十話 レインド
これからはメモ帳に書いてから貼ります。
場所、ハイデン王国。
詳細地、中央都。
王城管轄の召還地。
そこに座るこの男。
レインド、と言う。
我々の物語に頻繁に説明される英雄達、彼らが地に生まれたのは西暦上2000年以降の時系列となるのだが、この男はそれより以前の20世紀中に存在した、強者。
名の無い英雄、いや、そんな善的な存在ではない。
歴史的に後世へ残される事のない、危険な人物。
裏界側の天界に固定される負の存在である。
レインド・ブラスト。
レベル100。
戦闘スタイルは直線的で、拳に集めた魔力を対象の表面で爆発させる。
表界側の英雄涼木も五体を使うが、彼の場合は五体自体の衝撃力、加速させた膂力による直接攻撃だ。
だがレインドの場合系統魔力は重力。
涼木の様に肉体を操作するのが難しい為、攻撃方法に大きく差異が出る。
身長は180、体重80キロ。
服装は生前の好みからチャック付きのコート、色は灰色。
胸元のチャックは基本的に開けている。
髪は肩辺りまで伸ばしたシルク色で、雰囲気だけなら寧ろ優しさすら覚える。
レインドは現在、ハイデン王国にて周辺国の観察監視を任されており、つい数刻前に東北方面から尋常ではない気配を察知し、それを王へ伝えたところであった。
現在時刻は朝の9時。
話によると、バルト王国に居る英雄に取り入る過程で依頼を飛ばしたらしく、順当に行けば現在の7月20日から、22〜3日にはハイデン王国に向かって来るのではないかと言う話であった。
そう上手く行くかは不明だが。
私は考える。
この世の真理は力だ。
どれだけ美しい論理を立てたところで、上手く社会を世渡りした所で、最終的に追い込まれれば頼れるのは自信のみ。
力がなければ、何も出来ない。
だから私は、力を付けた。
今は41世紀、だったかな。
私が現役で生きていたのは10世紀辺りだった。
当時の人々は、日々の生活を確保するために毎朝毎夜魔物と牽制し合う日常だった。
だが今のこの有様は何なんだ?
わたしが生きていた時と比べて平和、と言うよりもボケている。
危険を知らない、その中で中途半端に努力し強くなったつもりでいる。
私は30過ぎの頃、既に多くの功績を残していた。
それは今思い出しても輝かしく、人に讃えられるほどのものだった。
誰も抵抗出来ない、ただ全滅するのを傍観するしかないほどに強力な魔物。
レベルで言えば99、100、それ以外にも何体も危険な魔物を生涯を通し討伐した。
だが、そんな私に対して束縛出来ないと言う恐怖観念に囚われた当時の国の王達は、私に力を行使させるだけさせて、後に有害な存在になると判定を下し、人類の生存圏の外、下界へと追放した。
私はそれからの数年と言う人生に絶望を感じ切るまで、ただ襲い来る魔物を殺し続け、国に関連する人間達の遠征を見かけてはそれを潰して回った。
奴等が生きていられるのは私の恩恵がほぼ全てだ。
なら壊すかどうかも私が決めて当然。
時折人間ではない猛者達と話をする事も有ったが、彼等とは近い物を感じた、親近感が湧いた事もあったが、それも無意味な物。
そうして自ら自決した私だが、それから31世紀も経った現在、人類すべてが幸福を享受している。
理解出来ない。
何も苦労をせず、何の地獄も味合わず、ただ一部の強者による安寧を甘んじて受けるその様は、召還されている立場で無ければ殺して回るだろう程に呆けている。
そんな私が好むものは何か。
無論強者だ。
強い者は、必ず何かしら工程過程を経てそれに至る。
努力しているのだ、対等なのだ、私と。
私の拘束されていた天界には英雄、正確には力だけを求められた多種多様の豪傑達が居るが、基本的に各天界から同時に一人までしか召還されないらしい。
よって、20世紀の英雄である巳浦とやらと、その対として私が召還されている以上、他に同等の猛者が呼ばれることは無い。
私達と言う悔恨のある存在にチャンスをチラつかせた超常の存在、世界の意思。
何を望んでいるのかは知らないが、自分以外の傀儡に世界を動かされた事に思う所があるらしい。
だからこうして、自分の管理下にある世界の中で、気紛れに争いを起こす事にした。
客観的に言えば勝手極まりない話だが、私にとっては有難い切っ掛け。
この出来過ぎた世界を、私が乱す。
崩す。
壊す。
粛清だ、後悔させる。
懺悔しろ。
コンコンと、扉が叩かれる。
そこには魔王凛堂が立っていた。
私と同じ強者、且つ人外の者。
手合わせしただけでも分かった、彼らは強い。
だが悲しい事に、魔王や黒人といった上位の存在は、永きを生きるため記憶を消すことが多いらしい。
私の事はもう覚えてはいなかった。
「何か用か?凛堂よ。」
「おう。バルト王国の英雄巳浦が依頼を受けて、今現在西からこちらへ向かってる。
依頼内容の虎型魔物を狩るためにデルヴァ森林に入るそうだ。」
「そうか。それを私に報告する意味は何だ。」
「お前強いやつ好きなんだろ?
一応アドバイスっていうか情報をやろうと思ってな。
ハイデン王国に巳浦が来た時、上手くいかなきゃお前はあいつと戦うんだ。
聞きたいだろ?」
「要らない。
私に先手を切らせるつもりか、舐めるな凛堂。」
「まぁ、そうなるよなぁ。
どっちでもいいけどよ、王様からの話を伝えとく。」
凛堂は召還室の中央にある席に座る私の対面に移動して、珈琲を飲みつつこう言った。
「もし巳浦を倒せたら、バルト王国を潰してもいいってよ。」
「……………何?」
それは、どういう事だ?
国交や経済を度外視してまで、国を潰そうとするのは何故。
…………どうでもいいぞ、そんな事は。
思わず立ち上がる。
「凛堂、お前は中立の存在、介入は無し。
倒すというのは、戦闘不能か?それとも、
「殺すんだよ。まあ正直楽しみだ。
レインドがあの巳浦にどこまで通用するのかがな。
俺としては勝つのは無理だと思っているが、善戦は出来るんじゃないのかと思ってる。」
「舐めるな。私の攻撃は甘くない。
一撃喰らえばそれだけで劣勢になる。」
それを聞いて納得の顔をする凛堂だったが、念を押してくる。
「それはそうだろうな。
けどな、一つ言っておくぞ。」
「なんだ。」
「あいつに、【攻撃は当たらない】。」
?
当たらない、と言うのは素早いという事か、それとも防御や回避性能の話か、どれかだろう。
凛堂がそれだけの注意を押してくる男に興味が湧いてきた。
巳浦、四刀剣の英雄。
殺し合うのが楽しみだ。
「あ、レインド。」
「なんだ、凛堂。」
「もし巳浦に負けた時だが、その時は商談失敗。
バルト王国を襲うのは勿論NGだ。」
「凛堂、お前が10月に予定している学院戦、そこの最終戦でお前と巳浦が戦う予定らしいが、私が殺してしまえば手間も省けるな?」
暫しの沈黙。
そして、
「はははははははっ!
面白い事を言うな、レインド。
そうかそう言う事になるな、まぁその時はその時、俺の見込み違いだったって事だ。」
「………ふん。」
期待させてくれる。
流れで行けばどのみちその10月の学院戦に私は出ない。
そしてそれが決着した時からそう遠くない時期、巳浦とやらと私は二人とも天界へ帰る。
今から3〜4日中に強者と果し合いが出来るだけでも、私としては嬉しい物だ。
そして勝ち、人類に後悔させる。
「それとは別で腹減ったから飯食おうぜ。
2階の食堂、今日の朝食に豚の味噌焼き出すってよ。」
「何?頂こう。食事は大事だからな。」
「おう。
…………普段からそうなら、お前も楽だろうに。」
ニヤつくレインドと共に食堂へ向かう。
食堂には王城に勤務する者や、ザラデス家達の姿があった。
そこでの藹藹とした光景は、決してバルト王国のそれと変わらず、とても賑やかで楽しげであった。




