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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期六月某日 英雄巳浦召還
14/113

十一話 東監視塔

久し振りの投稿。






人界の外を監視する、そんな仕事がある。

 それは、誰にでも任せられる職種ではなく、10〜30程度のレベルの魔物を相手取れる手練れでなくてはならない。



現在東の監視塔で人界外、下界を監視しているこの男は、もうこの任に就いてから5年程経つ。







以前西の監視塔で下界から訪れた魔王を名乗る男が居たそうだが、そんな珍客など普通はあり得ない。

 何故ならば、ここより先は数キロ単位では済まない、水が延々と続いているだけの殺風景な地形なのだ。



各国の古い言い伝えに拠れば、海を見張るこの監視塔から下界方面へ5キロ程移動すると、そこに

【迷宮】と呼ばれる魔王の住処があると言う話。


正直、信用できる話ではない。

というか、人間以外の人型の種が存在しているとは中々信じにくい物だ。



嘗ての伝説によれば、人間の代表である英雄達に協力した魔王5名、黒人と呼称される者が十名。

 そして天使と呼ばれる超常の者四人が、この地に立ち窮地を幾度となく救ってきたとされている。


それが歴史として残されているのは、その様な宗教的な話を脳に刷り込み、無意識的に信仰させる為なのか、将又事実であるのか、それはどうでも良いことだ。

 居たとしても、現在時点で確認されているのは凛堂とかいう自称魔王の一角。


そんな存在が、人智を超えた存在が居たとして、今の世の中をどうこうする気が無いのは今の世を生きる者は皆自然と解っているのだ。

 気にする必要などない。







が、今こうして下界を監視する職が存在しているのは、万一を想定している証。

 恐れているのだ。


変化を。

何かが起きるのではないか、そんな天文学的可能性を。









「馬鹿馬鹿しいと鼻で笑いたいが、それじゃ自分を笑ってることになるからなぁ、難しい話題だ。

そう思わないか?ダンジョンとか言う旦那よ。」





「ん、そうっすね。

いやぁこれ美味いなぁ、飯食うのなんて何時振りかなぁ、食べる必要ないからもう何十年も食ってない気がするっす。

 ありがとうございますっす、イアルさん。」




「………ま、まぁ、事情を聞いたからには、幾らか聴取を取るからな。

その間の空腹を満たす為の飯だ、好きに食うと良い。」




「えぇ!じゃあさっき食べたバター風味のフランスパン、5本じゃ足んないんであと10本お願いしたいっす!」





「……………。

待ってろ。」








俺、なんか悪いことでもしたか?

 こんな、2メートル以上はあるスキンヘッドの男に、職場を訪ねられたのは初めてだ。


いや、普通こんな人間が居るか?

これは、来た方角から考えて東。

 信じたくはないが、例の西に現れた凛堂とか言うやつと同じ………。






そんな事を考えながら、イアルは食糧庫からパンを幾つか調達する。


在庫にあった一週間分の食料。

日にパン類を四、五本程度で考えた食事のストックは、既にあの憎めない丸頭によって現在進行形で食われていた。

 もう三日分は喰われた、後で追加を頼まなければ俺が死んでしまう。





横部屋の食糧庫から出てくると、ダンジョンは外を眺めていた。

 外、と言うのは海側ではなく、陸側、人界だ。



横にパンを置いてやると、途端に席に座り凄まじい勢いで噛み潰し、水も無しに飲み込む。

 カッチカチのフランスパンを、どんな顎だ。








「イアルさんは、ここで何をしてるんすか?

監視って言っても、具体的な事が分からず仕舞いっすけど。」




「あぁ、見張ってるんだよ。

外敵をな。」




「見張り?………どんな事を?」








ダンジョンの目前に剣が突き立てられる。








「………何の、真似っすか。

もう僕ら出会って30分も経った仲っすよ?

友達じゃないすか。」




「冷静に考えてそれは友達と言えない。

ただの顔見知り程度だ。」








威圧を掛ける此方はなんのその。

 黙々とフランスパンを口に突っ込み続ける。


もはや作業の様にも感じる程の綺麗なテンポで貪っている。

 状況を自覚していないのか、余裕のつもりか。




突き刺した剣を引き抜く。








「良いかダンジョン。

俺達が見張っているのは、人の犯罪者や、ちょっとした魔物と言った類ではない。

そのどれにも当て嵌まらない、お前の様な危険な何かだ。」





「危険って、ただ海を走ってただけじゃないっすか!?人聞き悪いっす!!」




「ふざけんなハゲェェ!!

そんなのは人間の身体能力を超えてんだよ、お前一体何なんだ?」








それを聞かれたダンジョンは、一旦手を止める。

 そして、その巨体を立ち上がらせたかと思えば、此方へ右手を伸ばしてきた。



反射的に警戒してそれを左手で払う。

払おうとした。

微塵も、動かない。


何だ、この存在感は。








「凛堂はもう人界に来てる筈なんすけどねぇ、情報の流れが悪いのかな。

イアルさん、貴方は僕に食べ物をくれた、水もくれた。」




「そ、それが何だ。

今の会話の流れとどう関係がある?」








右手で肩を掴まれる。

 攻撃かと思ったが、ただがっしりと握られただけだ。

こいつ、一体何がしたいんだ。





「久し振りの話し相手にもなってくれましたし、特別に見せてあげるっす。

人外の証拠って奴を。」




「人外の、証拠?お前やっぱり、







「起きろ、迷宮大剣。」




「…………?………な、何だぁぁぁあ!?」








イアルとダンジョンの間に異常なまでの魔力が集まり、形を成す。

 それは、目前の大男を更に数センチ上回る全長を誇る、巨大な大剣だった。




唖然として、そして同時に腰が抜けてしまう。

 男はそれを、片手で持ち上げ、空中で回転させ始めたのだ。







一瞬軽いのかとも考えたが、有り得ない。

それは絶対にあり得なかった。

 何故ならその剣は視界に具現化した時点で、その重量により床に、しかも鉄製の冷たく頑強な床に1メートル以上突き刺さったのだから。



若しくはかなりの切れ味という線もあるが、それにしては外郭の大雑把な剣身すらもが見事に嵌っていた。

切れが良いのではない、重みがそうしているのだ。


そしてそんな推定百、いや二百キロとも判らぬ重さがあろう剣を片手、両手で投げて遊んでいるこの男は、到底人の子では無かった。







「お、お前ダンジョン、本当に何者なんだ?」




「だーかーら、魔王っすよ。

凛堂って奴が人界に来てないっすか?そいつの仲間っす。

ちょっと人界から来た反応に興味が有って、迷宮から外出してきたんすよ。」




「ま、魔王。…………成る程、これなら納得だ。」








いつの間にか空中へ還元された大剣に意を介さず、再びパンを食べ始めたダンジョンを見つめながら、イアルは思った。


こんなのを相手取れる訳がない、人間には荷が重すぎる仕事だ、と。






















「お前の事だ、特に心配は無い。

だが一応残り3日分の食料も渡しておこう、さっきの分の詫びだ。

水は、少し足りないかもしれないが1ℓの水筒を3本やる。

 これで、ここ東監視塔から西へ20キロ程の距離に在る【炭坑街ボルス】まで移動する間の空腹は凌げるだろう。

………腹は空かないらしいがな。」





「ほんと、イアルさんありがとうございますっす。

自分はこのままその炭鉱街ボルスにあるギルドって建物でこの書面を見せれば、中央の王国に行けるんでしたっけ。」





「そう、【下界証明書】と呼ばれる人外の者を証明する書類だ。

 監視塔に在留する俺の様な手練れが、明らかな異常を察知した際、ギルドという大きな国家間組織にこの書面を送る。」







が、ダンジョンは信頼できる奴だ。

俺のサインもしてある、まず問題無く扱われる筈だ。








「そうしたら、その後は暫くの間を炭鉱街ボルスで生活して貰う。

 認可が降り次第100キロ感覚で点在する国々を渡り、中央のバルト王国へ向かえ。」


「東の監視塔から20キロ西に炭鉱街がある様に中間に様々な街や村もあるが、態々寄る必要はない。

 馬車に乗せて国々を三つほど経由して貰い、400キロ西側に存在するバルト王国で正式に処分を下す。」








願わくば、この男に幸あって欲しいものだ。






大きなリュックを背負わずに肩に提げながら、此方へ振り返り手を振るダンジョン。

 先の光景からまだ1時間程しか経ってはいないが、このたった2時間弱という時を過ごしただけで、あの男の快活な性格は理解した。




現在は6月中旬。

後10日程で月替わり。







「とりあえず、食料を注文しておかないとな。」








そしてそれから10日程後に学院では団体戦が始まり、そこまでに巳浦と凛堂は接触。


七月の20日からデルヴァ森林へ依頼をこなしに向かう巳浦とイジャエ等と3日後の23日、レインドがぶつかる。



そしてダンジョンは六月中旬〜下旬を炭鉱街ボルス、七月の上旬中をベイル共和国、中旬をガレトロ帝国。

 下旬を、【ハイデン王国】と渡る。






七月下旬、何が起きるのか、それは誰にも分からない。




ダンジョンは凛堂より強いです、はい。

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