、入り口の扉を開き、入ってくる者がいた。

振り向いてみる。







「ーーーー久しぶりですね、巳浦。

いえ、貴方にとっては大して時間の経過は無いのでしたか。」



「松薔薇ぁ!!久しぶりだなぁおい!」







昔の馴染みと顔を合わせられた事に今回の召還以来最大の感情の動きを見せ、勢いで向き直る。


面倒そうと言うか、煩いと言った表情を浮かべているが、それも昔と何ら変わらない物であった。






松薔薇は、大気の魔力を固めて適当に家具を作製し、二つある椅子の一つに座る。


こいつ、俺の知ってる頃とは別次元に魔力の扱いが上手くなってやがる。

細かい所まで装飾が施されてるし、綿のような感触が尻に有る。





「お前、相当強くなってないか?

俺の知ってる松薔薇は、後ろからひいひい言いながら追っかけて来て、命からがらって様相で毎回戦闘を乗り切ってた奴だ。

けど今のお前は、



「当たり前です。

それでも悔しい事にスタミナの改善は出来ませんでした。

 なので私しか出来ない魔力の爆発を利用した銃弾移動を身に付け、以来それを使っての移動が主になりました。」



「あ、スタミナはどうしようもなかったのね。」



「巳浦、今回は貴方に話しておきたいことが幾つか有ります。

それが終わってからでもいいでしょう、身内話は。」






そうだな。

真面目な顔の松薔薇を前に、一旦私情を抑える。


話、か。

相当重大な話題だろう。






大気から集めた水分を魔力のボトルに集め、1分ほどでその1Lの容量を水が埋める。

これって、自然魔力が関係してる訳じゃねえ、どんな魔力操作だっての。




水を飲みながら、話を始める。







「良いですか巳浦。

貴方と言う強大な存在が現代に召還されるという事は、一時は鳴りを潜めた世界の意志が、また何か事を起こそうとしているかも知れない合図。

 現実問題として魔王凛堂やダンジョンも行動を始めています。

凛堂とはもう接触しているのでしょう?」



「おう、ちょっと前にな。

学院戦、だったか、楽しみだな。」



「楽しまないで下さい。

その戦い、大将戦以外は実質形式的な物、貴方と凛堂の戦いは、見た目以上に大きな意味を持っているのです。」



「意味?」







松薔薇は懐から手記を取り出し、凄まじい勢いで文字を羅列させる。


二十秒ほどが経ち、俺にその内容を記した見開きを見せる。






「なになに。

ーーーーーーーーへえ。」



「現状貴方が負ける様な事があれば、安泰だった国家間の在り方も、大きく崩れる事になる。

この【反英雄】の存在によって。」



「反英雄、ね。

こいつ等ってのは俺達と似た様な存在なのか?」



「…………ほぼ、同じです。

只、貴方なら良く分かっているでしょう。」



「何がだよ。」











「ーーーーー裏界に属する天界。

そこに居る魂達が反英雄であり、私達の様な人々に栄光を齎した者でなく災厄を振り撒く存在。」



「…………プライモにも聞いた事ねえな。

何でそんな事をお前が知ってんだ?松薔薇。」







それを聞かれた松薔薇は、これまた右の懐から幾つかの書物を取り出し、卓上に置いた。


聞く話によると、それは各国の王城と呼べる主要人物の居る建造物の書庫に一冊ずつ置かれていて、その内容というのは一見妄想上の設定の様ではあるがその実、世界のシステムに関する事実だそうだ。



なるほど。

これは確かに何か起こりそうだ。





「裏界の存在に関しては大魔戦記のあの最後の日に置かれていた手紙、加速文明記の際に貴方から聞いていた話から興味深い内容ではありましたが、20世紀という時を越えここバルト王国の書庫にて発見しました。

勿論王には許可を得て拝借しています。」



「へぇ、そんな本が出現してんだな。

確かにこりゃあ、世界の意志が何か企んでる気がしてならねえな。」








話を続ける。








「現在七月上旬時点、ハイデン王国にて既に反英雄の召還を確認しています。

大抵反英雄の記述は古い文献を身漁ると知る事が出来るのですが、どうやらその男はレインド・ブラストと呼ばれる男で。

 相当な武勲を立てたにも関わらず、その力に危険を感じ当時10世紀の人類に拒絶され、最終的にはレインドの身内を殺して当人も外界へ追放されたとの事。」



「……………おい、そりゃあ。」



「ええ、この者は完全なる被害者です。

ですが結果的にとは言え自身と関わりを持っていた国家を複数壊滅させ、世継ぎを身籠もっていた当時自身の生まれ育った土地である国の王妃も、一人残らず魔物の餌にしたそうです。」



「それ、俺ならどうしたかな。

反英雄ってのは全部が全部悪い奴じゃ無いんじゃないのか?

やっぱり欠陥物だよな、世界の意志ってのは。」



「全くもってその通りだ。

話を戻します。」










「反英雄の件についてはこちらもまだ情報が不明な部分も多く、これ以上は語らないでおきます。

 現状分かっている事は、ハイデン王国に付いている魔王の凛堂が、いや彼だけではない。

魔王連中や天使達、黒人と言った上位高位の存在が刺激を求めているという事です。」






口早に語る。






「私達としては堪ったものではありませんが、しかし長い時を生きる苦痛というのは私も理解しています。

 凛堂を筆頭とした魔王達と反英雄、この双方は間違いなく現代のこの有り様を面白く思ってはいない節がある。

魔王はまだマシかも分かりませんが、反英雄は非常に危険な存在、ステータスも私達【100】と同等。」



「うお、強えな。

100レベルって、マジか。」



「そうでなければ、幾ら危険な存在とは言え英雄になどなれません。」







水を飲みながら、松薔薇は意を決して提案をして来た。


それは、到底想像できる物ではなかった。








「良いですか巳浦。」



「何だよ、改まって。」







松薔薇は立ち上がり、俺に指輪を渡して来た。

付けろと言うので右手の人差し指に付けてみる。



それは召還の理を無視し、現界していられる効果を持つらしい。

おいおい、凄いな。







「10月の学院戦には必ず勝ち、体面上でも構いませんからハイデン王国に勝つ事。

取り敢えず凛堂は落ち着いてくれるでしょう。

 そして貴方には以前バルト王国のギルドで渡した白銀腕章を存分に振るって貰い、各国のギルドで活動して欲しいのです。」



「現時点で白銀腕章を発行されているのは私と貴方のたった二人。

国家間の制限を無視した独立行動の権限を付与してありますから、その権限を手に人界を渡り、王城やそれに類する建物内の書庫から世界の意志により撒かれた本を回収して欲しい。

 この本に記載されている内容は厚みに対してたった数ページのみの記述とはいえ、無知な者に見せるべき文献ではない。」



「全て私が回収して内容を纏め上げます。

この世界そのもののからくりを把握し、より世の安泰を継続させる為に、協力して貰えますか?」







ったく、話が長えな。

そんなの、決まってるよな。







「植物みたいで少し気味が悪かったけどよ、まだそんな探究心に満ちた顔になれんだな、お前。」



「っ!!?よ、余計な一言です。

ですが否定はしません、知りたいですから。」



「勿論構わないけどよ、団体戦が終わって暫くするまでは静かに放置してくれ。

今聞いた話じゃ後々ハイデン王国から接触もありそうだしな。」



「少なくとも貴方には、敵対した場合に対象の反英雄を討ってもらうつもりなので、悪しからず。」







へへ、楽しそうじゃねえか。

俺も知らない古い時代の英雄、か。


強そうだ。







「後程ギルドを介してハイデン由来の依頼が流れてくると思います。

それを後程受けて貰えばその間は音沙汰無しでも構いません。」



「分かった。

ーーーーーーそれより、よ。」



「?

 なんですか。」



「水だけじゃ腹膨れねえって。

ここの食堂朝の5時過ぎから8時半までルーランって奴が飯作ってるから、美味いもんで腹ごなししようぜ。」



「…………はぁ、分かりました。

食事なんて随分摂ってませんが、良いですよ。」







は?

飯食わねえでどうやって生きてたんだ、コイツ。






「丸薬を発明しました。

人体に求められる栄養を全て詰め込んだ物です。

味もレパートリーを設け、極力飽きない様に配慮もしています。

 1日三粒摂れば充分な栄養を補給出来ますし、急ぎ体を治すと言った際に複数個をまとめて胃に入れる事で爆発的な回復力を発揮したりも。」



「売ってんのか?」



「はい。

実は人界の全国家、主要人物に御用達でして。

正確にはこれを粉末や顆粒状にし、万能調味料として料理に使ったりしているそうです。

 あ、ですがバルト王国には一切卸していません。

ここは既に完璧な栄養管理を行う調理環境だと聞いているので。」



「何て野郎だ。

でもお前、所在不明なんだろ?

それの作製環境も不明だし、何処に居るんだ?」








松薔薇は自然と言い放つ。







「外界です。

魔王の居住区である迷宮の方角に合わせて五芒星の位置に建ててある監視所があるのですが、それより外は海になっていまして。

そこなら人目も有りませんので、大気でカモフラージュして、更に万一にも近づかれない様に大気の魔力を利用した結界を作って周囲からは見えない様な拠点を作ってあります。

 二階建てですが、普通の一軒家程度です。」



「海の上に家が浮いてるって事か?

想像し難いが、基地みたいで良いなぁ。

戦車の馬鹿を思い出す。」








「ーーーーーー彼、普通に生きてますよ。

今は家になって貰ってますから会う事は中々無いでしょうが。」



「え?あいつ確かに変形出来たけど、家が水面に浮いてられるのってもしかして。」



「戦車、もとい【館】がモーター部分を利用して浮力を得てます。

本人も海面に浮いてるのが落ち着くらしくて、隠遁生活する上で現在相当助かってますね。」







昔は全員を内部座席に乗せて人界、外界、はたまた冥界やら地獄界に行った事を思い出した。


魔物の癖に人間と同じ様に言葉を喋って、面白い奴だったけどよ。

相変わらずなのかね、後で様子見に行きてえな。










そんなこんなで会話を終えた俺達二人は、一階下の食堂にて食事を楽しんでいた。





胃に優しいコーンスープとバタートーストは、松薔薇の胃のリハビリには丁度良さそうだった。


パン一枚とスープ一杯、後はベーコンとチーズの焦がし焼きに同じくチーズを掛けたシーズニングサラダ。






「美味ぇ、朝から充足感ありまくりだぜ。」



「素晴らしい栄養価だ、これは全て理解した上で食事に組み込んで?

味も良い、足りない塩分をベーコンで補っているのか、二重で賄っている。

上手い。」



「…………相変わらず、だな。」

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