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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期六月某日 英雄巳浦召還
11/113

第八話 剣を見せて





「ーーーーー最初はグゥ!」



「じゃんけんーーーーー」









「パー!」



「チョキィ!」






「はい巳浦様の負けです!今日は先生のまだ見せてないって言う剣、三つの内どれか一つ見せて貰います。

じゃんけんで勝てば見せる、言いましたもんね?」




「あーーー、分かった分かった。

…………ん、じゃあこれにするか。」







七月上旬某日。




一年の学生達が団体戦で鎬を削っている期間、俺達は授業も無くただ生徒の戦いを見守るくらいしかやる事がなかった。


まぁ正確には教員ではない者も居るので一纏めにするのは良くないのだが、全員こうして昼に集まるくらいには暇なので同じような物だろう。





今何をしているかと言うと、弟子達が日頃から五月蝿く聞いてくる俺の剣についてのやり取りだった。


俺からすれば正直どうでも良いのだが、あまり見せびらかしても仕様がないので不折以外見せることは無かった。


が、あまりにも見たい見たいとしつこいのでじゃんけんで平等な戦いをした結果、アラガンにじゃんけんで負け、イジャエにせがまれてる状況になった。


雑魚だった。








「ま、とりあえず今回は【狂い】を見せといてやる。」



「狂い?どう言う物なんですか?」



「見てろ。」








正面に手を突き出す。


魔力を手先へ集中させる。




そうすると、前と同じように巳浦の手元に黒い靄が掛かり始め、瞬き数回、手には何かが握られていた。


それは、前の不折なる剣と似ているが、切先にかけての剣の腹が全て不規則に尖り、欠けている形状であった。


見るからに危険性の高い形のそれは、巳浦のイメージにはあまり似合わない剣であった。





軽く空中に投げてジャグリングをする。

と言っても一本だけだが。





全員が危ないと声を挙げるが、この男が剣、ましてや自身の魂である刀剣の扱いを間違える筈がなく、そもそも自身の魔力で構成されているこれは使用者の体に当たる事はなく、光の様に貫通する。




体を擦り抜け地面に刀身が全て貫通し止まるその剣を見て、アラガン達は思考が停止する。








「これは狂い、【狂いの漆刀】って言う。

剣を振る時に魔力を込めると斬撃がデカくなって飛ぶ。

纏われるんじゃなくて飛ぶ。」




「…………!!

そ、そんな刀、一体どの様な方法で手にしたのですか?我等にも教えていただけるのですか?」




「んーー、まぁ手に入らないこともないのか、これは。

でも、99%か、或いは100%無理だぞ。」








刀を軽く横に薙ぐ。




視界の先数十m先まで魔力の斬撃が飛ばされる。

凄まじい風圧、そして破壊力が見て取れた。




だが、武道場端からその反対側の壁までの40m程先の辺りで丁度その攻撃は消えた。

いや、意図的にそこで消えるように調整されていた様子だ。




皆が一様に目を輝かせてそれを見ている中、それを介さず巳浦は言う。









「欲しければまぁ、黒人にでも頼むしかねえな。

俺は若い時、人として生きてた時にあいつ等と戦った事がある。

そん時に気に入られて貰った2本のうちの一本だから言って貰えるのかは何とも。

強ければ作ってくれるかもしれねえな。」









ルーランはそれに対しこう返した。








「私達であれば、かの歴史に名高き黒人の方々から、武具を頂戴頂けるのでしょうか?」




「無理、弱過ぎる。

正直言って、あいつ等が何処にいるか分からないし、並の人間はまず視界に居ても認識されない。

見えないんじゃなくて石や蟻みたいな物、雑多の景色程度にしか思われない。

強さと言う名の存在感が無いと、意識してくれない。」




「上位及び高位の存在ってのは俺みたいな人間出身の奴ら以外全員そんなもんさ。

お前らは今の時代のスケールで言えば寧ろ手慣れてる方だ、今はそれでも上出来。

先は急ぐな、自分の届く範囲まで上り詰めれば良い。」





「あ、そんな。

…………我々では、やはり近づけないのだろうか。」




「自惚れんな。」




「ーーーーーーえ?」








巳浦は、固まった顔のロルナレ家に対し、右手を向けた。


その表情は、とても真面目な顔つきであった。








「な、何をーーーーー」





「喰らってみな。」







そう言い皆へ叩き付けるように飛ばされたのは、視界全てを覆う程の魔力。


巳浦が剣を顕現させる際に現れる魔力の霧を、数倍空間へ吐き出した規模。





全員が膝を突き人によっては倒れ込んでしまった。




そのまま魔力を放ち続け、しかし一切疲れる様子もないままに巳浦は話し始める。







「良いか。

お前達は現代に於いては排他されるべき【武力】を身に付けようって努力しているんだ。

その事実を否定するわけじゃないが、正直言って肯定もできない。」




「理由はシンプル。

俺たちの努力で実った平和な時代を崩しかねない力を万が一にも持ってしまうと、その均衡を破壊しかねないからだ。」




「と言っても魔物が一見して見当たらないこの時代じゃ、簡単にレベルを上げるってのは無理なんだが。

俺達英雄って呼ばれてる奴ら四人で、各方面東西南北へ生活圏を広げる使命があったからな。

俺は訳あって居なかったが、信頼出来る魔物が居た、後釜はそいつがやってくれた。

今無事かは知らん。」








魔力を止める。







「魔物ってのはいつまでも世界に出現する物だ。

だから確実な安全ってのは作れないんだが、それでも人の生活する空間が広がる事で自然と魔物が生まれなくなる大気、空間へと作り替える事ができた。」




「だから人類は、その活動域をかの古の土地より倍以上まで広げる事ができたんだ、感謝しとけよ?」




「それから2000年ちょい経つまでにも色々、って簡単にも纏められない事が起きてたりはしたが、結局今はここまで平和な時代になった。」








全員正座して静聴している。

吐きそうな者もいたが。







「俺は別にお前らを強くしたくない訳じゃない。

ただ、目標を立てるにしても、それは現実的に超えられるものにするべきと言う話だ。」




「お前達程度で黒人に認めさせようなんてのは甘いどころじゃない、下手すりゃあ一生無理な芸当だ。」








そう言い放っている巳浦の顔は、あまりにも凄みがあった。

流石にここまでの反応をされるとは思っていなかったのか、ルーラン含め男性陣は皆引き攣った顔をしていた。




子供達は訳も分からず、ただその圧力に潰され泣きそうな顔になっていたが、イジャエが両腕で囲い何とか泣き止ませている状態だった。






「具体的に俺がお前らに目標を立ててやる。」







空間に剣を形取る。


現れたのは不折であった。





自分達の目先の目標を提示すると聞き、息を止めそれを聞く。








「ーーーーーーこの剣を持てるようになれ。」







は?

そんなあっけらかんとする、簡単な物であった。



これには堪らずイジャエが怒る。





「あ、あの、巳浦様!」




「何だ?イジャエ。」




「私達を嘗めてるんですか?講説並べてどれだけの試練を下さるのかと思えば、剣を持て?

物持つくらい誰だって出来ます!ふざけないで!」





「そ、そうだ!俺の剣だって、一本15kg近い重さがある!今更筋力的な面を鍛えろってんなら先生、俺らを嘗めすぎだ!」







エイガが、怒気混じりに本身を振りながら主張する。


周囲の視線も疑わしい目であった。




が。







「そっか、んじゃ持ってみろ。」





「え?」





「エイガ、お前体鍛えてるよな、自信があんならその左手、今すぐこっちに仰向けにしな。柄置いてやる。

落としたらこの場の全員、正確にはアラガン、ルーラン、エイガ、イジャエの四人全員がこれを持てる様に特訓させるからな。」





「持ってやる!俺だって先生に教えられて魔力を使える、前よりも更に馬力は上がってるんだ。」







そう自身を鼓舞し、渡される柄を握る。


巳浦は手を離そうとするが、最後と言い忠告をした。







「そうそう、両手で握りな。」




「手ーーーーーーーー折れちまうぜ。」






「え、








ばがぁんっ。

地面に、左手が叩き落とされた。





それは何故か、剣の重さである。

まるで途轍もない巨漢を片腕で支えようとした、大木を片腕で持とうとしたかの様なイメージが一瞬浮かんだ。




だが、それでも未だ比喩不足である。





例えるならこれは、巨石。








「う、がぁあぁああぁいいぃぃいてぇぇえっ!!」





「お、おい!エイガ大丈夫か!?おい皆んな、剣を持って退かせ!」




「は、はい!ルーラン!チビ達もおいで!

お兄ちゃんを助けるの!」




「「「「「はい!」」」」」






そうして総出で一本の、たった一本の剣を総動員で退かそうとしたが、綱引きでもしているかと勘違いするほどの重量であった。




皆が、先の巳浦の遊びを思い出す。




これを、片腕でジャグリング、もとい空中に投げ飛ばしては指で投げて遊んでいた。





あれはこの、重さ100kg以上は有ろうかという物体を木刀の様に扱えるだけの力が、巳浦には当然の様に秘められているという事であった。



理解できる次元を超えていた。






エイガに群がる皆であったが、巳浦に怒気を挙げられ反射的に引いてしまった。




よく見ると、打ち落とされた左手の甲から、血が流れていた。

そして今現在も、まだ深くへ落ちようとしている。



想像したくもない経験だ。






巳浦は嗚咽を上げるエイガに落とされている不折を左手の小指で巻き、そのまま軽そうに柄を握り上げた。





先程のあの行いがどういう次元の話なのかを、身を以てこの場の者へ理解させる形となった。






皆が心配そうに見守るエイガの負傷を気に掛け、巳浦はその左手を同じく左手で掴んだ。

正確には手首あたりだが。







「な、何をするんです、か…………?」





「悪いな、お前達に一度理解して貰う必要があった。

怪我は治してやる、じっとしてな。」





「は"、はいっ。」








そう言い片膝を突く姿勢になり数秒固まった後、巳浦の左手に途方も無い密度の強化魔力が圧縮され始めた。




それは、数分前に自分達へ叩き付けたあの魔力の奔流を、全て片手に収まる範囲に濃集したかの様な物であった。


一瞬皆が心配するが、思い出す。





巳浦の魔力は強化。

悪意を込めなければ、決して人体に悪影響は無い。


となれば、これによって何が齎されるのかと。

答えは、こう。








ばきばき、骨が折れる様な音がした。









「が!うぐぉおおっ!?」




「手甲の骨折れてたみたいだな。

今治ったぞ。」








(ほ、骨が治癒!?)

皆一様に戦慄した。


骨折というのは、人体においては緊急事態。

それを、治した?



あの数秒で?





そのまま治癒の際に骨が繋がれた痛みで気絶したエイガを確認した巳浦は、今度はこちらへと魔力を向けた。


敵意のある先のものとは違い、善意の込められた物である。








「うわぁ!……………あれ。」




「寝起きで倦怠感あったのに、何だか吹き飛んだ感じ?これって。」





「強化だ。

お前らの今現在の肉体的疲労、当人も気付いてないコリやらなんやら纏めて吹き飛ばした。

正確にはお前らの代謝とか筋肉、色んな部位機能に発破を掛けて瞬時に回復、もとい快復させた。」







全員がウォーミングアップをする。

アラガンが日頃の作業で溜めていた肩の異常なこりも。


エイガが訓練により負傷していた脹脛や背筋への筋張った痛みも。


ルーランが調理で痛めていた手首や首回りの筋肉痛も。







「あれ、風邪気味だったのに、何だか詰まりや倦怠感が、完全に無くなっちゃいました。

こ、こんなの、有り得るんですか?巳浦様。」







イジャエの疾患も、容易く払われていた。







「魔力は、極めればこんな風に活用できたりする。」




「肉体的な馬力なんかは、見た目じゃ測れない。

実測値は、レベルにより底上げされるステータスに起因するのが九割以上だ。」




「俺も疲れるから基本やらないけど、自然魔力じゃなく強化魔力でも今みたいに他人を治せる。

正確にはこの場合治しているというよりも機能の底上げで、それによる副次的な代謝の上昇が原因だがな。」







いつの間にか消されている剣に驚くことも無くなった。





全員がここまでで貯めたストレスや不安、疲労感といった物は全て先の魔力波動によりフラッシュされていた。



そして、改めて巳浦はこう言う。








「お前らは、俺の剣を持てる様になれ。

出来る様になったらまぁ、最低限認めてやる。」







っ!!!

皆に動揺が走った。








「今は6時か。

じゃあま、普段の型練習は省いて、今日はさっきの剣を一本ここに置いてくから、8時になるまで頑張んな。

俺はちょっと出てくる。」







ーーーーーーうおぉおおぉおっ!!




背後からそんな勇ましい掛け声が聞こえてきた。

是非とも頑張って欲しい物だ。


















そして巳浦はと言うと、実は隠していた空腹を満たす為に食堂へと向かった。





因みにブレイドはこの七月頭、団体戦に出場しておりこの場には居なかった。


だが、アイツは将来的に俺の刀を持つことが出来るだけの魔力出力があるから、関係ないか。







そんな事を考えながら、今回の早朝メニューである豚小間と筍の黒酢炒めとやらを食し、それにハマっていた。


呆気に取られる調理員を他所に、二階の食堂でそのメニューを4回リピートしていた。







「何だこのタレ。

甘さ六割酸味四割?良い味付けだ、唾液の出る酸っぱさってのは砂糖風味の甘さと合うもんだな。」









毎度改行に悩む。

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