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それも、けっこー冷静そうだ。


その事に心の底からホッとする。


俺は頭に気取られない様その二人から完全に目を逸らして、全神経を頭だけに集中させる事にした。


俺が突然声を上げた為だろう、頭が俺の方をガン見する。


さ~て、ミーシャの声に気づかれない様に思わず『リッシュ・カルトが、』なんて声を上げちまったが、何て言ってやろう?


どーもこーも、頭が回らねぇ。


だが、考えてる時間もねぇ。


「~リッ、リッシュが、」


とりあえず、後先も考えずに言い始める。


ミーシャみてぇに剣を上手く扱える訳じゃねぇ。


逃げるのは得意だが、今回ばかりはそれも敵わねぇ気がする。


だが、口先の上手さだけは今この瞬間に少しは役に立つハズだ。


何も頭が回らなくったって、体がズタボロで動けなくったって、どーにかやれる!……ハズだ。


そう、自分に言い聞かせながら、言葉を続ける。


「あんたたち山賊はどーしよーもないバカだって言ってたけど、ほんとーにその通りね!」


頭が「あぁん?」とガラ悪く俺を睨み付ける。


俺は精一杯、頭がミーシャ達に気づかねぇ様注意しながら先を続けた。


「優しく、なんてどの口が言ってんだか。

死にはしないけど、こっちはあんたに蹴られて、たぶんあばら何本か折れちゃってるわ。

こんな大ケガさせといてよくそんな事を言えたもんね。

それから言っておきますけどね、ダルクなら、絶っっ対来ないわよ」


きっぱりと、言ってやる。


林の陰からこっちを見ているミーシャにも聞こえる様に、出来る限り声を張る。


頭が俺の前に立ったまま、冷たい目で俺を見下ろす。


俺は、視点がふらふらしねぇ様、精一杯頭を見上げながら、続けた。


「っていうか、来たらぶっ飛ばしてやるわ。

こんな危険な所にノコノコやって来るなんて、そんなのバカだけよ。

こ~んなにたくさんの山賊が待ち構えてて、あんたの部下は三人も殺されてる。

いくら私っていうかわいい美人の人質がいるからって、フツーに考えてこんな危険な場所に来る訳ないでしょ。

こんな所でダルクにケガなんかされたらたまらないわ。

自分の事は……自分で何とかする。

ちょっと時間がかかったって、『ダルク』なんか来なくたって──自分一人でここを抜け出せるわ!」


きっ、と頭を睨み付け、言い切る。


半分は頭に、半分はミーシャに向けて。


言ってる意味、分かるだろ?


自分の部下すら斬り捨てるような連中だ。


それもこの大人数。


ミーシャや犬カバ、それに一人くらいの助っ人じゃ、どーやったって太刀打ち出来ねぇぜ。


自分で勝手に捕まっちまったんだ、自分の事は自分でどーにかするさ。


だから、大人しくそこから離れろ。


そんな事を考えながら必死で言った先で。


頭とその手下達がしーんと静まり返る。


そして──。


頭がクックッと嫌な笑いをしてみせた。


堪えられなくなったのか、そのままハッハッハッハッと腹を抱えて笑いだす。


その姿に、頭の部下達も俺を見下ろしながら笑いだした。


「こいつぁおもしれぇ。

リア、とかいったか?

ここから自力で抜け出すって?」


くつくつと笑いながら頭が言う。


俺はぐっと一つ息を飲んでそいつを睨み付けた。


「~本気よ」


「その体でか。

ろくに歩けもしねぇんだろ?

体が震えてるぜ、お嬢さん」


頭が嘲る様に言ってくる。


「このまま逆らったってどうにもならねぇ事は、あんたもよーく分かってんだろ?

自力で逃げるったって、どうやって逃げるつもりだ?

助っ人はいねぇし、あんたの相手はごまんといる。

もし次逃げようとしたら死ぬより辛い目に合うって言ってやったよなぁ?

俺だってあんたみたいな美人を痛めつけたくはねぇんだ。

それより大人しくして俺に気に入られた方が、互いにとっていい事だとは思わねぇか?」


ニヤニヤしながら言ってくる。


言葉尻りから、単に大人しくしてろっていう意味じゃねぇ事はよく分かった。


俺に媚びてこいっつってんだ。


回りにいる野郎共がヒューヒューだの何だの囃してくる。


俺は──思わず眉を寄せて回りの連中を睨み付けた。


そうしながら、頭やその他の連中に気づかれない様に後ろ手に縛られた縄を静かに解きにかかり始める。


普段なら んな雑な縛り方された縄、ちょちょいのちょいで解けるんだが、手の震えと連中に気取られない様にするのとで、かなり時間を取られる。


だがようやく後ろ手に縛られた縄をするりと解いた。


頭やその他の連中に気づかれない様 そのまま縛られたフリをして縄の端を握り込む。


と──頭がすっと俺の前で屈み込んだ。


俺を見る目はどこまでも鋭く、冴え冴えとしている。


頭が俺の頬に触れる。


「いいねぇ、その目。

お前みたいな気の強い女、好きだぜ。

なんなら売り飛ばすってのはやめて、俺の女になるか?

優しくしてやるぜ?お嬢さん」


明らかに油断しきった顔を俺の方へ近づけて言ってくる。


~今しかねぇ!


俺はブンッと顔を大きく振りかぶって、頭の顔めがけて思いっ切り頭突きした。


頭がバランスを崩しながら後ろによろける隙を狙って、俺はパッと地面に手をついて立ち上がりながら逃げ出そうとする。


だが、俺の頭で考えてたより立ち上がりが遅くなっちまった。


あばらがひどく痛むのに、一瞬怯んじまったせいだ。


その隙に。


頭が「~っの……」と怒りの声と共に俺の腕を乱暴に掴もうとした……んだが。


その間を割って、入ってくる人物がいた。


音もなく、ただ剣先が煌めく。


頭が慌てた様子で後ろに引くのが見えた。


俺は……思わずその場でへたり込んで、その様子をただただ見やる。


背が高く、体格のいい男だ。


旅装束を着てるから、旅人だろう。


さっき、ミーシャの横にいた男だ。


後ろ姿だから顔はこっからじゃ見えねぇが、そう思う。


と、後ろから


「~リア、」


小さな声で呼び止められる。


驚いて振り返ると、ミーシャが俺のすぐ横に来ていた。


いつもの剣を山賊共を牽制する様に片手で構えて、もう片手で俺を後ろに庇う様に手をかざしている。


とととっと横から素早くやって来た犬カバが、ミーシャの足元で──こいつも俺を庇う様に、でんっと立ち塞ぐ。


……何だかこれじゃあ、俺の立つ瀬ってねぇよな。


傍目に見りゃぁ……山賊に連れ去られたかわいい女の子が、突然現れたイケメン二人と犬に庇われてるって図だが、実際は 女装姿の男が、男装してるミーシャやどこぞの旅人、俺より断然弱いはずの犬カバにまで庇われてる。


何だか涙が出るほど情けねぇぜ。


んな俺のフクザツな心境には気づいてないんだろう、ミーシャが山賊共から目を離さずに俺に声をかける。


「~ケガは大丈夫か?

安全な所まで護衛するが、歩けるか?」


聞いてくる。


ほんとは歩くどころか息も絶え絶えなんだが、んな事言ってる場合じゃねえ。


俺はなるべく元気な声で「おう、」と一つ返事した。


「つーか……来んなって意味で俺が必死にしゃべってたの、聞いてなかったのか?」


問うと、ミーシャが何にも聞かなかった様にさらっと見事に聞き流す。


……まぁ、いいけどよ。


それにしても、だ。


俺を助けに入ってきた、この味方っぽい旅人は一体どこの誰だよ?


相当な剣の使い手だろうってのは素人の俺にも分かるが……。


俺とまったく同じ事を頭も思ったんだろう、頭の声が上がる。


「~てめぇ、何モンだ」


言うとほぼ同時、山賊共が全員旅人の方へ鋭い目を向ける。


いくつものナイフや剣の切っ先が、旅人の方を向いた。


だが、旅人は特にそいつに怯みはしなかった。


ただ淡々とそれらを目線だけで確認し、


「貴様らに名乗る名はない」


あっさりと、そう答える。


げっ、んな挑発する様なこと言いやがって……。


腕に自信があるのかなんか知らねぇが、この大人数相手に怒らせてどーすんだよ?


俺の予想通り、旅人の言葉にカッと頭に血が上った頭が「いい度胸してんじゃねぇか」とギロリと旅人を睨む。


そうしてこれまた俺の予想通り、


「てめーら、やっちまえ!」


怒号を上げる。


そいつに応える様に山賊共が「おー!」と声を上げ、一挙に旅人に向かってきた。


おいおい、マジかよ!


こんな大人数相手に剣で挑むつもりか!?


やべえ。


このままいったら旅人どころかミーシャや犬カバにまで被害が及ぶ。


そう、考えて握った縄に力を込めて俺も動ける体制を作ったん……だが。


旅人が、静かに剣を構える。


そして──向かってくる敵を、片っ端から打ち倒していく。


俺はそいつの背を見上げたまま、あんぐりと口を開いてその光景を目の当たりにした。


左右同時に振り下ろされる剣を一刀で引き受け、そのまま跳ね返す。


よろめいた敵をすかさず剣で討つ。


隙を狙って切り結びにかかってきた剣先をさっと首だけで避け、剣で剣を叩いて落とす。


まるで、流れる様な太刀筋だ。


激しい川の流れみてぇに……一度足元を掬われたら、そのまま飲み込まれ、倒されちまう。

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