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ラビーンにクアン、それに街の『リアのファン』の男共。


一回拐われちまった事もあってか、ちょっと姿を見せないだけで、また拐われたんじゃないかだの、事故にあってるんじゃないかだの、心配され過ぎて面倒くせぇんだよ。


もちろんミーシャが『大丈夫だ、少し出掛けただけだから』とかって言い繕ってくれたりもしたらしいんだが、『だったら尚更心配だ、何でリアちゃんを一人で行かせたりしたんだ』だの何だの言われて逆に面倒な事になったらしい。


それに、だぜ。


フツーに考えて『リッシュ』が街中に現れる様になった途端『リア』の姿が全くなくなっちまったら……さすがにまずいし、不自然だろ。


もし万が一にもリアとリッシュが同一人物だったなんて事が知れたら、生死問わずの指名手配じゃなくなったって……絶対ぇラビーンとクアンのやつにボコられるに決まってる。


そいつを防ぐ意味でも、『リア』として働く事は結構重要だった。


まぁウェイトレスの仕事、完全に安全安心な仕事だし、案外給金もいいしな。


な〜んて思ってると。


「リアちゃ〜ん♪

今日も俺たち、リアちゃんのコーヒー飲みに来ちゃったよ」


「リアちゃん、今日もいつものやつを頼むぜ」


カフェのカウンター席に掛けながら、クアンとラビーンが俺に向かって声をかけてくる。


俺がにっこり微笑んで「はぁい、ただいま」と返事してやりかけた……ところで、


「てめーらまたんなトコで油売ってんのか!!」


超ド級の大声がカフェ内に響き渡る。


店に入ってきたのは悪趣味な柄のアロハシャツに、指にじゃらりと宝石付きの指輪をつけた中年男──ゴルドーだ。


「ひっ、ひぃぃ!ボッ、ボス!

何でまたここにいるんですか!!」


「ごっ、ごめんなさぁい!」


ラビーンとクアンが動揺しまくりの声で言うのに、俺はそそくさと静かにその場を後にして厨房の方へ引っ込もうとする──と。


「おい、姉ちゃん。

まだ俺様の注文を聞いてねぇんじゃねぇか」


ゴルドーが俺の方をギロッと睨めて言ってくる。


俺は──思わずギクリとして、ゆっくりとひきつる笑みでゴルドーの方を振り返った。


「ごっ、ごめんなさい……。

いつもので、よろしかったですか?」


恐る恐る、思わず丸盆で口元を隠しながら、なるべく違和感を感じさせない様いい感じの女声で問いかける。


と、ゴルドーが「ああ」と一言で返してきた。


それ以上には、どうやら言う事はないらしい。


俺は内心ホッと息をついて今度こそその場を後にして厨房の方に入った。


そうして閉じた戸に、背中から寄りかかる。


……あぶねー。


ゴルドーのやつ、俺の事気付かなかったよな?


……ゴルドーには、もちろんこの俺が『リア』として女装して過ごしている事は言ってねぇ。


バレたってもう何にも悪い事はねぇが、ゴルドーなんかに女装がバレてバカみてぇに笑われんのだけは、どーしてもこの俺のプライドが許せねぇんだよな。


思いつつ軽く首を後ろへ回してチラッと戸の向こう側の様子を見やる。


と、ゴルドーのやつにどやされてピーギャー言ってるラビーンとクアンの声が聞こえてきた。


「ボス〜、俺らにもたまにはカフェでコーヒーくらい飲ませて下さいよ〜」


「せっかくリアちゃんに注文したトコなんですよ〜」


「うるせぇッ!!

てめーら、たまにじゃなくいつもコーヒー飲みに来てんだろーが!

いい加減真面目に仕事しやがれ!!」


ギャンギャン吠えるゴルドーの声に、俺は色んな意味で再び溜息ついた。


と、今ではフツーに仕事仲間になった『リアのファンの』ウェイターが俺に話しかけてきた。


「ゴルドーさんたちまた来たのか〜。

あとは俺がやっとくからリアちゃんはもう上がっていいよ。

そろそろ時間だろ?」


言って、ウインク一つ寄越してくる。


はっ、はは……。


ウインクはいらねぇけど、このタイミングでの申し出はありがたいぜ。


俺はにっこり微笑んで「じゃあ、」と口にした。


「よろしくお願いします。

三人共“いつもの”をご注文でしたので。

それじゃあ私、上がらせていただきますね」


言うとウェイターが「はいは〜い」と語尾にハートをつけた感じに言ってくれる。


ちらっと目線を転じると、ウェイターを何とも言えねぇ目で見るロイの姿がある。


俺は小さく内面で苦笑しつつも、そいつに軽く頭を下げて、その場を後にして更衣室の方へ向かう。


もちろん『女子』更衣室だったが、幸いって言やぁいいのか残念って言やぁいいのか、今このカフェに女の子の従業員はいないらしいからほとんど自室みてぇなモンだ。


着替えも気軽なもんだった。


手早くウェイトレス服から『リアの』普段着に着替えて、そのまま店の裏口から外に出る──と。


店の壁に背をもたせかけて立つ、小柄でイケメンな『ダル』の姿がそこにあった。


「ミ……ダルちゃん。

お迎えご苦労さま〜」


ミーシャと言いそうになる所をしっかりと直して俺が言うと、ミーシャが静かに息をつく。


その足元で、


「クッヒ」


俺もいるぜとばかりに犬カバがひょこりと姿を現して鳴いた。


実を言うと──昨日からミーシャと犬カバには、表向きには俺の護衛をしてついて回ってもらうことになっちまっていた。


っていうのも『リア』の身を案ずるファンの男共が、ギルドを通じて『ダル』にある依頼をした為だ。


『この間の山賊事件みたいな事がまた起こらないとも限らない。

リアちゃんの身の安全を確保する為にもぜひともリアちゃんの弟であるダルくんに、お姉さんの警護をしてほしい』


ってな。


だったら何でその山賊事件で活躍したジュードには同じ依頼を出さねぇんだ?と思ったが、そこにも訳があったらしい。


曰く、


『そんな依頼を出して、もし万が一何かあってジュードがリアちゃんを守ったら、リアちゃんがジュードに惚れちまうかもしれねぇだろ!!』


と、まぁそういう事らしい。


ま、それはそれとして。


俺はちょっと辺りを見渡して「ジュードは?」とミーシャに問いかけた。


今日はこれからヘイデン家まで行く予定だってのに、ジュードがそんなちょっとした遠出(・・)について来ねぇってのは……今まででは考えられねぇ。


疑問に思いつつ問いかけた先で──ミーシャが静かに返してくる。


「──今回は外してもらった。

ジュードの方でも何か他で用事があるようだったし……。

とりあえず落ちつかないし、早い所ヘイデンさんの屋敷に行こう。

話は道すがらする」


こちらも『ダル』の口調で言ってくる。


ミーシャに──俺はどーにも納得出来ずに眉を寄せて──それでも「分かった」と一つ頷いた。


ジュードに、ミーシャの護衛をする事以外の用事なんかある訳ねぇと思うんだが……。


まぁ、別にジュードがいようがいまいがどっちだって構わねぇ。


話も道すがらしてくれるってんだから、そいつを聞いてみるとするか。


◆◆◆◆◆


街を出て、しばらくヘイデンの家まで道なりに進む。


途中街道から逸れて、通りすがる人もいなくなってきた所で──「それで、」と俺はフツーの声で話を差し向けた。


「さっき言ってた話ってのは何だったんだ?

ジュードの事、だよな?」


ジュードがミーシャの護衛を大人しく降りたってのもわりにおかしな話だが、それだけならミーシャはわざわざ『話は道すがら』なんて言ったりしなかったはずだ。


そう思って問いかけた先で、俺とミーシャの間をてくてくと歩いていた犬カバが、こいつも話を聞く気のありそうな様子でミーシャの方を見上げる。


ミーシャがほんの少し眉根を寄せている。


そうしてあくまで道の先を見つめながら、口を開いた。


「ジュードに、ダルクさんの事や──飛行船の存在は、知られない様にした方がいいと思うの」


言ってくる。


俺は思っても見なかった言葉に、思わず目を瞬いてミーシャを見た。


ミーシャが続ける。

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