表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/7

第六話 血液型と正当な報復


「マジックメモリは主に若い世代の間で流行しつつあるみたいだ。売人もまだまだいるみたいだし」


 売人から応酬したマジックメモリを解体しながらシルヴァは言う。


「当然だよな。毎日こつこつ頑張るよりも、こいつを刺すほうが簡単だ」

「でも、その代償は高くつく」

「とも限らない」

「限らない?」


 聞き返した俺にシルヴァが四つのマジックメモリを投げる。

 赤、青、黄、紫だ。


「どうやら人によって合う合わないがあるらしい。血液型みたいなもんだ」

「A型B型O型AB型ってか」


 投げ渡された四種に目を落とす。


「そうだ。A型にA型の血を入れても問題なし、でもA型にB型の血を入れたら? それと同じことが脳みその記憶領域で繰り広げられるわけだ。そりゃ意識不明にもなる」

「あの十位の奴と依頼者の孫は運が悪かったってことか」


 自分が何型かも知らずに、異なる型のマジックメモリを体内に入れてしまった。


「だが、前にも言ったが所詮は他人の記憶で定着はしない。効果は一時的なものだし、型が合ったからと言って危険がないわけでもない。血液型も四種類しかないわけじゃないしな」

「結局の所、急がば回れってことなんだろうな」

「まさにそれだ。でも、こいつを刺したくなる気持ちもわからなくはないんだぜ? こいつがあればお手軽に強くなれるし、利口にもなれる。テストとか実技試験に悩まされないでいいって言うのは、学生にとっての理想だしな」

「みんな楽がしたいか」

「そりゃあな」


 四つのマジックメモリを投げ返した。


「うちの学園にも買った奴が何人かいるだろうな。序列十位の奴が使ったくらいだし」

「そういや、捕まえた売人の購入者リストがあったな。ほら」


 手渡されたリストに目を落とし、上から順番に眺めていく。


「……見知った名前はないな。まぁ、クラスメイトの名前もうろ覚えだけど」

「でも、買いそうな奴に見当はつくだろ? 素行の悪い奴とか」

「まぁ、たしかにな」


 ポイント強盗の連中とか。

 それに――


「シルヴァ、ちょっと出てくる」

「ん? あぁ、なんかあったら連絡する」


 仮面を被って空間の裂け目へと入る。

 向かう先はアスイマ魔法学園だ。


§


 仮面を外して倉庫から校舎の外へと出る。

 敷地は広いが素行の悪い連中の溜まり場なら見当がつく。

 足を動かしてそちらへと向かっていると、派手な破壊音が聞こえてくる。

 急いで音源へと向かうと、そこには崩れた地面に横たわる複数の生徒。

 そしてその最中に立つ、ニッキーがいた。


「やあ、キミか。こいつらの仲間かと思ったよ」


 そう言いながら足下の生徒を蹴る。

 意識もないのに、追撃していた。


「随分な変わりようだな。筋トレでもした?」

「まさか、これだよ」


 隠す様子もなく、見せびらかすようにニッキーはマジックメモリを取り出した。


「キミに言われて考えたんだ。どうやったら自分の身を守れるか。我ながら良い案が思い浮かんだよ。これならもう怯えて暮らす必要はなくなる」


 そして、そのマジックメモリも自分に刺した。


「そいつの副作用を知ってるのか?」

「もちろん。でも、大丈夫。全部、O型メモリだから。どれだけ打っても意識をなくしたりしない。それにとっても気分がいいんだ。こうしていると、ね!」


 先ほどよりも勢いよく足下の生徒を蹴り、吹き飛ばす。

 地面を転がったその生徒は血を吐いていた。


「見事に目的を達成したわけだ、おめでとう」

「まだだよ」


 ニッキーはまたべつの生徒を掴み上げる。


「散々、苦しめられてきたんだ。こんなんじゃまだ足りない。もっと苦しめないと、気が済まない」


 掴み上げられた生徒にも意識はない。

 だが、それでもニッキーは拳を握り、大きく振りかぶる。


「おい、そこまでにしとけ」


 だから、それを制止した。


「……なんでだよ」

「やり過ぎだ」

「やり過ぎなもんか!」


 掴み上げた生徒を投げ捨て、敵意がこちらに向く。


「これは正当な報復だ! 僕にはその権利がある!」

「あぁ、それは認めるよ。お前はその権利を使ってやり返した。でも、その先には進むな。引き返せなくなるぞ」

「どうだっていいそんなこと! こいつらが悪いんだ! 悪い奴が裁かれるのは当然だ! こういう奴らがいるから正直者がバカを見るんだ!」

「殺す気か?」

「あぁ、そうだ! こいつらは死ななきゃわからない! 死んだっていい人間だ!」

「……そうか。完全に飲み込まれてるな」


 マジックメモリを幾つも刺して記憶が混濁しているせいだ。

 感情に支配されて自我を失っている。

 倫理も道徳も吹き飛んで、恨み辛みだけで物事を判断している状態だ。

 今のニッキーになにを言っても通じない。


「気は進まないけど、そいつらに死なれるのもな」

「まさか、こいつらの味方をする気か?」

「あぁ、そうなるな。俺はお前からそいつらを守るし、お前からお前を守ってもやる」


 人殺しにはさせない。


「余計なお世話だ!」


 地面を踏み砕くほどの勢いでニッキーは駆け出す。

 弾かれたように加速し、握り締められた拳が飛来した。

 こちらはそれを軽く躱して振り返り、勢い余って壁を殴ったニッキーを見る。

 壁は陥没したように崩れていた。


「こいつらに味方するなら、あんたも敵だ!」

「まったく、ただ働きだな」


 でも、焚き付けたのは俺だ。

 火の始末はちゃんとしないと。

よければブックマークと評価をしていただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ