3話 能力
暗闇の中には、薄っすらと人の姿があった。
俺はそこに近づいていく。近づいていくにつれて、その人の形をしたものは何かを話していることに気づいた。なんだろうか、すごく悲しいことを言っている気がする。するといきなり眩しい光が現れて俺たちを飲み込んでいった。
目が覚めると、明かりをつけたままの電球が目に入った。疲れていたのだろうか、そのまま寝てしまっていたらしい。赤髪のロングの女の子が鏡の中からいきなり出てくる夢を見たりするくらいだから、昨日の望のカメラ探しが相当堪えたのだろう。重い腰を上げスマホを探していると、俺の横に夢の中の少女が寝ていた。
俺の頭は完全に寝ていたが、彼女を目にして一気に目が覚めた。
とりあえず、俺はそれを見なかったことにし、学校に行く準備を始めた。リビングで母親と朝飯を食い、歯を磨き、
制服に着替えようと一回自分の部屋に戻った。
けど、夢の中の彼女はベッドにはいなかった。寝ぼけていただけだったのだ。俺は胸をなでおろし、学校に向かった。行き道では俺の高校の奴らが登校している。友達と一緒に登校してるやつ、一人黙々と教科書を読みながら歩いているやつ、俺が本当に羨ましいと思うカップルもいた。いつも通りの日常、けれど唯一違うと思ったのが俺の鞄がやたらうるさかった。みんなは俺が頭おかしい奴と思っただろう?俺も自分の頭がおかしいと感じた。
自分がイカレテいないのを証明するために、そっと鞄のチャックに手をかける。ゆっくりと引っ張っていくにつれて声が大きくなっていくのを感じる。チャックを全て開けきった時には、声の内容が聞こえてきた。
「ここから出してー、新汰」
夢の中で聞いた声、まだ勘違いかもしれない。俺は恐る恐る鞄の中を探っていると夢の中で見た手鏡を見つけ出した。鏡をのぞくと、俺ではなく彼女、いやアーシャが映っていた。
俺は諦め、夢の話だと思っていた現実を受け入れアーシャに話しかけた。
「なんで、手鏡が俺の鞄の中にあるんだ。入れた覚えがないんだが、、」
アーシャは腕を組み自慢げにこう答えた。
「新汰が部屋から出ていった隙に、鞄の中に手鏡をいれて、鏡の中に入ったんだよ!」
「なんで俺が鞄を持って学校に行くってわかってるんだよ」
「私は人の考えていることが見えちゃうからね!」
「んなわけないだろ!!!」
俺は腹が立ち、手鏡を鞄の中につこっみ学校へ向かった。途中、怒り散らすアーシャの声が聞こえたが無視し続けた。
なんとか学校に着いたが、敷地内でも騒ぎ立てるため、学校の奴らの大きな注目を得た。俺は急ぎ足で誰もいない校舎裏へ向かい、鞄から手鏡を取り出しアーシャに
「頼むからわめきちらさないでくれ!」と頼み込んだ。
アーシャは不機嫌な顔をして
「なんでさっき新汰は急に鞄の中に押し込んだの?それは叫びたくもなるよ」
「それは人の考えていることが見えちゃうからね!とかふざけたこと言われたら怒りたくもなるだろ。アーシャがなんで俺の鞄の中に入っていたかはわからんが、頼むから今は静かにしてくれ!」
頼み込む俺、そっぽを向くアーシャ、俺は続けて
「なにをしたら許してくれるんだ、、」
アーシャは笑顔でこう答えた
「じゃあ、せっかくだし新汰の世界を冒険してみたいなー」
「わかった、暇があったら付き合ってやるよ」
「契約成立だね。けど学校も気になるなー。そっちの世界に行くから一緒に歩こ!」
「お願いだ。それだけはやめてくれ」
俺が一生懸命に懇願する姿を見て、アーシャも流石に「わかったよ、、」と言って諦めてくれた。
そのまま手鏡を鞄の中にしまい、教室へと向かった。
教室に入ると望がすでに座っていた。いつも変わらない望、行き道は色んなハプニングがあったが、望を見て切り替えていこうと心に決めた。望の席の近くに行き、話しかける。
「よお昨日ぶり、望!」
「昨日ぶり!昨日は探すの手伝ってくれてありがとね。今日の放課後も探してくれる?新汰」
「昨日約束したしな、しょうがないから手伝ってやるよ」
こんなことを言っている俺だが内心また望と一緒にいれることが嬉しいのだ。にやけ笑いを我慢していると望が笑顔で
「ありがとう!新汰はやっぱり優しいね!」と俺に向かって言った。
俺はにやけ笑いが我慢できなくなり、望に気持ち悪い笑みを見られてしまった。望は
「新汰、、表情気持ち悪いよ、、」と言われ、俺は元の表情に戻った。
授業のチャイムが鳴る。俺は望の席を離れ、自分の席に戻る。するとすぐに先生が来てこう言った。
「1限目は授業で前やった範囲をテストするからなー。てか前の授業で言ったか、、50点以下は今日居残りだからな。覚悟するように。今のうちにトイレ行っとけよ」
俺は完璧にテストがあることを忘れていた。今日居残りは望とカメラを探す約束がなくなってしまう。それだけは何としてでも避けたかった。しかし今勉強したところで現状は変わらないだろう。カンニングペーパー、諦めて居残り、考えに考えまくっているとある言葉が俺の頭の中で思い浮かんだ。
「私は人の考えてることが見えちゃうからね!」
アーシャの言葉だ。
俺はタイミングを見計らい、手鏡を持ち、急いでトイレに駆け込んだ。
「アーシャ!返事をしてくれ!」新汰は急いで言った。
アーシャは虚ろな目で
「今寝てたんだけどなに?もうちょっとでぐっすりだったのに」
「アーシャ!行き道、人の考えてることがわかるって言ってたよな?」
「言ったけど、何?」
アーシャは機嫌が悪かったが、俺は話を続けた。
「今日テストと言われる大切な試練があるんだ。もし出来ればでいいんだが人の考えることが見えるのならその力を使って試練に合格させて欲しいんだ」
「別にいいけど、その分の対価は払ってもらうよ。」
不気味な笑みを浮かべるアーシャ、俺はなぜか嫌な予感がした。