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迷子の星の子たち  作者: みなとりいあ
おつきみ
8/10

ふるさとの星

一話一話が長くなってきた・・・!

長くなりそうです、お付き合いください。

次の日、リオンは研究室にこもってなにやら資料とにらめっこし始めた。チリーはロケットの絵を描いていて、時々お茶をいれて出してくれる。

わたしは、本棚の本を左上から順番に読むことにした。左上の本は、かなり昔の物らしかった。火星の真っ赤な砂と衛星を一緒に見たらきれいだとか、土星の輪を滑り台のように滑りたいと思っている人の空想日記とか、今の地球の本屋には売っていないような楽しいことばかり書いてあった。読んでいると、昔宿題として読まされた本の、火星の砂は地球ではとても高価なものになるとか、土星の輪はほとんど氷だから使い物にならないとかいう言葉を思い出した。

こんなに楽しい本を、楽しんで読めないなんて。

地球は嫌いだし、地球人の考え方なんて信じられないと思っていたけど、わたしもやっぱり地球人なんだ。


地球人が染みついている自分に嫌気が差し、わたしは本を読むのをやめた。ずっとここにいたら、いつか何も考えることなくここにある本を楽しめるようになるだろうか。



暇になってしまったので、わたしは外に出ることにした。見上げると、青い空に薄く地球が見えた。地球で見る昼間の月のように薄くて、なんだか不思議な感じだ。


昔、地球にはおつきみという習慣があったらしい。みんなで丸い月を見ながらお団子を食べたりおしゃべりしたりしていたそうだ。リオンの本棚のなかの一冊の本に書いてあった。

地球にいるとき、わたしはずっと月を見ていた。自分と同じ気持ちの人が見つけられず寂しかったなか、夜、一人で月を見ている時間がわたしの心の支えだった。地球から見た月は、平和で、神秘的で、温かくて、きれいだった。


そんなことを考えながら地球を見ていると、隣にチリーがきた。

「地球って、本当にきれいですよね。青くて白くて緑で、本当に楽しそうな星。」

きれいで、楽しそう、か。

戦争で勝つことや他の星を利用することしか頭にないような人ばかり住んでいる星だということを、きっとチリーは知らない。

「100年くらい前に、一度地球に行ったことがあるんです。」

あれっと思ったが、この前リオンと話したのを思い出した。チリーはヒトの何倍もゆっくり歳をとるらしいのだ。

「地球は、本当に楽しい星でした。おとなは、ぼくのことを"うちゅうじん"って言うし、こどもは"うさぎさん"って言うんです。そこで出会った家族は、ぼくに"おつきみ"を教えてくれました。あの時見た月は、きれいだったなあ・・・!お団子も、とってもおいしかった。大人も子どもも、みんなぼくに優しくしてくれたんです。」

100年前といえば、まだ月にはうさぎがいない、ということが常識になった頃くらいだとおもう。実際、月にはうさぎもどきがいるけど。その頃は、地球人も優しかったのかもしれない。

「家に帰ってから家族に話したら、お母さんがお団子を作ってくれたんです。ぼくの星からは月は見えなかったけれど、ぼくたちの星の衛星を見ながらみんなで食べたお団子はおいしかったです。それで、ぼくわかったんです。おつきみが楽しいのは、家族みんなで仲良く過ごすからなんだって。もう一度家族に逢いたいなあ・・・」

いつも元気な宇宙うさぎのはずだったチリーの横顔は、初めて見るさみしそうな顔だった。

「大丈夫、そのうちきっと会えるよ。リオンが探してくれてるんでしょう?」

ロケットをチリーとふたりで作ってしまうようなリオンのことだ、いつかきっと、チリーの星も、両親も、見つけてあげられるにちがいない。

わたしはそうであってほしい、と思う。

「そうじゃないんです・・・」

チリーの顔がよけいに曇る。

「ぼくの家族はね、ずっと昔、火星軍に連れていかれちゃったから、もういないんです。ぼくは体がまだ小さかったし、お父さんがロケットに乗せて逃がしてくれたから、助かったんです。博士に星を探してもらってるのは、そこがぼくのたったひとつのふるさとだから。ぼくみたいな生き物がたくさん住んでいるぼくのふるさとに帰りたいんです。知ってる人はいなくても、悲しい思い出の星でも、ぼくにはそこしかないんだから・・・」

大切な家族。わたしは、大切だと思える家族がいて、帰りたいふるさとがあるチリーを少し羨ましく思った。同時に、生きている家族も帰れるふるさともあるのに少しも大事に思えず、避けている自分が嫌なやつに思えてならなかった。


「ねえチリー、今日の夜、3人でお団子を食べながら地球を見ようよ」

チリーの過去を知って、ふと思い付いた。

わたしたちは家族ではない。わたしなんて数日前に出会ったばかりだ。

それでも、一緒におつきみをしたいような家族がいない迷子同士でさみしさを少しでも埋め合えれば良い。少しでも楽しく過ごせれば良い。

「ほんとですか?ぼく、とっておきのお茶をいれますね!」

チリーが目を輝かせた。チリーが元気になるなら、よかった。

チリーって150年くらい生きているんです。

ただ、精神の成長は体に合わせてなので、性格は子どもです。


おつきみって、したことあります?


続けて見てくださってる方、もしいらっしゃるなら長いこと更新してなくてすみません!

五月の終わりごろには再開します。


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