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「アルフォンソ兄上、お加減はいかがですか?
今日は気持ちのいいお天気ですね。
雲一つない青天で、風が心地良くって。
こんな日に──」
飛行船で空を飛んだら気持ちよさそう……とまるでリッシュの様な事を思いかけて……。
ミーシャは背後のアランに気取られぬ様、さらりと続きの言葉を変える。
「──お庭を散歩したら、きっととても気持ちがいいと思うわ」
恐らくアランは、リッシュの飛行船の存在など知りもしないだろう。
レイジスだって決して話をしたりはしないはずだ。
この男にそんな物の存在を知られていい事など、一つたりともありはしないのだから。
──それに……。
……ダルクさんは、その飛行船の存在をサランディール国に知られて、それで亡くなる事になってしまった。
同じ様な事が、今度はルノワール国に名前を変えてリッシュに起こらないとも限らないもの。
本当に、気をつけなくてはいけない。
心の中でそう固く気を引き締めつつ、ミーシャが語りかけた先でも、やはりアルフォンソからは何の返答も反応もない。
ただぼんやりと中空を見つめているばかり、だ。
一年前の兄の姿からは、想像も出来ない事だった。
しっかりしていて、優しくて優秀で。
どんな事もさらっとこなしてしまう様な、そんな兄だった。
──お聞きしたい事が、たくさんあるのに……。
一年前の内乱で、父上や母上を手にかけたのは、本当の事──?
どうしてそんな事になってしまったの──?
内乱の首謀者は兄上ではなくセルジオ、なのよね……?
塔から脱出する時にリッシュに話した様に、ほんの僅かでいいから、声を聞かせて欲しい。
内乱に関する事ではなくても、何でもいいから……。
リッシュ達がトルスへ出てしまってからもミーシャは出来る限りアルフォンソの元へ行きこうして語りかけてみたりもするのだが、今の所返答はただの一声もない。
ぼんやりとした兄の横顔を見つめながらミーシャはまた一つ、心の中だけでそっと一つ息をつく。
その背後で。
アランが冷たくアルフォンソの様子を観察していた事に、ミーシャは気がついていなかった──。




