9話 消滅
「待って新汰!」
俺はアーシャの記憶を頼りに望の部屋に向かっていた。近づくにつれ、心臓の音が大きくなる。部屋の前に着いて一息つき扉を開けようとした所で望が俺の手を掴んだ。
「いきなりどうしたの!?」
「大丈夫、もうわかってるから」
「何を?」
俺は望の手を振り払い部屋の中に入り
「見つけた、カメラ」
机の上にあるカメラを指差した。
二人とも静かに立ち止まっていた。沈黙がこの空気を重くする。新汰少し口を開け
「どうしても望の口から聞きたい。何でカメラがあるんだ?責めないから」
望が口を震わせながら
「いや、信じてくれないからいい、、もう帰って!」
右手に持っていた手鏡が俺の手を振り解き、鞄の外に出た。そして鏡の中からアーシャが出てきた。望は腰を抜かして尻もちをついていた。
「私も"彼"と同じ、鏡の中の住人だよ。別に話してもいいから」
望はいきなり出てくるアーシャに驚きを隠せないでいた。すると同時に涙を流した。いつもは笑顔を絶やさない望しか俺は見たことが無かった。
望は涙を拭い、深呼吸をして話し出した。
「姉ちゃんいつも見舞いありがとう、、」
私はリュックに弟の着替えと弟の好きな漫画や私が撮った海の写真を持って、病院の寝室に来ていた。
弟は重度な病に侵されており、病院から出たことはほとんどない。だから私がいつも弟が興味のありそうなものを持っていく。興味がなくてもあっても弟は「ありがとう」と言って受け取ってくれる。私は常に胸が張り裂けそうだった。何もしてやれない自分の無力さと弟がどんどん衰弱する姿を見てると、、、
そのまま病院に出て家に帰る。帰っても両親はいない。どっちも私が幼い時に亡くなっている。事故死だとか親戚は言っていたな。いつものように一人分のご飯を作って、歯を磨き、風呂に入り寝ようとするとあれはあった。机の上に見たことのない黒い手鏡がある。あんなの家にあったっけ?恐る恐る鏡を覗いてみると私ではなく別の誰かが映っていた。私はびっくりして鏡を落としてしまった。すると鏡の中から声がした。
「おい、落とすなよ」
鏡から若い男の声がする。私はゆっくりと手鏡を取り始め、鏡を正面に向けるとなんやらピエロ姿の化粧をした男が映り込んでいた。
「次は落とすなよ、絶対な」
「あなたは誰?というか何で鏡?」
「あ?俺はまあ、鏡の中の住人てことでいいや。そんなことはどうでもいい俺はイレイだ。よろしくな」
イレイはフレンドリーに接してくる。鏡の中の住人と話したことがない私にとっては何をしたらいいかわからなかった。とりあえず私も名前を言ってみた。イレイは続ける。
「お前、悲しい顔をしてるな。何があったんだ?」
「あなたには関係ないでしょ」
「別にいいじゃねえか、話すくらい、、減るもんじゃない」
偉そうな態度で話すイレイ、だけど何故か話したくなった。何故だろう、気持ちを話すと楽になると考えたからだろうか、新汰にも話したことないのに、、、
私は弟のこと、今の私の気持ちのことを話した。
するとイレイは今の顔でも怖いのに不気味な表情をして口を開いた。
「その弟の病気を治せると言ったらどうする?何でもするか?」
「どういう意味!?治せる訳ないでしょ。どんな所に言っても治らなかったのに、、どうやって治すっていうのよ!」
「理解出来ないかもしれないが、俺は"消滅"という力を持っている。あらゆるもの消す能力を、、、お前が同等のものを払ってくれればな!」
「何を渡せばいいの、、」
イレイは高笑いしながら言う。
「そうだな、、お前の命だ。」
どうもこぐまです!
最近pv 増えて嬉しいです。
コメントの方もどしどしお願いします笑