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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期六月某日 英雄巳浦召還
15/113

十二話 シャリン村

ちょい書き方変えてみます。






「巳浦様ぁ、後どれくらいで森に着くんですかぁ。

私、少し疲れてきたというか、飽きてきたんですが。」




「お前な、まだ歩いて1時間しか経ってないだろ?

バルト王国の東門を出て50キロ先にその森はあるんだ。

のんびり歩いてるなら時速5キロくらいか?

 だったらまぁ…………9時間位で着くな。

楽勝だろ?」




「全然です!かなり大変なんですけどそれ。

巳浦様、私途中に村か町があったら休憩挟みたいんですけど、良いですよね?」








休憩って、でも、








「良いですよね?」




「まぁ、今は朝の11時くらいか。

出たのが10時だから、正午辺りには飯も食いたい。

うん、まぁ良いか。」




「やったぁ。

流石に日頃から体を動かしてるとは言っても、こんな馬車道を淡々と9時間は死んじゃいますって。

 昔の人は皆こんなものなんですかね。」




「俺だって疲れない訳じゃないぞ。

肉体的には疲れないけど。」




「私は肉体的にも、と言うか精神的に厳しいんです。

分かってください!」








片手に水筒を持ちこんな会話をしながら1時間。



周囲は開けた草むら、時折街灯が点在している程度で、後は地面に舗装された石の道があるくらいだ。

 今日はよりによって気温が高く、幾らか汗も出てくる。



個人的にはこれくらいが寧ろ健康的だなと言う認識だが、女性の身体面で考えると負担が大きいのだろう。

 俺も、その点で理解がないわけではないが、流石に今日中には目的地であるデルヴァ森林を確認しておきたい。

 ある程度は急がなくてはいけない。



今もぼそぼそと路傍の石を蹴り飛ばしながら、遅れたペースを早歩きで誤魔化し付いてきているイジャエに昔の子の記憶を重ねながら、穏やかな気分で歩を進めていた。

 イジャエは今ストレスを訴えてはいるが、常人、特に今の時代を生きる人間の相場で考えるとかなり体力はある方だ。



俺の遠い息子であるブレイドならばそれほど苦戦することもなく付いてくると思う。

 あいつの友達も中々忍耐のある奴が多そうだったしな。



腰に巻きつけておいた布袋から干し肉を一枚出し、適当に噛む。

 正直美味しい物ではないが、こうしていると生身で活動していた頃の記憶が蘇る、懐かしい映像だ。








「あの頃は、涼木と干し肉を水無しで食い切る対決したり、松薔薇に何の干し肉かスキルで解析させてたなぁ。

 永澤はそもそも顎が弱いせいで食えたもんじゃないから水で戻して、したら見た目が気持ち悪くて食えないとか言ってて。

楽しかったなぁ、思い出すよ。」





「………おじいちゃん。」








とても優しい表情を浮かべる巳浦に気付き、悪態を止める。

 とても同じレベルの思考ではない事を察し、空気を汲んだ。



干し肉を一つ投げられる。

 慌ててキャッチする。








「え、な、何で肉を。」




「疲れたんだろ。

左手で姫様抱っこしてやるから、お前はとりあえず肉と水を胃に入れておけ。

俺は、ちっと昔の事を思い出してるからよ。」




「え。

…………ひきゃあっ!」





小さな子供を脇に抱える様に簡単に持ち上げられてしまう。

 恥ずかしいのであまり思い出したくはないが、筋肉で上がった63近い体重を普通の買い物袋みたいに扱われる事なんて、まず無いだろう。



ふと、小さい頃に亡くなった父バレンを思い出した。

 あの人は50歳手前で亡くなってしまったが、婆様や爺様とも親交が深く、一式二式三式、三つの型を使えたと言う話だ。

 今現在それを確認する術はなく、事実は婆様のみが知り得るが。




そんなバレン父様には、幼い頃兄様と一緒に肩に乗せて貰った楽しい思い出がある。

 当時は、それこそ巳浦様によって兄妹の壁無く互いを研鑽し合う今の関係の様に、純粋に家族として暮らしていた。



少し前の私達の状況であればまず想起する事のない昔の映像が、当然の様に頭に浮かび上がる。

 これも、全て巳浦という私達の古き父、そして英雄による恩恵なのだと考えると、その偉大さをぼんやりとだが認識出来た。








「………イジャエ、よくこの姿勢で寝られるもんだな。

俺なら気持ち悪くなりそうで無理だ。」








歩いて数分程だろうか。

 気付けば彼女は目を瞑り、こちらの首元に頭を寄り掛からせ、寝息を立てていた。



別に起きていようが寝ていようがどちらでも良いのだが、こうも安眠されるとまるで乗り物の様な気がしてくる。



右手で肉を齧りつつ、太陽を見上げる。








「時刻は…………大体正午にはまだ少しか。

そろそろ何か集落があっても………有った。」







目前に見えてきたのは、甘い匂いの充満する、畑を営んでいる様子の村であった。

 遠目からでも元気に遊ぶ子供や、世間話をする家族の関わりが見えた。

 ここなら幾らか休めそうだ。



イジャエは起こさない様にし、静かに村へ近付く。



















「悪いけど、少し寝床を借りる事って出来るか?連れが疲れてて、少し休ませたいんだが。」




「外からの人?珍しいわ。

 村長〜、お客さん。

少し宿部屋を貸しても良いかしら?」




ーーーー好きにせぇ。




「良いみたい。

 小さい風車の回っている建物が有るでしょ。

そこが宿なんだけど、この村シャリンは代金を貨幣ではなく労働力で賄ってもらう事にしていてね。

 2時間程度村の作業を手伝って貰うことになるのだけれど、良いかしら?

あ、お連れの分は要らないわ、2時間って言うのは二人分だからね。」




「勿論。

 作業ってのは具体的にはどうすれば?」




「呑み込みが早くて良いわねぇ!

畑の先を見て。」








優しそうな主婦に肩を担がれたのを確認して一先ず気楽になったところで、村を囲む畑の正面を視認。

 そこにあったのは。








「大きな岩が有ってね。

 一週間くらい前に突然上から落ちて来て、それの撤去作業、解体を男性陣に一任してるの。

 今回はそれを手伝って欲しいのだけれど。」







村の半径は100メートルほど。

 対してこの岩は、縦幅20メートルは有ろうかと言う中々のサイズだ。

 普通に大きい。




正面出口の門を封じている岩に群がる様にしてツルハシを突き立てる男達の元へ移動すると、先程のふくよかな女性からツルハシを一つ渡された。







「今は11時半くらいだから、太陽が頂上を過ぎて少しした13時過ぎには終わりで良いわ。

お弁当を作ってあげるから、宿に来て頂戴。」




「分かった。」







スキルなんかを使えば一撃で壊せる。

 が、無駄に存在を認知させると却って行動しにくくなるだけだ。

 大人しくツルハシで削る事に決めた。




右手に握り思いっ切り上から振り下ろす。

 石の表面に当たり、そのまま数十センチ奥まで刺さる。

 それをそのまま下に引き摺り、小さなバケツ一つを満杯にする程の礫を作り出す。




魔力などは使わず純粋な筋力のみで行ったが、これでも丁度良いか少しオーバーなくらいだ。








「あ、あんた、凄い力だな。」





「ん?あぁ、筋力には自信があんだよ。」





「そうかぁ。俺達も毎日肉体労働で鍛えてるけど、一回でこんだけ石を削り落とした奴なんか初めて見ただよ。」





「そうか?あ、もしかしてあんたら村から出たりしないんじゃないのか?

俺ほどじゃないが、王都や隣国には腕っ節の強い奴は沢山いるぜ。」




「そうなんか!?俺昔っからシャリン村出てぇ思ってて、でも家庭さ持たねぇとダメだ言われてて。」








共に石を砕きながら、そんな事を話すこの男。

 名をロロイと言うらしい。



独り身で活動したいが、家族を作らなければ許されない、か。

 面倒な仕来りだ、でも人口があまり多くないのは一目見れば分かる。

 色々と大変なのだろう。
















黙々と作業をしつつ雑談を続け、気付けば2時間程が経過していた。






「好みとかは有るのか?どう言う性格だとか、髪はこうだとか。

 ぼんやりとじゃいつ迄も決らねぇぜ。」





「そ、そげな事言われても、俺わかんねぇ。

ま、まぁんでも、優しい人じゃなきゃ嫌だ。」




「優しい、ねぇ。

 探せば性格の落ち着いた人は結構多いんじゃないか?

さてはお前、ベタに綺麗な人が良いとかって理由を恥ずかしがってんじゃねえの?えぇ?」




「そ、そそ、そんな色男みてえな事俺に言われても困るだ!」




「へぇー。

………ん、もう時間か。」








後ろを振り向くと、二つ弁当を持って走り寄ってくるイジャエの姿があった。

 向こうから渡しに来てくれるとは、気の利く子だ。








「巳浦様、作業お疲れ様です!

私が寝ている間にこんな地道な事をなされていたのですね。

 巳浦様が剣を使えば、簡単に壊せたのでは?

なぜ態々この様な回りくどい方法を。」




「馬鹿、悪目立ちするだけだろ。

 地元の人に警戒されたらまず周囲から浮くのは確定だ。

 俺達は身分を隠し通した方が逆に都合が良い、冷静になれ。」




「そ、そうですね。

とりあえずお弁当有りますから、一緒に頂きましょう!」




「おう。

あ、ロロイも一緒に来るか、








「姉さんの名前イジャエさん言うんだか?!

 俺ロロイって言いんます、よろしく!」




「え?………あ、はい、ロロイさんですね、こんにちは。

…………巳浦様、この人何ですか?」




「んー、まぁ作業仲間だ。

喋ってたら仲良くなった奴だ、邪険にはするな。

次いでに幾らか話し相手になってやると良い。」




ーーーーーえ、嫌です!

ーーーーーイジャエさぁん!話すんましょ!








俺は二人を遠目に、すぐ近くの木に背を寝かせた。

 今日は何だか、生というものを久々に実感した様な気がした。




石道を歩き、遠い娘の愚痴を聞き、村で働き、対等に喋り合う相手を見つけ。

 このまま、地上で暮らしていたいと、思ってしまう。

 だがそれは無理だ。







「俺は、彼女を置き去りにして、あいつの事も再び裏界に残したままだ。

 やり残した事もある上に彼女に見せる顔も無い以上、居るべきではない。」







決して相容れぬ存在、表界と裏界。

 俺の今いる空間が表界、こことは別空間に有るのが裏界。



俺は、曾て2度に渡り裏界へ渡った事がある。

 詳しくは説明出来ないが、1度目はプライモと共に帰還し、2度目は彼を残し。


……………正確には彼に無理矢理送り返された。




プライモは今も裏界であの頭の逝かれた皇帝とのタイマンを続けているのだろうか。

 流石にそれは無いかもしれないが、一段落付いたら戻るといいつつもうあの4000年の全ての終着時に再び裏界に向かって以降、もう数百年顔を見せていない。







「ヴェルウェラとはそもそも2000年、21世紀に俺が生きていた当時以来もう顔すら合わせる事なく家族と共に残して行ってしまった。

 ブレイドは恐らく俺とヴェルウェラとの間の娘と息子の血を引いているのだろうが、今のブレイドの家系にヴェルウェラが関わりを持つのは現実的では無い。」







つまり、俺は恐怖している。


残して行った家族、正確には妻である黒人の彼女ともし顔を合わせる事になった時、どう対処するのが正解なのか分からないのだ。




俺は、俺は親としては失格だ。

 放任主義の彼女に家庭を押し付ける形になったのは元凶としてはプライモにあるが、どれも俺が悪いとも言える。







「俺は…………今回の件が終わったら、彼女に会わなくちゃいけない。

 ここで会わないと、次はいつになるか全く分からない。」








デルヴァ森林での虎の討伐、その後のハイデン王国での王直接の謝礼。

 この二つの事を終わらせた後、ブレイドを伝手に探してみるか。












逃げるイジャエとその背中を付き纏うロロイを見て笑いながら、俺は少し先の事を考えていた。



因みに弁当だが、新鮮な林檎と玉葱を細かくしてから炒めたおかずと、たっぷり詰められた馬鈴薯のマッシュがどれも地域独特の深みのある味でとても美味しかった。


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