第七話 居合
新しい情報多いです。
「どうした?もう終わりかよー?
ベレッタ。ザラデス家を騎士家系にカチ上げた俺の貢献を無碍にするなよ。」
「ですが凛堂様、幾ら俺達でも、その、英雄を相手取れるなどと自惚れてはありません!」
「言ってなかったっけか?【四刀剣の巳浦】は、最終ラウンドで来る筈。俺も大将さんに腰据えるからお前らはそのまま10月まで居合を鍛えろ。
ザラデス家には象徴となる流派が無いんだからなぁ。」
ここはハイデン王国。
バルト王国の東方面に大体100km程の距離を隔て存在する王国。
その王城、と言うか大きな五階建ての屋敷風な建築物の三階にあるのがこの観覧自由の訓練場。
今凛堂は7月の上旬に入りバルト王国で団体戦が始まった事を耳にし、此方も更なる力を付けるべくザラデス家をこれまで以上にしばくと決めた。
今はベレッタ・ザラデス、四人兄妹のザラデス家における長女を筆頭に訓練場に呼び出した計3人をつきっきりで訓練していた。
パムルスは今バルト王国へ偵察と情報報告を兼ねた派遣へと向かわせているので、今は長男ブレイ・ザラデス、先の長女ベレッタ・ザラデスに次女のレベルタ・ザラデスを同時に鍛錬している形となる。
居合。
それは、凛堂が巳浦の来る2年以上前に落ちぶれのザラデス家に来訪し、広めた技術。
全盛期の凛堂ならば、この居合一つで一人の英雄や魔王、黒人相手に優位に立ち回れる事もある程の洗練された技能。
ロルナレ家の全四式に渡る剣術が長年代を引き継ぎながら強くしてきた様に、凛堂は我流で振るっていた自分の戦闘法を居合とし、かれこれ四千年近く振ってきている。
そう、巳浦達公に知れる英雄が二千年と言う規模なら、魔王や黒人と言った種は世界の始まり、0年に最初から存在していた。
この物語ではそこまで深く語る部分では無いの割愛するが、わかり易く纏めると人類が繁栄する前の時代から生きてきていた。
そんな五柱の内の一角である凛堂は、これまでに経験してきた死線、修羅、地獄の緊張感、高揚感を知ってしまったせいでとても暇な生活をしていた。
そんな時、世界中に不穏な噂が流れ始めた。
英雄が、召還される。
大きな何かが起きる、と。
今までにも召還が行われたことはあったが、それはもう今と比べて随分熱かった時代だ。
ここまで平和な時代に何故呼ばれるのか、心が躍った。
だから凛堂は手始めに駒となる部隊、チームを欲した。
それに選ばれたのがザラデス家。
こう聞くと単純な訳にも思えるが、一日中、睡眠、午後9時から朝の7時までの間、食事時以外の全ての時間はつきっきりで居合を教え込んでいた。
そんな生活が続きハイデン王国のVIPとして迎えられてから一年。
表向きには何処かは消えたと風を流してはいるが、実際は当時来ていたズボンとタンクトップという分かりやすい外見から黒い外套を全身に身につけ世間の印象と噛み合わない容姿にしただけだ。
バルト王国のロルナレ家が騎士家系の任を外されたのは、凛堂により魔力操作や実践向きの戦闘スタイルを教え込まれたザラデス家が、5年に一度ある入れ替え戦で4対0という圧勝を飾り堂々の騎士家となった時。
明らかにロルナレ家以外の家系でも異質な力を持っていたザラデス家は騒がれた。
何故そこまでの力を付けることが出来たのか。
そこで世間にその顔と指導性を知らしめたのが凛堂であった。
今から一年程前のことである。
それまで数百年座を守り続けたロルナレ家を退かし誇り高き力の称号、騎士の名誉を受けた家系はザラデス家のみであった。
そんなザラデス家の四人兄妹だが、ここ最近様子が変だというロルナレ家の実態をパムルスの報告や凛堂から話される内容で知り、再び焦りを感じ始めた。
そして七月頭の今に至る。
訓練場の周囲に高く積まれた座席に大量の観戦者が居る中、実力を付けたザラデスの名の者が3人同時に片手だけであしらわれるというのは言葉にし難い差があった。
「凛堂様、私達が実剣を使っているのに、貴方はいつも素手だ。
もう2年以上そうだ、そろそろ貴方の剣を見せて下さっても宜しいのでは?
これでは少々実践性に欠けてしまいます。」
長男のブレイがそう言う。
まぁ、ある程度理に適ってはいるか。
「私達が強くなるのに一年以上掛かったのに、例の英雄がバルト王国に召還されて、たった1ヶ月程でもうその噂が耳に入ってきています。
異常です。」
ザラデス家の長女、ベレッタが焦る顔付きでそう説明する。
次女であるレベルタも頷いていた。
しかしこの提案は呑むに呑めない。
「そうしてやりたいんだけどよ、俺の剣なんか使ったらお前ら、下手しなくても死ぬよ、マジ。
人間が防ごうってんなら冗談抜きで英雄位能力無いと無理なんだよなぁ。」
「それなら加減して下さるだけで幾らか融通が利くのでは?我々は本当に焦っているのです!またザラデス家が地に落ちてしまっては沽券、いえ。
プライドに関わるのです!」
「…………よぉし、そんなに言うならブレイ、前に立て。
他は見てな、どうなるか試してみようか。」
「!お願いします、凛堂様。」
初めて見れるのかもしれない。
魔王、その一人とされる凛堂の剣を、力の片鱗を。
その場にいた3人だけに収まらずギャラリーすらが。
「ふぅ…………………」
突然踏み込み、左手を軸に右手を左腰に添え構え始める凛堂。
見た事のない真面目な顔に、何か不安を感じていた。
その不安は、正解だったのかもしれない。
いや、違うのだろうか。
現れた。
青、黄色、黒。
三色の魔力が霧のように溢れ出る一本の剣。
流液。
青色の魔力、液体、流動体の速度、性質に干渉する性質。
感電。
黄色の魔力、電気信号、物理的な電撃、様々な電気、雷に干渉する性質。
強化。
黒色の魔力、肉体から生まれる慣性に干渉する性質。
凛堂は三つの魔力を司る男だ。
だが、ここまで顕著にその性質が現れるのを見るのは初めてだった。
ブレイも、ザラデス家の系統である流液の魔力を発揮し、肉体に流れる血液の速度を跳ね上げ、超短期間で決着を付けるべく肉体の限界を越え始めていた。
観衆が歓声を上げた。
そして、構えを取っていた凛堂に飛び込み、そのガラ空きとなった右脇へ抜刀した。
決して、遅くはない。
寧ろ早い、素人目には抜いた動作が確認できない物だ。
ーーーーーーーどうだ!
からぁん、物の落下する音。
意味が分からなかった。
何の音だろう。
振り向いてみると、そこにはいつの間にか剣を抜き、直ぐに空間へと霧散させている凛堂がいた。
手元を見る。
「…………は?………」
純鉄を打ったとても強度の高い鉄製の剣が、何故か【剣先、中腹、柄】の三箇所、紙切れのように綺麗な断面を作り切り落とされていた。
意味が、訳がわからなかった。
目には何も映らなかったのに、何が。
「凛堂様、これは一体、
「お前が大振りな抜刀をしている間、暇だから柄を分断して、勢いで飛び出た剣身を二箇所切断した。
そんだけだ、単純だろ?」
「え、いや、どういう芸当なのですか、それは。
人間には到底敵わぬ事象に思えます。」
「人じゃねえんだぜぇ、俺は。
当たり前だ。まぁ、英雄なら出来るけどな、普通に。」
この場にいる人間が戦慄する。
英雄とは、それ程の者なのか。
この男にそう言わせる程の力が、人間に許されるのか。
大きな声が飛び交う。
それは、凛堂の正体に信憑性を持たせただの、この男のバックボーンなどに関する様々な話題であったが、当人にはどうでも良かった。
ブレイ達に凛堂は最後、こう説明した。
「イメージとしては、弾丸を切り落として、砲丸を生身の拳で打ち砕き、視界一面の大地を燃え上がらせ、凡ゆる万象、情報を見抜く。
英雄ってのはそんな奴らだ。」
そう言い去ろうとする凛堂を呼び止める者がいた。
ベレッタだ。
「り、凛堂様。最後に質問があります。」
「何だ。」
「貴方なら、剣の英雄巳浦に、勝てるのですよね?」
核心を突く質問だった。
だが、聞いて良いものか分からず躊躇っていた部分を、彼女は切り開いた。
良くやったと皆が思った。
「うーん、良い質問だ。そうだなぁ…………」
「ーーーーーーーー無理。」
「……………え?無理………」
「そ、そんな馬鹿な!?あ、あれ程の人智を超える力があって、魔王の貴方が人に負けると言うのですか?!」
「黙れ。お前らは英雄をわかってない。
あいつらは────特に巳浦はイカれてる。」
そう静かに怒る凛堂の顔は、凄まじい怒気を込めていた。
「剣の大英雄巳浦。
人の身にして魔王や天使以上の高位な存在となり大魔戦記以降、原初の人間と共に別世界を渡った事のある唯一の人間。
女とも言えるのか、両性だ。」
「拳の英雄涼木。
天使が致命傷となる程の打拳を持ち、歴史にある冥獄崩壊記の世界危機に参戦し俺達と肩を並べた天才の拳闘家。」
「炎の英雄永澤。
大魔戦記時代に討伐不可能と言われた不死身の魔物、黒人の成れの果て【アッシュヒューマン】を、無限に消える事のない炎により単騎で撃破。
領土侵魔記に於いて召還され、当時老獪となった身の英雄松薔薇ととある一体の魔物と共に世界の均衡を崩した数十倍規模の魔物を制圧した功績を待つ。」
壁に貼られたギルド誓約書の一枚を指差し、こう言い放つ。
「銃の英雄松薔薇。
大魔戦記、黒魔暗記、領土侵魔記、冥獄崩壊記、文明転魂記、そして現代の加速文明記。
生命終記を除き全ての時代をその身で経験した文字通りの仙人。
今は見た目こそ若いが精神的な成熟度は大木や大樹に近い。
全ての時代に於いて英雄、魔王、天使、黒人等をその全てを貫き見通す能力により勝利へ導いた指揮者だ。」
一つも聞いた事のない話だった。
観衆にいたハイデン王のみが、図書室に置かれた一冊の本に似たような人物解剖の書があったことを思い出していた。
最後に次女のレベルタが質問をする。
「凛堂様は、何故英雄巳浦には勝てないのですか?」
「……………まぁ、
「あいつに俺、居合教えてるから。」
「え、ええぇぇぇえええぇぇっ!!!」
バルト王国。
七月の始め。
朝の5時過ぎに集められたブレイドや、九人のロルナレ兄妹達に対し、巳浦はこう言った。
「俺の知ってる他の戦い方ってのも、一応教えてやる。」
「居合って、知ってるか?」
ザラデス家の感じていた不安は、正しい物であった。




