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英雄までの物語  作者: ノンプロット
一年期七月下旬〜 反英雄
102/113

九十九話 新たなる

同時に出しておきます。






10月28日。

前日の夜に起きた騒動は既にフレッグが仕切るここ左ブロック地域一帯に伝わり。


















「にしてもここ最近は景気が悪くて仕方ねぇ。」

「フレッグの旦那も、武器ばっかりじゃなくて食いもんにもう少し金回してくれりゃあなぁ。」


「あぁ本当になぁ。

しっかしよぉ、昨日のーーーー」

「お、やべぇ!全員静かにっ!」









早朝。

朝の6時過ぎにテントから姿を現したヴェルト。



前日に見せた実力の片鱗から、既にフレッグの信頼、権威は落ち始めておりその代表格はヴェルトへと移り始めていた。

 実力主義の男達が集う紛争地帯に於いて、半英雄級の人間が居ればそうもなるだろう。


ヴェルトは萎れたYシャツを少し手で引っ張り整えて、日の出を見つめる。

 朝方はいつもこうして気分を上げる。



少し遅れてパジャマ姿で出てくるアレンは、ボサボサの髪の毛を目から退けて大きく欠伸する。

 可愛らしい姿に一瞬空気が緩むも、ヴェルトとは似合わない組み合わせに男衆は呆然とする。


そんな事を知りもせず、アレンは体に染み付いた石鹸の匂いがヴェルトの服から移ったのだと気付き声を掛ける。








「ヴェルトは、シャンプーとかボディソープは使わないの?」


「ん。

そんな物、ベルボラン付近じゃ無いよ。」

「水浴びに持ち込む石鹸も、偶に来る行商人から1人一個までの制限付きで買っている物だ。」


「ふぅん、そっか。」

「でも結構いい匂いするね、へへ。」


「………そんな君からは何の匂いもしなかったが。」






「あ、気付いた?だよね、分かるよね。」

「これはねぇ〜、」









アレンが全身に魔素を纏う。

どこまでも澄んだ、翡翠色の霧と化す自然魔素。


それを全身の表面へ駆け上がらせ、目に見えない汚れを削り飛ばす。

どんな魔素でも別に可能ではあるが、驚くべき魔素操作の技量にヴェルトも目を見張る。



質量で強引に吹き飛ばすのではなく、最早【拭いている】様な次元だ。

なるほど、匂いも何もする訳がない。


ヴェルトはそれを見て思わず拍手する。

照れ臭そうにする仕草が完全に女の子だが、本人は素でそうなのでどうにもならない。




そんな2人の元へ、朝早くからフレッグが訪れる。

現時点での長である人間が現れては、周囲の者達も静まる。


そして二人へ疑問を投げる。








「何故ーーー俺は助けられた?」

「どうしてだ?そこの少女、なぜに?」


「えっと、訂正したい部分もあるけど今はいっか。」

「別に特別な訳は無い、人の死ぬ所を見たく無かったからだよ。」


「…………ここは生き死にのやり取りが普通だ。

助けられて言うのもおかしいが、間違っている。」


「そっか。

でもそれだと僕、ずっと間違えちゃうかも?」

「許してね、フレッグおじさんっ!」


「っ………………ふん、もうこの話はいい。」








ヴェルトへ向きを変える。

こちらが本題、と言った様子だ。


ヴェルトもまた、気怠そうに首の関節を右手支えに鳴らし顔を合わせる。

 暫し目線を交わすと、フレッグが頭を下げる。



信じられない顔で周りの男等は見つめる。

日頃から自身の存在を誇示し続け、生意気な者は半殺しにするのも当然な男が。

 人に頭を下げる姿など初めてだ。







「俺じゃあ、ここは仕切れそうにねぇ。

お前のあの素手の攻撃は、間違いなく俺を即死させる威力だった。」

「それを認識した頃には、横の茶髪に助けられてたよ。」


「ふむ、そうか。

で、なんだ?」


「ここは今から、フレッグ連合改め。」







「ーーーー【ヴェルト傘下】とする。」

「他の奴等にも文句は言わせん、これで許せ。」


「そうかそうか、賢明だな。」

「私は今日中にお前を半殺しにするつもりだった。」


「な、なに……?」


「だが自分から降参というなら別の話だ。」

「許そう、私の傘下に降れ。」


「…………了解だ。」







ーーーー歓声が上がる。

それは、これまで均衡を保っていたベルボランの状況を打ち破る時が来た事への喜び。


ヴェルトはその耳に響く声量に白黒の髪を靡かせ、そんなのは当たり前と言った顔で次の計画へ歩を進める。



アレンはしれっと彼の言葉に続いて次なる発言を切り出す。








「僕の事も忘れないでねーーーっ!」

「アレンって言いますっ!

この人と同じくらい強いですからぁーっ!」


ーーーーーえぇぇぇえぇっ!?

ーーーーー嘘は良くねぇぜ嬢ちゃぁーんっ?

ーーーーーフレッグさん助けたからってよぉ。


「な、ななっ。」

「そう思うのも良いけど、本当だもんっ!」


ーーーー可愛いだけだぞーーっ!

ーーーーヴェルトの旦那も人が悪りぃぜっ。

ーーーー俺の所にも泊まり来いよ〜っ?


「誰が行くか!ばーかっ!」


「…………まぁ、勘違いされてる方が良い。

こうなったら次の段階に移るぞ。」






 

二人は未だ冷めぬ人々の興奮から遠ざかる。

向かうは。

















「昨日僕が入った食堂だ。」

「朝食は、みんなここで摂るの?」


「まぁ、そうだな。」

「私は肉体面の栄養を考えて必ず肉類を摂る。」

「後は本を読み進める上で頭も疲れるし、糖質補給を兼ねて果汁類も注文するね。」


「僕は朝入らないし、トースト一枚とオレンジジュースにしよ。」


「見た目通りだな。」


「なに?なんか文句あるの?

良いでしょ、子供っぽくても。」









ヴェルトが先払いで金を渡す。

 店主はそれを畏れながら受け取ると、昨日来ていた可愛らしい少女が現長であるヴェルトと対等に話している事に驚愕する。


流石に気を利かせるべきか?と考えてトーストを一枚おまけしておいたら、アレンは悩みながら頑張って食べていた。







ヴェルトは、自身の産まれた国も、本名すらも知らない。

そんな彼が物心付いた時、既に孤児院にいた。


ベルボラン紛争地帯とジィーグン歓楽街の中間辺りにある【バサネラ村】が彼の故郷である。



地元では身長に対して痩せているせいで良く小馬鹿にされていたが、自室や野外、どんな場所でも毎日肉体への鍛錬を止める事はなく。


気付いた時、15の頃には肉体美すら感じる程にしなやかで筋の通った筋肉を備えていた。

 それからは質を求め、彼方此方の魔山や危険地域に赴き現代では珍しいレベリングを行っていた。



そんな彼が25歳になった時。

10年の歳月を毎朝毎晩戦いに置く狂気の日々が、彼のlvを99まで押し上げた。


しかし冒険者などで活躍した所でどうせ古い時代の様に功績を上げられないと分かっていた彼は、現時点まで表立った活動をしてこなかった。

 それも、今日までだ。






アレンを見る。

本物の英雄であるこの少年と手を組めば、どんな難関をも乗り換える事が出来るだろう。


成長の限界を感じた時以来の感動が、静かに脳と全身を巡っていた。

その高揚は微妙に手先を震えさせており、アレンはぼーっとそれを見つめていた。



そんな時、両者は秒で何かを感じ取る。







「もぐ…………よし。」

「ヴェルト、分かってるよね?」


「あぁ、そうだな。」

「良い頃合いだろう、私も孵化の時だな。」


「凄いよね、もし出来たら君はもうーーー」


「以前は負けた。

今回は君もいる建前負けられないが。」


「うん、頑張って。」








外に出ると、半径20m以内のテントや諸々を吹っ飛ばして中央に片膝を突く何かが居た。


【特別系統】の魔物が、先日と先刻に放たれたアレンとヴェルトの魔素を切っ掛けに奇跡的な確率で誕生した。



その外見は騎士の様であり、真っ白な金属の鎧に身を包み左手には大盾、右手に赤の縦線が入った鉄剣を持っていた。

 【呪鎧】の対となる【浄鎧】と呼ばれる個体だ。


それは顔を下に向けて、その時を待つ。

そこへヴェルトが歩んでいく。







アレンはそれを見て、嘗て打ち破った【特別系統】の魔物を思い出す。

種類は別物だが、放つ圧は同等。


これを倒せる者は皆例外なく真の英雄。

ヴェルトは、その最後の一段へ足を掛ける。











ーーーー触れる。

それと同時に、右手の剣を左上へ切り上げる。


ヴェルトは一歩後ろへ跳びそれを躱した。


しかし胸元に微かに血が滲む、完全には避けられなかった。

だが致命傷では無い。



アレンは召喚されて以降二度目の緊張感に鳥肌を立てる。

(一度目は魔王と原初の手合わせを観戦した時。)







(成る程。

ーーーー今も…………やはり。)


ヴェルトは、自身が打ち込んだ突きや蹴りに対して後出しで防ぎ、切り返してくるのを見て反撃主体なのを理解する。


必ず盾で受けるわけではなく、時折剣の腹で往なして最速の反撃を見せる時もある。

 返しを主体とするなら、手は一つ。






アレンは、彼の行動を見て理解する。

それと同時に恐怖を覚えた。


カウンターを取らせない為に、敢えてゆっくりと間合いを詰めている。

そして拳1〜2個分の距離から全力で勢いを乗せて胴の中心に左正拳を捻って打ち込む。



それは先日見せた発勁よりは劣るものの、強烈な金属の衝撃音を鳴らす。

鐘を鳴らした様な響きと共に、浄鎧は1mほど後退する。


だが。








(ーーーー固い。)

たった一度真面に直撃しただけで、ヴェルトの左手指に鈍い痛みが走り回る。


微かに口元が歪む。

そこそこといった成果に対し、手痛い代償。



ヴェルトは手に嵌めていた皮の手袋を外し、ある魔物の骨から削り出したメリケンを小指から人差し指までに嵌め込む。

 そこに更に加速のみに留め使っていなかった強化魔力を纏う。





騎士は、先の攻撃に対して警戒を見せる。

盾を正面に構え、右手以外ほぼ隠してしまう。


しかしそれに構う事なく踏み込み前のめりになる右半身から先刻と同様の正拳を捩じ込む。



金属同士を擦り合わせる不快な音が大音量で鳴り響く。





騎士が、打ち込んできたヴェルトに対し右手に持った剣で刺突してくる。

それに左半身を向け下から丁度左拳を打ち上げると、軌道が逸れて右脇が隙だらけになった。


そこへ右足を起点に踏み込み左前へ姿勢を低くすると、左拳のメリケンを鎧から数cm空ける。

 そこから右肘を後方へ引くと、乗せた勢いを背中へ流し更に左肩から手先まで連動させる。



打ち出された寸勁は完全に騎士の右胸へと直撃した。

その衝撃は消えず、鎧の全身へと駆け回り深く響き続ける。






それでもまだ倒れない、流石に固いな。

良いだろう、使おうか。


ヴェルトが誰にも聞こえない音量で言葉を発する。






『ーーーーーfirstskill《強体》』

『ーーーーSecond skill《瞬撃》』







それを使用してから一瞬。

赤黒い魔素を両足に纏ったヴェルトの左上段回し蹴りが、浄鎧の兜に叩きつけられた。


今までに感じた事のない殺傷力に満ちた肉体から放たれる超高速の蹴りは、二重の威力増加で容易く兜を割り抜く。


速度だけで言えば涼木の《猛打》に相当し、威力は強化魔力を纏っている分上回る程。

 だが連射は効かず、且つ本人の魔素量も普通で二種の魔力を行使する事も相俟って疲れる。



この二つを同時行使する攻撃を《刹那》と呼称し、強敵との戦いでのみ使用する。

 そう決めてはいたものの使ったのは初めてで、驚く程の疲労感に1発の蹴りにも関わらず両膝を突き呼気を荒くする。












それでも彼は、勝った。

【魔晶】をアレンから手渡されると、ヴェルトは両手のメリケンで砕く。


それはヴェルトの肉体へと粒子となって吸収され、ヴェルトの視界に電子情報として表示される。



《名称:フェルトヴェルト》

《種:人間》《LV:99→100》

《系統:強化・加速》《性別:男》

《firstskill:強体》

《Secondskill:瞬撃》

new《thirdskill:衝複》new

《Special skill:刹那》






それを見て理解するより前に、彼は倒れた。

 アレンは、目前で新たに誕生した英雄級の一人であるヴェルトを見て安堵と同時に危機感を覚えた。


ここまでの力を身につけた人間が、もし他の国家にその凶刃を向けたら…………。

 アレンは内心でもしもの可能性を考慮しながらも、一先ずヴェルトの肩を担ぎ自分達のテントへと帰宅した。











ーーーーちなみに。

この光景を見ていた者達は常時狂乱の声を上げて新たな長であるヴェルトの強さを目に焼き付けていた。

特に最後の一撃は周囲数mへ赤黒の旋風を巻き起こし、素人目にも常人ではない事を理解させた。



名実共に、自他共に。

この戦いを経てヴェルトは、左ブロックの長となった。


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