十七話 ソディア家
親父と面談です。
ーーーーーー突然の事ではあるが、ソディアに聞いた話題の中に、一つ気になるものがあった。
彼女が親に似る様に、自分は彼の英雄【巳浦】に、一体どれ程容姿が似ているのか、と。
いや、普通に考えれば代が進みすぎてあまり身体的特徴が残っているとは思えないのだが、まぁでも考えないというのも違和感がある。
で、どれだけ似ているものなのだろうと頭に浮かぶ時があるのだが、少なくとも六月下旬から毎朝会う様になったロルナレ家の人達には、
【とても良く似ている】
と言われていた。
それがどの程度のレベルでそうなのかは自身ではわからないものなのだが、客観的に見てかなり近いらしい。
イメージとしてはそれこそ、巳浦先生の若い時の様に見えるんだそう。
そうは言われても過度な期待は避けたいところではあるが、これまでに学院で残した身体能力値検査やエイガ先生への勝利なども相まって、日頃から別のクラスの生徒にも声を掛けられる事が多い。
無論その理屈でいくと敬愛する英雄の直系であるらしい俺はロルナレ家の兄さん姉さん方に滅茶苦茶に可愛がられている訳で、年が俺よりもずっと下な剣術見習いの弟妹らには身近な人間として良く懐かれている。
でも個人的には先生達とはこの様な形で友好関係を築くのは嫌だったので、今でも色々な事がある度、巳浦先生、巳浦じいちゃんの恩恵を身に染みて感じる。
俺もじいちゃんみたいに強くなれるのかな、なんて良く先生やその兄弟である人に訊いたりするのだが、皆んなからは毎度同じような事が返答として返される。
【少なくとも、僕達よりはずっと可能性が有る】
ってね。
そう月末頃に言われた時は、元々緊張せず楽しむつもりだった団体戦で万一にも恥を晒す訳にはいかないという現況を悟った。
そして俺がこんなにも自身のバックボーンを振り返っている理由が気になる人もいるかと思うのだが、実は深い訳がある。
目の前の状況を知って貰いたい。
すっ。
お茶が出された。
とても良い香りのする茶だ、緑茶の様な物だろうが、渋さはなくただ鼻に残る新鮮な香りと飲み込んだ後に腹から上がってくる芳醇な後味だけが強く印象に残る、明らかに出店で売っている物とは別格の茶であった。
で、それを今どこで頂いているかと言うと。
「ソディア、彼とは今回どんな経緯で知り合ったんだ?
まずはそこから詳しく父さんに教えてくれ。」
「解った。
君にも一緒に話をして貰いたいのだが、問題は無いか?」
「ーーーーーーーえ、あ、あぁ、勿論。
どこからって言っても、俺の一目惚れみたいな話だけどな。」
そう、ソディアの自宅一階。
リビングの卓上だ。
玄関から出てきたのは彼女の父レッソであった。
最初は明らかに様子のおかしいその状況に対してまるで仇敵を睨む様な視線を俺にのみ送り付けてきたが、日頃から学院の教師連中と仲良くしていたからか一切動揺する事なく目線を送り返していた。
その時点でレッソさんはもう俺に何かを察知したのか、一転して目付きを素に戻して家に招き入れてくれた。
静かにソディアから耳打ちされた話だが、元々レッソさんはギルド上がりの武闘派で、そこから偶然歴史学者としてのキッカケを得て今に至ったのだそう。
現在もソディアに戦いを教えているだけあり、毎日のトレーニングは欠かさず行っているらしい。
待ってくれ、普通に良い親父さんじゃないか。
そうして俺をテーブルに座らせて雑談を交える事数十分。
現在こうして茶を口に含みながら、まるで面談の様に話を広げていた。
「例えばブレイド君。
君はこの子の何に惹かれたのだ?
この子は色々と人に好かれる要素が多いから、基本的には知り合いをあまり作らない様に日々言い聞かせてきたのだが、まさか友達ですらなく恋人などと私に宣うとは思わなくてね。
内心驚き慌てていたよ。」
「理由、ですか。
単純に嘘を付けない性分が好印象でした。
物言いが直球なのも自分と似ていて、初対面の時には少し気になっていて。」
「ほう、この子の生来の性格の事を、か。
人を良く見る人の様だ、君は。
ソディア、私は既に彼の事を良く思っている。」
「ほ、本当か!?
嬉しいよ、私は!
良かったなブレイド、順調に話が進みそうだぞ。」
「は、話は良いけどよ。」
ずっと横の席から俺に抱きついているのはどうにかならないのか。
最初からここまで、椅子に座ってからずっとこの調子だ。
ソディアが気付いているのかは知らないが、初見でその光景を見て親父さん、あの細目を大きく見開いてたからな。
まぁ今はその事には触れないでいるらしいけど、俺が父親ならどう話題に入ったものか、甚だ疑問だ。
そうしていると、三人で今日あった出来事をどんどんと話し続けていった。
そして、最後の話に移る。
ここだ、俺が口にするのを唯一嫌っていた部分。
「ブレイド君、ソディアは今見た所、とても身持ちが堅くなっているように感じる。
その今のやり取りだけを見ればただふしだらな子に見えるだけの筈が、君との行為として見るとそれが当然の結果だというのが自然と伝わってくる。
君は、この子に一体何をした?
…………実父である私すら深く関わらないでいたソディアの暗闇を、どう晴らしたのだ。」
「それ、なんですけど。
まぁ、包み隠さず想いを体で伝えました。」
それを耳にした次の瞬間。
レッソさんが椅子を豪快に立ち上がる。
こちらも急な事で驚いたが、何より驚いていたのはソディアであった。
それもそうだ、彼女曰くレッソさんは元々根の暗い方で、ハキハキとした行動は基本的に見ないなどと言っていたのだから、日頃は余程静かな人なんだろう。
それは俺も良く解ってきた。
だが、一体この豹変は何なんだ?
「き、君は、ソディアの事を、その、どの程度理解している?」
顔には、まるで俺に対しての興味が尽きないような感情が出ていた。
何つう顔してんだよ、ソディアの父さん。
「えっと………んっん!」
「?何を咳き込んでいるのだ?
体調が悪いなら薬を持ってこようか?」
駄目だ、全然解ってないぞ。
俺はどうしたら。
すると、レッソさんは俺の意味を察したのか。
ソディアに薬を2階から持ってくるように指示し、即座に俺の横に席を移動してきた。
何て気の利く人なんだ。
「彼女の前では言いにくかったんです助かります。」
「良いよ、私も馬鹿ではない。
それに男二人、この方が話しやすいだろう。
自慢ではないがソディアのあの容姿端麗は妻から由来していてね、彼女の母親であるリンダはとても綺麗な人なんだ。
実際君も、性格だけではなくあの子の美しさに惹かれている部分もあるんだろう?」
見抜かれた勢いで口に含むお茶を一気に飲み切ってしまった。
気管が痛い。
何てストレートな親父だ。
俺が切り込むのを恐れていた話題の肝に、一気に片足突っ込んできやがった。
ソディアはこのレッソさんの事を理解してない、やっぱり彼奴の親父さんはレッソさんだ。
下手すると彼女より性格が出ない分厄介だ。
まぁ隠しても無駄なので全て伝えてしまう。
「色々と好く要因は有りました。
彼女がバルト学院で見た一年女子の中で、一番身体を鍛えていたのは直ぐに解ったんです。」
「へぇ…………あの子は幼い頃から私の鍛錬を目にし続けて以来、毎日剣の特訓と称して努力しているからね。
以前手違いで風呂上がりに遭遇してしまったのだが、」
何!?
とても気になるぞ、それは。
「私は母さんがソディアに対して取っていた態度を良く思っていなかったんだが、その理由が分かってしまったよ。
素晴らしい体付きじゃないか、全身の要所に浮き出る柔らかい筋肉に、それとギャップのある淑やかな顔付き。
挙句あの母さん似の馬鹿げたスタイルだ。
若いときの自分よりも一枚二枚上手の娘を見て、母さんとしても悔しかったんだろうね。
父としてはこれ以上嬉しい事はないと今でも思っているよ。」
「…………レッソさん。」
他所の家庭がどんな物かは馴染みのフィスタ達のとこしか知らねえけど、こんだけ出来た親御さんも少ないだろ。
俺、今更ながらにソディアの父親なだけあるんだって実感が湧いて来てるぜ。
「彼女の事は全部分かっていない。
分からない様に隠す事を教えて来たのもあるのだろうが、あの子は不意に自身への接近を許すと途端に相手への応対が緩くなる。
日常の制限による反動なのだろう。」
そう、それがあんな、訳の分からない矛盾した対応に繋がるのだろう。
それもきっとリンダさんの影響がマイナスに働いている、レッソさんから耳にし尚の事許せない感情が腹を伝い顔に出る。
それを感じ取ったのか、レッソさんは俺に向けてある言葉を掛けた。
「君の様な心身共に素晴らしい男が居るとは思いもしなかった。
その年齢で私と遜色ない鍛錬を積んでいるだろう体の密度も、服越しや手首を見ていれば分かる。
加えて相手の細部にまで目配りが利く分、私よりも配慮が行き届いてる。
悔しいが君程ソディアを任せたいと思える子は今後出て来なそうだ。」
え、それって。
思わず親父さんを見返してしまう。
「私としては、君のその実直で客観的に物事を捉える万能感溢れる気概や有り様は、認めざるを得ない。
リンダにはまだ聞いていないが、私としては君を、彼氏君として、長い目で見れば生涯のパートナーとして認めたいと思っている。
君が今のままであの子を守ってくれるなら、私としてはこの上ない安心だ。」
「レッソさん。
俺、そのつもりでここに来てますよ。
でも貴方にどう言われるかで結果が反対になる事も有り得た、俺は今とてもホッとしてます。
高等を出たら、自分は馴染みと一緒にギルドで働こうと思っています。」
「!!…………そうか、ギルドか。
私も昔はギルドで日頃様々な依頼をこなしていたよ。
今も時折あの日々を懐かしんでしまう。
君には言っていなかったが、私から彼氏として認めるかどうかの条件が有ってね。」
こ、怖え。
瞬きした一瞬、凛堂並みに鋭い気配を纏ったぞ。
この人、相当強いんじゃ。
「まず一つは、精神的に出来ている事。
無論これはもう話し合いで理解している、君は文句無しにそれを満たしている。」
き、緊張する、嫌な時間だ。
「もう一つは、肉体的強さ。
歩く時の芯の入り方や学服の輪郭越しにも分かったが、尋常ではない鍛え方をしているね。
それこそ街を何周も走ったり、毎日何百という回数体の部位を鍛え込んだり、それに機能性も高い。
見た目だけでは意味がないと斬り伏せる所だが、それらは全て自身の戦闘手法を為すための一環として身に付いた結果なのだろう?」
「え?な、何でそこまで。」
「私は今見ただけでは分からないだろうが、実家が元々武家でね。
正確には道場を切り盛りしている家だったんだけど、その頃の癖で今も肉体鍛錬をしている。
だから動く体かどうかは直ぐに解るんだ。
君は相当伸び代がある、というか今の時点でかなり強そうだ。」
この人、なんか巳浦爺さんに似てる。
見透かされてる様な気さえしてくる、物言わぬ恐怖心が湧き上がる。
「だからそんなこんなで鑑識眼を持っている私だが、そんな自身に限って見誤ろう筈もない。
その点でも君は合格だ。」
「レッソ、さん。」
「そして、最後。
これは、今から試す段階だ。」
え。
まだ有るのか?
「学院を卒業する迄に、【金貨】を何かしらの手段を以って200枚分この家に持って来なさい。」
「え、金、ですか?
………俺、金なんか。」
「これは私としても嫌なのだが、リンダが文も無しに娘を渡すのはまず有り得なくてね、最低金を稼げる人間にしか娘は任せられないと前からよく言っているんだ。
で、もし交際する相手が同級生ならどうかを気紛れで以前聞いた時に提示した条件が、金貨200枚を卒業迄に持ってくるという条件だったんだ。
すまないね、そこはこちらとしても工面出来る部分ではない。」
「……………いや、金くらいどうにかしますよ。
レッソさんとリンダさんにも悪いですし、絶対に用意します。
でも、今の時点でちゃんと認めて下さいよ!」
レッソさんは当然出来ると言わんばかりの俺の意気込みに笑っていたが、だがそれは見下している笑いではなかった。
それを信用してくれた意味合いもあった。
「じゃあ私個人で認めてあげる代わりに、金貨100枚でも出して貰おうかな。
家も今厳しくてね、毎月この二階建ての家のローンに金貨5枚、年間60枚も費用が掛かってるんだ。
今君達は16だろう?
あの子が産まれた年から学者という安定した高給職に就きこの家を分割購入したから、今までに960枚という金貨を支払っている。
あと4年で20年のローンを完済出来るのだが、その240枚分の金貨の返済に協力するつもりで払って欲しい。」
「………………。」
金貨、100枚。
ポケットを弄る。
ある、あれがある。
「ーーーーーーいや、冗談だよ、冗談!
流石にそこまでの無理難題は押し付けな、」
コィンっ。
そんな気持ちの良い金属音が、テーブルから聞こえて来た。
何だ。
「これは………………白金貨幣じゃないか。
どうしてこんな大金を。」
「お人好しの画家、ヴルトーとかいう変人に貰ったんだ、助けになるだろうからってさ。
まさかドンピシャで役に立つとは思わなかった。
これで良いんだな?レッソさんあんた個人では俺とソディアの交際を認めてくれる条件はこれで完了って訳だ。」
「ん、………………そう、だね。
いや、君にはどうやら運を味方に付ける才覚もあるみたいだ。
尚君の事を気に入ったよ、私は。」
やっぱ親父さんの口調のまんまだよな、ソディアって。
似てるとかじゃなくて同じだもん、ほぼ。
レッソさんはテーブルのそれを一旦袋に仕舞い、こちらへ向き直る。
お互いが自然と立ち上がっていた。
そして、
「娘を、どうか守ってやってくれ。
君は凡ゆる物を叶える天才だ。
私としては君のバックボーンにとても興味があるが、それはまた後で家に遊びに来た時にでも話してくれ。
では、先程から階段で盗み聞きしているソディアに来てもらうとしよう。」
「何ぃ!?」
「い、いやその、こんなにも楽しそうに話をする父さんを見た事が無かったから、ついじっと見ていた。
ブレイドもその、悪かった。
でも体調悪くなさそうだぞ?少し前降りて来たばかりだが、何を話していたんだ?」
「いやぁ、んー。
どの辺りから聞いてたんだよ?」
「金の話辺りからだ。
そんなお金をあの男の人から貰っていたのだな、不思議な人だ、君は。」
「は、はは。
……………セーフだな、まぁ。」
「とても仲が良いのだね、改めて宜しく頼むよ、ブレイド君。
それと良ければだが、今夜は家で寝泊まりしていってくれ。
部屋は一階にある私の自室と、2階の正面にあるソディアの部屋、左横の妻の部屋とあるから、ソディアの部屋で一緒に寝て貰えると助かる。」
「え、泊まりですか?
てか、ソディアの部屋って。」
横を見ると、お茶を飲みながら照れている彼女が見える。
あ、ガチなんだこの話。
だよね、分かった。
「一階のリビング横にお風呂場と手洗いもあるから、後は就寝まで好きに過ごしてくれて構わないよ。
ローンも20ヶ月分払ってくれているし、卒業までにもう100枚分リンダの分の金銭を貰う予定なんだ、そのくらいは好きにして良いし寧ろ当然だ。
今は九時過ぎだからそうだね、日が変わる頃までには寝て明日の団体戦三日目に備えてね。」
「は、はい!」
「それなら私の部屋に来てくれ!
今は母さん居ないから肩の力は抜いてくれて構わないぞ!ほら早く!」
「ーーーーーーおう!女子の部屋だ!」
そうして俺はこの日、ソディアの自宅に寝泊まりすることになった。
夜ご飯はソディアが作ってくれたのだが、日頃から自分の家で朝食と夜食を賄っている分腕が達者で、牛肉をトマトベースに香辛料と煮込んだ料理の味は何度か王城で御馳走になったルーラン兄さんの専属料理を彷彿とさせる程であった。
「お早う、朝が早いんだな、君は。」
「うん。
ーーーーー何で俺、ソディアの上で寝てんだ。
記憶が確かなら普通に横隣で寝てた筈なんだけど。」
「君が寝惚けて私を抱き枕にするものだから、私もその気になってつい君を胸に抱いてしまった。
………………嫌だった、か?」
「もう少しこのままで頼みます。
目が覚めて丁度良いです、ソディアさん。」
「そうか、意味が分からないが了承した。
朝飯は六時半ごろから作るから、後三十分はこのままで良いぞ。」
「うん……………いや長!
六時に起きて埋め合わせに長くする事じゃないだろ、10分くらいでいいよ。」
そうか、と呟く彼女は何処か寂しげな顔であった。
が、俺が悪い事をしている側なのに期待外れといった顔をされるのは苛ついた。
仕返しに顔を埋めてやる。
「本音を現したな。
最初からこうすれば良いのに。
可愛いな、君はもう。」
「く、くそお…………っ!」
そのまま頭を腕で抑えられ、更に押し込まれる。
晒が固く巻き付けられているにも関わらずむにむにとした感触が頬に伝わり、眠気の代わりに惚気が上がってくる。
何故だろう、上に立たれているのが気持ち良い。
ぼけたままの眼で一旦手洗いに向かおうとして部屋を出る。
すると、右の通路から誰かが此方へ歩いて来た。
この人は。
目の前を通り過ぎていくのを待とうとしたが、丁度正面で立ち止まり、此方へ顔を向けて来た。
間違いない、リンダさんだ。
暗い青色の髪を低い位置で纏めている、ローポニーという奴だ。
そこだけを見ると何だかソディアに似ている気もするが、その体前面から放たれる気怠さや色気のような物は、一切彼女が持ち得ない分野だ。
いかがわしげな眼を向けられる。
「な、なんです、か。」
「………………あんた、ソディアの彼氏か?」
「え、はい。」
「ふうん……………なんて良い男なんだろう、良い拾い物だな、これは。」
「ひ、拾い物………」
そう言う母親の表情は少し喜びの様な感情を見せたが、直ぐに先程の寝起きの顔に戻る。
そして此方へ距離を詰める、足が擦れる程近く。
「な、なんですか。」
「あぁなぁんだ、まだやってないのか。
身持ちの固い男だね、あの子と似て。」
「え、えぇ!?
そ、そそそんな無責任な事簡単に出来ないですしやりません。」
「男なんて、どうせ体と顔しか見ないんだから。
でもそうね、ならこんなのはどうするの?」
膝を足の間に割り込まれ、そのまま胸に纏わりつかれる。
ちょ、ちょっと、
寝巻きなのかはどうでも良いが、身に付けている紺色の衣服は体にピタリと密着しており、生地が乳房に完全に吸い付き大きさと形が分かった。
ソディアが晒を巻いている状態よりも大きい、外せばそれに一歩劣るサイズとかいう話だが、そんな事は頭から飛ぶ。
先程甘えていたソディアの胸とその母であるリンダの胸の感触の違いを本能的に比較してしまい、否が応でも息子が反応する。
あまりの情けなさに顔を上に向けてしまうが、リンダさんはその俺の態度と下半身を見てニコニコすると、そのまま頬に顔ごと近付き、
ーーーーーーキスをして来た。
もう駄目だ、帰りたいけど帰りたくない。
情けない。
「そうそう、男は素直にね。
貴方の事私も好きになったから、貴方の気が向いても向かなくても家に来たら可愛がってあげる。
これからあの子と過ごす時間が多くなるでしょうけど、私にも若い子の力を頂戴ね?」
「あ、あ"ぁぁ。」
そんな時。
部屋からソディアが飛び出してくる。
「ーーーーーッ、離れろお!」
「きゃっ。
ーーーー乱暴な子ねぇ、ちょっとキスしただけじゃない。
ねぇ?君もそう思うでしょ?」
「えっと、綺麗なお母さんだな、ソディア。」
「ブ、ブレイド。
君は……………………わかった、私が悪かった。
これからはお前が求めても求めなくても今以上に私から欲してやるから、それで我慢してくれ。
母さんは早く下のテーブルに付いてくれ、ご飯は私が作るよ。」
「はぁい。
じゃあね、チェリー君。」
帰り際に自然な流れで俺の左頬に口付けしていく。
当然の様に行われたそれに、俺は反応すら出来なかった。
が、ソディアは目の前で喰われている俺を見て反骨心が湧いたのか、右頬に同じくキスをしてきた。
母親の落ち着いた物ではなく、荒々しさのある熱の籠った物だ。
今俺は、過去一番に思考が鈍っていた。
「満更な顔をするな!
私がいるのだから、母さんに何かされても私に全て報告してくれ、同じ事をしてやる!」
「あ、あぁ。
……………どの道俺にプラスだけど、良いのか?」
「二度と母さんに後ろ髪を引かれないように私に依存させるから関係無い。
堪え性の無い君にはやはり私が必要だな。
はぁ、心配になるよ。」
そうして俺は一気に自身が大人に近づくのを感じながら、朝を迎えた。
余談。
晒を巻いているのはソディア個人の判断で、両親は何も関与していないそうだ。
ギルドで名を上げたいというのは、唯一尊敬する父親レッソの若い頃を踏襲したいというのが理由らしく、その為にバルト王立中央学院に入ったとの事。
先程の母親のやり取りからも、極端に仲が悪い訳ではなく、今はもう只々煙たく思っている程度らしい。
朝食のトマトスープ(前日の煮込み直し)とチーズトーストを食べながら、ソディア一家の美形ぶりを眺めていると、突然リンダさんが声を上げた。
「あんたの彼氏さん、良い顔よね。
卒業する頃には相当な男になるわよ、ふふ。」
「揶揄わないでくれ、私の彼氏なんだから他にどう思われるかなんて関係ない!」
「しかし私もブレイド君の事は初対面からソディアとお似合いの子とは思っていた。
これだけ整っていれば、さぞ将来の孫が期待出来るものだよ、ねぇリンダ。」
「そうねあなた。あなたもその長い前髪を切ればすぐに街で噂されてしまう程の眉目なのだから、人の事は言えないわね?」
(なんだ、俺が時折同級生から送られてた妙な視線って、そういう事だったのか!?)
そんな心の声を浮かべているブレイドであったが、今現在この家の雰囲気は自身を中心として和んでいる様子だったので、一先ずは流れに揉まれる事にした。
そして、三日目が始まる。
母さんは今は実質暇しているだけの人です。




