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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
104/113

百一話 黒と黒

百一話





早朝の朝日が上り始める。

その陽光に被る様に40〜50m跳び上がり。


跳躍した影響で畳まれた両脚はそのままに、両手で持った黒刀の切先を右脇後ろに構えた状態から容赦無く。

ーーーーーfirst skill………《刀衝》。



瞬間、巳浦の背景を一切の光も通す事の無い黒色濃度の強化魔素が侵食する。

全長20m、幅10mはあろう黒き暴風を地上の堕天使へ左払い。








(浅黒ーーーー否、漆黒だな。)


ルシファーはそれに対して仁王立ちのまま何もせず静観していた。

無論《刀衝》は完全に直撃した。


直撃箇所半径10m前後に荒れ狂う暴風の中心。

現れるのはーーーーーー無傷のルシファー。








ま、そうだよな。

この結末は巳浦にも想定出来た。


着地したと同時に、能力を切り替える。

《刀衝》を消し、Second skill《剣衝》へと変化。



此方は《刀衝》と違い距離は15m、横幅も5m。

全体が短く細く凝縮された代わりに威力が増大。

 ルシファーの眼前2mまで駆け込み、左半身を前傾に踏み込ませながら両手で突き刺す。


爆発に近い轟音が鳴り響く。

周囲7〜8mに爆風が荒れ狂うも。









ーーーーー拍手。

現状想定出来ない現象が起きる。


後方へたった一歩分後退させられた事への拍手である。



巳浦が口を開けながら目を見開き正面を見る。


右掌で簡単に受け止めたルシファー。

しかし人間に押された事が余りにも久しく、多少の感動さえ覚えていた。



さぁ次だ、と告げると再び腕を組み仁王立ちに。

馬鹿げてる、堅いとかそんな次元じゃ無いぞ。









興味から、巳浦は訊ねる。

ダンジョンはどのくらい強かった?と。


それに対して数秒沈黙するも、思い出したからか明らかに高揚した口ぶりでその強さを語る。








「奴は強かった、本当に。」

「古い時代に戦ったあの黒人の巨人を彷彿と………部分的にはそれ以上の強さを持っていた。」


「巨人?フシューゲルの事だな。」


「あぁ、そう名乗っていた。

彼奴が圧倒的な体格による防御と筋力を誇るとすれば、」






「ダンジョン。

奴の取り柄は再生と速度と言った所だ。」

「だが、それも実際には違かった。」


「違う………どう違かった。」


「 skillの影響で通常より遥かに高速となり、更に全く読めぬ軌道から繰り出される斬撃は最早不可避と言えるだろう。」

「更に致命を負えば、魔素の面を被り天使と同等に近い身体能力を発揮する。」




「今の貴様が1なら通常時の奴が2。」

「本気の状態の奴が4程度といった所だ。」


「ーーーー成る程、やっぱり彼奴は強いよな。

俺も昔手合わせした事あるから分かるぜ。」


「…………ほう?して結果は?」


「さあな。

でもまぁ、俺も戦えてたぜ。」








ぼんやりとした光景を想起させる。

手合わせで死ぬ所までやる訳もないのだが、基本状態のダンジョンとは互角であった。


まぁもし本気だったら、お互いにどうなるか全く想像が付かないが。



巳浦が不折に対し skillの同時使用を行う。

以前に意思との戦いで見せた《刀衝》《剣衝》の同時行使だ。

 距離35m、幅15mを誇る超斬撃。


相変わらず棒立ちの堕天使に対して軽く跳ぶと、真上から両手で振り下ろす。








その時、確かに聞いた。

大半の相手なら死を覚悟するだろう攻撃を右腕で掴み止め、その爆心地の中で威力に感嘆する様な息を漏らしていたのを。


刀身を掴んだまま背後へ2mほど仰け反り、巳浦も引っ張られそうになる。

反射的に刀を霧散させルシファーの胸部を左脚で蹴り付けると何とか離脱する。



ルシファーはその威力からダンジョンの《投擲》に並ぶと体感すると、素晴らしい一撃に思わず拍手する。

未だ余裕の態度である現状に巳浦も焦りを感じざるを得なくなる。









テンは、前に手合わせした凛堂が放っていた居合斬撃よりも大規模の斬撃である巳浦の skillを容易く受け続けるルシファーに鳥肌を立てていた。

※《刀衝》よりは威力的に凛堂に軍配が上がるが、《剣衝》で五分程度。


ヴェルウェラも、自分が戦ったとして似た様な流れになる事を身を以て知って知るので息を時々止めながら見守っている。



そんな中、彼女は巳浦にまだ使っていない攻撃がある事を知っていた。

だがその攻撃は【不折の黒刀】では不可能。

 一体どうするつもりか。








「ーーーーー悪い不折、一旦仕舞うぞ。」


ーーーーうん、その方が良い。

俺じゃあ駄目だ。


「後で、また宜しくな。」


ーーーーあぁ、またな。






ーーーー……………次は俺、か。

そうだな、それが正しい。


「おう、頼むぜ【回帰刃】。

お前や【狂い】でも無理なら俺は、その次が無い。」


ーーーーまぁ仕方無いだろうさ。

楽しもう。


「軽く言いやがってよ。

ま、そうだな。」








ルシファーは、右手に握られた新たな刀が常に強化魔素を垂れ流している事に直ぐ気付いた。

 それは本人の魔素ではなく、大気中の魔素を強化して従えている様子だ。


面白い芸当に注目していると、巳浦が突然彼との間にあった20m近い距離を0.5秒で詰め左手に握る刃を左払いする。

 彼がそれを左腕で掴むと、不思議な事に掌を中心に強力な風圧が吹き荒れた。



skill程ではないが、長さ5mに幅1m程の無視できない規模の斬撃がその後も一振りする毎に堕天使へと襲い来る。








【狂いの漆刀】の《剣圧拡散》と違い。

【回帰刃】の《強化斬撃》、威力や規模こそ控えめなもののそれ自体に何の魔力も消費しない。


そんな攻撃を秒間に3発斬り込み、ルシファーの鎧に纏われた魔素を微かながら削り続ける。



これが対ルシファーの適解である。

魔素を消費せず、それでいてルシファーの鎧防御を少しでも弱体化させる斬撃。


狙いを察知すると、初めて巳浦に対して攻撃の姿勢を取る。







受ければ只の素手だろうが骨折は免れない。

恵まれた動体視力と集中からそれらを全て躱し、その間も常に反撃で《強化斬撃》を斬り込む。


ルシファーは、ダンジョンと違い根本的に攻撃を【避けてくる】可能性を考慮はしていたものの完全に見切られるとは思っておらず薄く驚いていた。

 そんなやり取りを30秒、1分と続け。


ーーーーーーー。









ルシファーの鎧に纏われていた魔素も幾らか削られ、若干だが現状に対処し切れていない事も把握した。


周りへ撒き散らされた強化魔素の残滓は積もり続け、辺りの直径100m以内を黒く濁った空気が漂う。

その中、更に攻撃を入れ続ける巳浦に対してルシファーが一言だけ言葉を発する。








「ーーーーー良いだろう。

お前には資格がある、ならば使おう。」


「へぇ、やっと戦う気になったか。

遅かったな。」


「試していた。

人間の代表と言える貴様の強さ、その一線をどこに引くか。」

「理解した、お前は間違いなく人外だ。」





「人如きに振るうつもりはないが、人とは大きく離れた力を秘めるお前は別だ。」

「【天界大剣】、使うべきだと判断する。」





「ーーーーーうぉ。

………素で威圧されたのか、俺。」








並の人間よりも遥か極大な黒い刀身。

それを右手に持ち刃の部分を右肩に乗せると、それを右下へ単純に振り下ろす。


その風圧だけで、巳浦が《刀衝》を振り抜いた時と同等の強烈な風が吹き荒れる。

 土舞い上がる風に前髪を乱しながら、巳浦は彼へと飛び込む。



どれ、力比べだ。

両手で握った【回帰刃】を左斜め上へ切り上げると、それを右手だけで持ち真下に向けた大剣で止める。

そして、たったの1mmも動いた気配はない。








瞬間的に【回帰刃】を霧散させると、流れる様に【狂いの漆刀】を右手に持ち固有 skill《剣圧拡散》を使用する。

 右脚を前のめりに背中を後ろに反らせた姿勢から右腕を真上に切り上げるも、その刀身から放たれる衝撃波を横に向けた大剣の腹で完全に止める。


削り取る性質を持つ《剣圧拡散》の特性などほぼ意味がなく、幾らか鎧の魔素を剥がした程度。

 一歩離れる。







不折に持ち直すと、焼き直しの様に《刀衝》と《剣衝》を右手右払い、左手左払いする。

その双方を右手、左手に都度持ち替えた大剣を再度真下に向け受け切る。

 全く効いてる気がしない。


最後の足掻きとばかりに《刀衝》《剣衝》の同時使用による攻撃を仕掛けるが、真上から両手で振り下ろされたその攻撃を上に横向きで構えた大剣に防御されてしまう。

微かに足が数センチ沈んだが、それが何だという話である。



そして、お返しとばかりに初の斬撃を繰り出してきたルシファー。

 その右手から無造作に振り下ろされる攻撃に対して《刀剣衝》(刀衝と剣衝の同時使用技)を左脇後ろに切先を向けた状態から両手で切り上げる。


その結果は。























「もう手詰まりというのか。

これが大英雄の力か。」


「へっへへっ…………化物かよっ………」








先程の攻防の結果としては、単純な振り下ろしと《刀剣衝》が拮抗し合い。

最終的には巳浦が後方へ数m吹き飛ばされた。


ダンジョンでさえ真面に受け止めれば足が屈伸するほどの衝撃だ、寧ろ吹っ飛ばされただけであるのが凄いとも言える。

 しかしこの様では到底勝ち目など無い。



ルシファーは大剣を地面に突き刺し、巳浦の次なる一手を待っている。

 その余裕綽々な態度に苛立つも、このままでは火力が足りず何も起きないのも事実であった。








……………やっぱ、必要だよな。

方向は、街中だとやっぱり真上か。


何やらよろよろ立ち上がりながら独り言を呟く巳浦に対してルシファーはその新たな攻撃手に期待を募らせる。



右手に握る不折を霧散させ、今回は狂いを持つ。

それに《刀剣衝》を纏わせながら、勢い良くルシファーの懐へ潜り込む。

 咄嗟に真下の巳浦へと右手に持った大剣を振り下ろす。








そうだよな、堕天使。

お前はそれくらいしか芸が無い。


でも今から使う技は、ちょっと違うぜ?

そうして真下から左上へ切り上げる際、《刀剣衝》に《剣圧拡散》を上乗せする。

 後押しのように過剰な魔力を流し。


その技は、天界大剣と打ち鳴り合いながらも勢い勝り。








「ーーーー《刀圧剣衝》。」


「むぅッ。

この重さはーーーーー」









ーーーーーーー。

ルシファーの鈍重な肉体は空中へ300〜400m天空へ打ち上げられた。


《刀衝》《剣衝》《剣圧拡散》だけでなく、更に過剰な魔力を出力し放たれた《刀圧剣衝》。

 その威力はダンジョンの《極砲》に並ぶ。


消耗が激しい代わりに溜めの動作が無い巳浦のこの技は、何発も乱用できる代わりに溜めが長いダンジョンとは似て非なる技。

だが戦闘に於いて先手が理想であるのを踏まえれば、巳浦の《刀圧剣衝》の方がより完成された技とも考えられる。



そうして黒い魔素の中を自由落下し続け。

8秒と少しで地面に激突したルシファーは、地面への衝突自体には何の負傷もない、が。








一撃でルシファーの保有する魔力を14〜15%消費させられた。

魔素2割消費の滅砲を7割相殺する極砲や刀圧剣衝を仮に直撃させるとこれだけの被害がある。


そもそも少し前にあった1分の切り合いで180発前後攻撃を打ち込まれ魔素を削り取られており、今残された魔素量は100−(15+18)=67%程。



ダンジョンや松薔薇達を代表とする自然魔力使いは自身の魔素だけを使う訳ではないので効率が良いが、それ以外の魔力系統は使った分だけ無くなる。









現状巳浦の残存魔素量は60%ほど。

刀圧剣衝は一回で30%ほど消費する為連発出来ないのだが、それしか通る攻撃が無い。


原初と本気の戦いをした時に使った事がある自身最大の攻撃。

それは、刀圧剣衝のーーー。



右手に狂い、そして左手に回帰刃を持つ。

ルシファーはそれに対して大剣を両手持ちで真上に向け《滅砲》を構える。








だが、表情が見えない程下に俯いた体勢から頭突きするかの様に一度で踏み込んでくる。

放たれる丁度の大剣の先端に右手で持った狂いを振り下ろし、《滅砲》と《刀圧剣衝》は殺し合う。


それでも相殺し切れず侵攻してくる3割の《滅砲》は、左手から振り上げられた回帰刃から放たれる2度目の《刀圧剣衝》により完全に掻き消され、更に残された滅砲4割相当(刀圧剣衝6割弱分)の出力を叩きつけられ先刻の再現の様に空中200m少し打ち上げられる。



ルシファーに残された魔素量、38%少し。

それに対して巳浦はと言うと。




















「いや無理無理無理無理ぃぃーーーーむりっ!!」


「うん、私も逃げるのが正解だと思うよ。」

「凄い格好良かった、惚れ直した。」


「うん今俺話してる余裕無いから悪い!

安全なところ行ってから話そうぜ!」


「うん、そうだね。

化物撃退お疲れ様。」


「おうっ!!」








思いっきり逃走していた。

ヴェルウェラは無論戦う気などなく巳浦の命懸けの戦いを見るのに夢中だった。


仮に追い打ちを仕掛ければ本当の撃退も可能だったろうが、変に横槍を刺して恨まれる可能性を考慮したら逃げるべきだろうというのもある。

 巳浦も巳浦で疲労困憊であり、ヴェルウェラにおんぶされて息を整えている状況である。



今頃こちらを探したりでもしているのかと考えるが、今はもう戦闘可能な体調ではないのでどの道逃げる。

テンには別れ際挨拶をしつつ、テン側からも永澤の応援が来る話を聞いて一先ず安心した所だ。


寝たい、帰りたい、休みたい。

今はもう、何も考えたくない。
























「………………天晴れだ。」

「最強の魔王と、最強の大英雄。」


「成程、面白い。

この俺の滅砲を消し飛ばし、剰え俺自身にまで攻撃が届くとは、な。」





「どうだァルシファーさんよ。

大英雄は強かったかイ?」


「ーーーーうむ。

引き際も良い、危機管理も流石と言うべきか。」

「真っ向から斬り合うならダンジョン、

技の応酬なら巳浦、か。」








血が湧き立ち、心躍る。

兜を外し見えるルシファーの表情は、テンが青褪めるほど満面の笑みを浮かべていた。


最初はヴァンデル遺跡を根城にするつもりだったが、先の戦闘で興奮しておりそんな事はどうでも良くなっていた。

ルシファーは消耗した魔力を回復させる為に一室を自分に貸すのと引き換えに街を離れると告げ、テンもそれを受け入れた。



この日の営業は急遽休業となったが、その戦いを然りげ無く録画していたテンはそれをどう活用するか考える。

 そんな彼の考えなど露知らず。





ーーーーなんださっきの戦闘はぁぁ!!?

ーーーーどっちも化物かなんかだったぜ!

ーーーーあいつら何者だっ!?


大層盛り上がっている。

その観衆の中、見慣れぬ者が1人いる事にテンは気付く。

 まぁそんな事よりも今はルシファーを刺激しない様に戸締りをしなくちゃだナっ。











「すっげぇ戦いだなぁーーーあっとすまん。」

「…………頭身高いねぇ嬢ちゃん。」


「……………喋り掛けるな、豚。」


「な、何だとこらっ!?」

「優しくしてやったらこの女ーーー」








その言葉を続けるより前に両足を右脚で左払いされ空に浮かされる。

そのまま右脚の踵落としを頭の横に落とされると、地面の石畳へ数十センチ沈む。


白い長髪をオールバックにした紅軍服の女。

裏天使、エラウェル。



先程の戦闘を見て、意思が巳浦に興味を持った理由が良く分かった。

そして、堕天使ルシファーの危険性も。


人々がその騒音に注意を引かれ視線を移すも、既に彼女の姿は消え失せていた。

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