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カフェの中は、いつもと変わりなく賑わっていた。
いつもの『リアのファン』なウェイターは休みらしく今日は姿は見かけねぇが、代わりに──
「──おや、リッシュくん。
いらっしゃい」
穏やかな笑みで俺を迎えてくれたカフェの店長の姿がそこにあった。
カフェに漂うコーヒーの香り。
いつもと変わりねぇその姿を見ると、何だかやけにホッとする。
不思議だが、家でもねぇのに『帰ってきた』って気がするってぇか。
だから、だろう。
普通『いらっしゃい』に対する返事は明らかにそうじゃねぇハズだが、俺は店長の『いらっしゃい』に自然と、
「──ただいま」
そう返していた。
店長が、そいつにどう思ったのかは分からねぇ。
目を一つ瞬いて、そして、ゆったりと穏やかな微笑みで返してくれた。
「──ええ、おかえりなさい」
こっちから言っといてなんだが、ちょっとだけ照れ臭せぇ。
俺は誤魔化し半分に店長に軽い笑みで返し、いつものカウンター席に腰掛ける。
ジュードが当然の様に俺の左隣の席に掛けた。
「いつもので頼むよ」
「俺は、コーヒーで」
俺に続けてジュードが店長へ注文する。
店長は「分かりました」と返し、早速支度に入ってくれる。
──そこへ。
リリン、と音を立て再びカフェの入口の扉が開いた。
入ってきたのは──見慣れ過ぎた迷コンビ。
「おお、リッシュくんじゃねぇか!
ちょっと久しぶりじゃねぇか?」
「リッシュく〜ん♪
元気してたかい?
今日はダルくんは一緒じゃないんだ?」
黒のスーツに黒いサングラス。
髪をオールバックにした、男二人組──。
言わずもがな、ラビーンとクアンだ。
普段だったら ま〜た油売りに来てやがる、ゴルドーに怒られても知らねぇぞ、とくらいにしか思わねぇんだが。
今は何故かこの二人の存在でさえも懐かしく思えてくる。
俺、疲れてんのかな?
こんな奴らにまで愛着持った気持ちになるってぇのは。
思いがけずじんわり気分に浸っている──と。
いつもと違う空気でも感じたのか、ラビーンとクアンが互いに顔を見合わせる。
そ〜して何故かどっか慌てた様に、
「〜ど、どうした、リッシュくん?」
「何かあったのか?
全然元気ないじゃんか。
何か誰かの葬式にでも行ってきたみたいなさ……」
おろおろと、二人揃って聞いてくる。
まさかゴルドーのヤローがこの二人にダルの弔いを話してるとも思えねぇから何も知らずに言っただけなんだろうが、案外それが的を得てんのが何とも言えねぇ。
俺は──普段ならちょっとは元気出して『んな事ねぇよ、気のせいだって!』と誤魔化してやる所だが、今日はさして元気も出ねぇままに「ああ、うん、」と答える。
「まぁ、ちょっとな。
二人はまたいつものサボりか?
ゴルドーの野郎に見つかったらまたドヤされんぞ」
言ってやるとラビーンが「いやいやいや、何言ってんだ、リッシュくん」と言い訳してくる。
「こいつぁ仕事の間の息抜きよ。
俺らこう見えてちゃあんとしっかり働いてんだぜ?」
いかにも真面目くさった声と表情で言うが。
俺はお前らと出会ってこの方、一度だって何か仕事してる姿なんか見かけた事ぁねぇぞ。
……まぁ、いいけどよ。
どーせゴルドーの野郎に見つかってドヤされんのはこいつらなだけだし。
思いつつちょっと肩をすくめる中、二人が──こいつもさも当たり前の様に──俺の右隣の席に、ラビーン、クアンの順に腰掛ける。
「マスター、いつもので頼むぜ」
「俺も俺も〜」




