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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月上旬 団体戦
19/113

十六話 西の住宅街デル

またイチャついてます。

でも必要なんです。(嘘)









夜。

現在時刻、午後7時。




ソディアが自身という存在をブレイドによって認識したあの一件から一時間ほどが経過。


幾らか心も落ち着いてきた所で、二人は学院から足を運ぶ事にした。



そう、西の住宅街デルにある、彼女の自宅だ。








「ブレイド…………言い難いのだが、私の両親は望んで私を作ったわけでは無かった。

 それでここまで極端に私の事を厳しく、厳格過ぎる程に制限を設けて育てた。」



「あぁ、解ってるよ。

 態々言うまでもないな。

良いかソディア、俺はお前の事をずっと傍に置いたおきたいと思ってしまった。

 だから、今回ソディアの両親と話をしてみて無理そうだとしても諦めるなんて事はない。」



「ブ、ブレイド………嬉しいよ。

 でも、会話が真面に成り立つかは私にも分からない、普段から私と会話する事すらほぼ無いんだ。」



「そうだろうな。

 ……………え!?」








彼女と街灯の灯る街並みを歩いていると、突然そんな事を言われた。

 親と日頃から会話する事が無い、と言うのはどんな関係性なんだ?


俺なら、それは家族とは思わない。

只の同居人、隣人程度の認識だ。






改めて彼女を見つめる。








「………ん、何だ?急に見つめないでくれ、困ってしまうだろう?」



「困らせたいんだよ。

 ソディアの容姿のことだが、それは親譲りの物なんだろ?

だったら両親も整った見てくれなのか?」



「んん?………そうだな、うん、そうだと思う。

 意識して見ることは無いが、二人とも美形の部類には入るぞ。

 それが何なんだ?」



「いや、話す時に他人の様に感じたりすると身が入らないから、ちゃんとソディアの容姿を基本に頭の中でイメージ像を作っとこうと思ってさ。」



「ふふ、何だそれは?

 まぁ、イメトレで多少事前に慣らし効果を得ようというのは私の家に着くまでの時間を有意義に利用しているのだろうがね。

 少し不気味な物だな?」



「そう言わないでくれっての。

 俺思ったよりも緊張するタイプだから、特に話に聞く様な親御さんなんか言葉を交わすだけで固まっちまうかも分かんねえし。

 って、そもそもお前に聞けば良いのか、見た目。」







何を一人で妄想してるんだ。

そもそも彼女の親の事は当人から聞けばそれで済む話だ。



流れで訊いてみる。







「父親はどんな人なんだ?」



「どんな、と言われてもな。

 まぁ、とても厳しい人だよ。

 髪の色は父さんから受け継いだものだが性格は私と大違い、根が暗くて常に物事を悪化した場合で考えている。

 だから幼少の頃から私の容姿の事を気にして、男物の服を着させられた事もあったな。」



「………ま、まぁ、将来を考えるとその方が悪影響だと解るもんだけど、教育方針だもんな。

 でも性格は違うって事は、母親は明るい人なのか?」








それを聞かれて彼女は少し足を止める。

 何やら複雑な顔付きだ。


何をそこまで考え込むのだろう。





と、突然停止していた足を進め始めた。

 考えが纏まったと言う事だろう。








「で、どうなんだ。」



「正直、喋りたくもない人だ。

 父さんの方が私に対して優しさを持っていた方なのが良く分かる。」








え、話に聞く限り親父も結構曲がった人間だが。

………でも待て、おかしいぞ。




それだけなら彼女は精神面を矛盾させる様な事にはならないんじゃないか?

 普通に考えて物事を気難しく捉える様な性格になる程度だろう。


キーは、母親か。






ジェスチャーのつもりか、演劇の様に俺の目の前で身振り羽振りをし始めた。


真似してる、って事だよな。







「ここからは私ではなく母だと思ってくれ。」



「え、あ、あぁ分かった。」







すう。

瞬間、彼女の表情が以前会話した時と同じ様に矛盾した感情を帯びる。


こ、これだ。








『顔が良いから何?

それで貴女の価値を上げるのは下賤な男だけよ。

 所詮は顔と体で生きてくのが女の定めなの、貴女も卑屈に、相手の行動を受け入れて生活しなさい。』



『そんなに立派な顔と体なのだから、どんな人種にも好かれるでしょうけど、金のある人、力のある人は見分けられる様になりなさい。

 貴女にとって都合良く動いてくれるかもしれないから、籠絡してしまいなさいな!』









まるで、別人だ。


目の前の彼女は、声色や目付きさえ冷たく見下す様に、蔑む様な空気を纏っていた。




今の一瞬で、彼女の生来の性格が歪んだ理由が少し分かった。

だがまだ続く。







こちらに歩み寄ってくると、少しいつもの彼女の顔で照れる表情を見せた。

そして俺の右手首を掴み、








「んぅ………っ!」



「な、何してんだ!?え、どうしたんだよ?」



「これも実演しているだけだよ。

 母は産まれてから成長していく私を長年、こんな感じで弄るんだ。

 私より大きな胸なのだから、早く男を捕まえれば良いのに、とよく言っていた。」



「な、何だそれ。

 お前はそんな軽い、自分を餌にする様な人じゃないだろうが!?」









彼女のそれを聞き、俺はその母親がどんな人間であろうと好きになる事はないだろうと理解した。


それではまるで、彼女の母親が、








「………売女みたいじゃないか。」



「っ!………よく気付いたな、私の母の仕事だ。」



「な!それって要はその………いや言いたくないけど、」








俺の胸に寄り掛かり、懐かしむ様な顔で彼女は言った。







「王国内のデル街なんかに住める理由が気にならなかったか?

 想像は付くかもしれないが一応。

高給の仕事に就いていた私の父が、長い出張勤務に疲れてここではない国で娼館に寄った際そこで母と知り合ったそうだ。」



「……………気分が悪くなるな。」



「あはは、昔は私もそうだったよ。

 でも夜の仕事で偶然身籠った子だとはいえ、それに責任を感じてレッソ父さんはリンダ母さんと同棲を始めたんだ。

 私を産んでからは流石にもう水商売を中心に稼ぐのは止めてくれた様だが、それでも時折知らない男性と家で晩酌を交わしているのを見掛けるよ。」



「吐き気がしてきた、もう良い。」



「気紛れで取ったお客さんなのだろうが、夜に中等学院から帰ってくる私に母と比べる様な目を向けてくるのは、かなり息苦しかったよ。」



「止めろって言ってんだろうがぁ!!」







途中から彼女は以前の様に泥の様な空気を放ち出していた。

 そんな事を、平気とは行かないものの男性相手に話すと言うのは、しかも交際相手に言うという事がどういう行為か理解していない様子だ。



俺は、彼女の心を穢したその母親を勢いで殺してしまいそうな程の怒気に支配されてしまった。






いや、そんな事許されるはずもないのに、彼女の人生を転落させるつもりとしか思えないその母親の前で、俺は冷静に居られる気がしなかった。









「そ、そんなに気遣ってくれるとは思わなかったよ。

 一応母としては彼氏を連れてくる事を反対するという事はないと思うのだが、色々と深い事まで訊かれると思う。

だから、今家に着く前までにちゃんと思考を整理しておいて欲しくて。

 悪かった、ブレイド。」



「整理どころじゃない、もう腹括ったぜ、俺は。

 絶対にお前を幸せにさせる気持ちの整理が付いたって状況だ。」



「ば、馬鹿な事を!

 それの許諾を得る為に今から家に行くのだろう、皮算用はよしてくれ。

もし駄目だったらと思うと、私が保ちそうにないんだ。」









どさっ。

彼女を、人の居ない噴水広場のベンチに押し倒す。








「な?ど、どうしたのだ?

 じ、情事は駄目だぞ、私はそんなに軽くない。」



「あぁ、だからソディアの事が好きなんだ。

 意見を言い切るお前の性格が、気遣う思いやりを持つお前の人間性が、全部。」



「きゅ、急に何なんだ、そんな事を私に言われても返答に困るぞ!?

 そ、その、とても嬉しいが。」



「…………ソディア。」



「ん、な、なんだ、君のせいで私は今混乱、」










彼女の体にうつ伏せに倒れ込む。

とても安らぐ、穏やかな気持ちになる。





あまりの唐突さに言葉が停止している。


だが、少しして頭が冷静になってきたのか、今度は顔を紅くして俺の肩を押し返そうとしてきた。








「こんな所で揶揄うのはやめてくれ!

 私が今どれだけ驚いたか、解っているのか?

早く離れてくれ、ブレイド!

………………顔を胸に沈めるなぁ!」




「あぁ、決めた。」



「つっ………何がだ?

ふざけた事を抜かしたら、私でも抓るくらいの罰は与えるぞ?」









弾力のある感触。

夜風に靡く彼女の顔に、先刻の時と同じく口を重ねた。



ソディアは押し倒された上に連続してキスをされた現状を処理しきれず、されるがままに受け入れている。








一分、二分。



時間が経つにつれお互いの気持ちは一致していく。

ずっと一緒にいたい、と。





腰に手を回し抱き起こしてやる。


まだ二人とも唇に接吻の感覚が残っており、愛おしい感情に襲われていた。






言葉を発さず手を回されたままに自ら両手で抱きついて来た。

 堪らずこちらも肩と腰に腕を回す。







周りを偶々人が通りかかる。











「ふぃい、疲れたァ。

何か面白いことでもあると良いんだけどなぁ。

…………………おぉ?」








ーーーーーーーー初々しいカップル。






視線の先で人目も憚らず抱き合い、スキンシップを行う二人の若い美男美女がいた。


ぼちぼち仕事帰りの人間が通行し始めるこの七時過ぎの時間帯に、なんて見せ付け方しやがる。





それを見て少し気分が悪くなる男であったが、良く見てみると様子がおかしかった。


何故かは分からないが、二人とも少量の涙を流していたのだ。

 妙な空気感だ。







自分以外の通行人も、数人、十数人程だろうか。


多くの人間が、その学生らしからぬ切なく悲哀な雰囲気の垂れ流れている男女に、不思議と見惚れていた。



まるでこれから生涯を誓い合った二人が、二度と会えなくなる程の人生の大事に当たったかと思える様子。







気がつくと男は、自身の私用画材を袋から取り出していた。

この男、画家であり芸術家でもある。


この男は、その光景を書き留めたいと思う程の情熱が湧き上がると、途端に凄まじいインスピレーションにより画を書き上げるのだ。

 デル街ではこの男【ヴルトー】の作品に執拗に拘るファンが、一枚当たり金貨50〜100枚規模で購入する事が良くある。



彼はそんな熱狂的なファンの落札による金銭援助により日常生活を送っていた。






そんな彼の持ち歩くこれまで書き上げてきた作品の複製集

(原画は落札対象として物好きに落とされているので既に所持していない)

のどれよりも素晴らしい作品を描ける自信が、彼の指を無意識に走らせていた。










男の目立つ行動にも一才気にする事なく、二人は着実にお互いの相性を再認識していた。




あぁ、この人以外にはきっと居ない。

 そう頭が理解してしまったが最後、もう暫くはこのまま体を密着させていないと暴走するのではと思える激しい感情が、共通して心を支配した。
















数分後。

















「…………はっう。

も、もう、良いんじゃないか?」



「そ、そう、だな。

 一旦求めると、ずっとソディアを欲しちまうみたいだ、俺。

 そろそろ落ち着こう。」








幾らか気分が冷静になる。

そして、心の整理はもう終わった。







俺は、高等の学院を卒業した後、ソディアと。


先の事を見据えていると。

ソディアがのったりと首に擦り寄ってくる。







「何だか、子を持った父の様な優しい顔をしていたぞ。

 何だ?将来の景色でも見えたのか?

 可愛いな、ブレイドは。」




「あぁ、俺は君と結婚したい。

ソディアの過去に何があっても俺達の子には一緒に正しさを教えてあげたいんだ。

 二度同じ轍は踏まない、人の心の強さを、君の親に証明したいんだよ。」




「こ、こども…………子供?

 い、いやそれは、急すぎないか!?

私も刹那考えはしたが、そんなに堂々と、しかもこの段階で言うとは思わなかったぞ。」



「どうせ俺は今回の話、もう通った前提で考えてるからさ。

 心配しなくても、俺は弱くない。

最悪ソディアを連れ出してでも俺は遂げるよ。」




「ーーーーッ、私の父は悪い人ではない、それは止めてくれ。

 は、母を。

母さんを説得してくれれば、どうにかなるだろうから。」



「解ってる。」









そう返事しつつ、ふと周囲に目を向ける。



………………ん?







少年が一人駆け寄ってくる。

な、何だ?







「お、俺、好きな子がいるんだ!

 でも俺、告白する勇気がなくて。

こんな俺でも大丈夫かな!?兄ちゃん!」




「んんんん!?………まぁ、男は度胸だ。

 言っても駄目だとするんなら、言っちまえ。

お前の覚悟を見せ付ければ、相手もそれに応えてくれるはずだぜ。」




「!!わ、解った!

ありがと、黒い兄ちゃん!」








何故かその赤髪の少年に恋の助言を求められたが、然りげ無く流してやる。


一体何が。









途端、謎の声援が響く。







驚いて視界を広げると、何と噴水通りには大勢の老夫婦や少年少女、挙句絵を描き上げているらしい画家などがこちらに声を挙げていた。


い、いつの間に。








「懐かしいわぁ、あんたも昔はああやって抱きしめてくれてたわねぇ。」



「ふ、ふん。

 最近は久しかったが、お前が良ければその、ハグしてやるぞ。」







懐古の表情でイチャつく中年の夫婦。

熱い空気になっていた。









「ねぇねぇママ、あの人達何してるのお?」



「うん、あの人達はね?

ママとパパが仲良くしてるみたいに、御手手を繋いだりチューしてるのよ。

貴方もいつかはああして素敵な男の人を見つけるのよ?」



「んーー?……………はーいママァ!」








何で子連れの女性に見守る目線を向けられなきゃならねぇんだよ?

は、離れるか、さっさと。





足早に去ろうとする俺を、ソディアが引き留める。

 何故だ!?









「あの画家の人、先程から手招きしているぞ。

 話があるんじゃないか?」



「は、話って。」



「何やら周りが盛り上がっているな、何だろう?

 まぁ兎に角ブレイド、あの人に話をしてきたらどうだ?

私はベンチで休んでいるよ。」



「お、おう。……………状況解ってないのか。」









フゥフゥと声を掛けてくる野次馬の中に何故か先の少年とナジャの姿が見えた。

 一見フィスタは見当たらないが、一体。



いや、そう言えば弟達がいるとか言っていた。

 同じ赤髪のあの少年は、ナジャの弟さんだったのか?

だとすると俺、アイツの家族に説法説いたって事か?気まずいぞ。










画家の前まで来る。

何なんだよ、ったく。






「アンタぁ、熱いなぁ!

 こっちまで火が付いちまったぜ!」



「何なんだよ、あんた。

 見た所、美術家、とかか?」



「御名答だ!

俺はヴルトーってんだ、ここデル街で絵描きをしてるもんさ。」








目の前に大きな額縁に嵌められた男女の絵画を見せられる。



筆感からも伝わってくる力強い二人の雰囲気、それと、青い街灯と夜空の悲壮感。

 とても良い絵だが、これは。






「あんた達のあの五分以上の行為の気迫に感化されて、俺の指が動いちまったのさ。

 こんなに良い恋愛、っと。

これだけ良い作品は俺も初めて描けた、アンタら二人の本物の愛情が、俺をここまで昇華させた。

 凄えなあんた達、何だか俺も羨ましいぜ。」




「…………いや、何勝手に書いてんだよ。」








だが一瞬、俺もこの絵に見入っていた。


たかだか一枚の動かぬ色絵に、これ程気持ちが揺らされるものなのかと。







男は白金の色をした何かを一枚こちらに手渡ししてきた。

重みがある、まるで貨幣だ。






ん。

よく見てみる。









「こ、これ、白金貨じゃねえか!?

な、何でこんなもん渡してくんだよ。

…………初めて持ったぜ、俺。」



「俺からのお礼さ。

この金貨100枚分の貨幣、君達二人への祝いとして渡させて貰う。

この絵は間違いなくそれ以上の価値で売れるし、問題なしさ。」



「あ、あんた。

お人好しが過ぎるぞ。」



「こんなのは俺も初めてだよ。

でもまぁ、それが【役に立つ】かも知れないんだから、大事にね。

それじゃ、ばい!」









そうして暗い通りへ消えていく。






俺達も小さい騒ぎになっていた広場を拍手で見送られつつ、彼女の家へと向かった。


白金貨幣。

こんな大金、どう使えば。


































「ここだ。」








彼女に言われ、右を向く。

これ、敷地じゃねえか。







何だよ、こんなに大きい家は中々見た事ないが。



二階、三階建て?

それ位の大きさはありそうな確りした煉瓦造の一軒家だ。






戸惑いで足が止まる俺を引っ張り、ソディアが家の鈴を鳴らす。



どうやら、ここからみたいだ。

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