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ゴルドーはダルクの前で一つ、手を合わせる。
ジュードも、それに倣って固く目を閉じ手を合わせた。
俺の足元から怖々ってぇ様子でダルクの姿を見ていた犬カバも──。
トコトコとゆっくりダルの前へやって来て、きゅぅぅと鳴いてダルのズボンの──丁度膝の辺りにぽて、と片前足を置く。
どーやらそいつが犬カバなりの供養の証らしい。
俺は──……。
ただただぼんやりと突っ立って、その光景を見ていた。
──手を合わせたら。
全てが終わっちまう。
バカみてぇだが、そんな気がした。
ゴルドーが、そしてジュードが合わせた手を解き“作業”に取り掛かる。
犬カバは、自分にゃやる事がねぇと分かってんだろう、そそそと俺の元まで戻って来──……かけたんだが。
その途中、コツンと前足で地面に落ちてた“何か”を蹴っちまったらしい。
「クヒ?」
小首を傾げ、その場に立ち止まった。
と、その犬カバが蹴っちまった“何か”がスライディングするみてぇにして俺の靴先に当たって止まる。
俺は、ゆっくりとした動作で腰を屈めて、“そいつ”を拾い上げた。
じゃらり、と鎖の部分が音を立てる。
そいつは──……。
俺にとっちゃあ何故か不思議に記憶に残る“ある物”だった。
──……ダルの、あの青い雫型の石のついたペンダント、だ。
石の一部が欠けちまってる。
あの時セルジオが床にこいつを落とし、踏みにじったせいだ。
今じゃあ全体に埃だか何だかが被っちまってて、ガキの頃陽に透かして見た、あの透明感のあるキラキラとした感じはすっかり消え失せていた。
そっと親指の腹で石の表面についた汚れを拭い取ってやる。
ランプの明かりくらいしかねぇこの薄暗い中じゃあ見えにくいが、そこには十二年前と同じくある一つの紋章が──今ではこいつが紋章だとハッキリ分かる──透かして見えた。
と──。
ふと俺の様子に気づいたらしいゴルドーがこっちを振り返って言う。
「──何だ、そいつは?
ダルクの持ちモンか?」
ゴルドーにとっちゃあそう大した印象もなかったんだろう、そんなふうに問いかけてくるのに、俺は「ああ……」とだけ答えてみせる。
ゴルドーは特にそれ以上の興味を持たなかったらしい。
「そうか」とだけ返して、それでもう元の作業に戻った。
少しの間その場に立ち止まってた犬カバが、ようやくとてとてと俺の元まで戻って来て、
「クヒ?」
俺を見上げ、問いかけてくる。
だが俺は──……。
そいつにもほとんど気づかず、ある一つの事を考えていた。
サランディール城の、あの開かずの間にあったタペストリー。
キリリとした重厚感のある青生地に、銀色の刺繍で大きく翼を広げた鳥の紋様。
鳥は両足で一つの剣を水平に持ち、鳥の背後には大きな盾が描かれていた。
今この手元にある石もあのタペストリーと同じく『青』で、タペストリーと同じ紋章が刻み込まれている。
あの部屋は、若くして亡くなったってぇ、ミーシャ達の伯父さんに当たる人の部屋、だった。
雰囲気からして、きっとその伯父さん自身の紋章なんだろう。
──まさかこんなものを持っていたとは──
十二年前、セルジオはこの場所でそう口にした。
〜このペンダント、なのかもしれねぇ。
セルジオがこんなにもダルクを痛めつけた理由は。
ダルクはこのペンダントの事は誰にも言うなと言っていた。
真っ青になって、怖ぇ顔で。




