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キュウゥ、と犬カバがか弱く鳴く。
ゴルドーの掲げるランプに照らされたそいつは、俺の記憶とはかけ離れた姿でそこに座っていた。
──白骨、だ。
そいつがかろうじてダルクだと分かるのは、当時着ていた服がそのまま残されてるからってぇのと、あとは最後にダルクを見た、そのままの体勢でそこに座っていたから──……。
ただそれだけでしかねぇ。
見る影もねぇ、とは正にこの事だった。
「……ダル……」
「……ダルクさん……」
俺と同様息を飲み、ジュードがショックを受けた声で口を開く。
しん、とした空気がヒリヒリと胸を焼く様に苦しかった。
ゴルドーが嘆息してダルクの前に片膝を折る。
ランプを掲げて、まるで──ダルがまだ生きてるみてぇに、声をかける。
「──……俺はてめーとジュードとの事はよく知らねぇが。
てめぇに縁の深かったガキ二人、連れてきてやったぞ。
……悪かったなぁ、長い事助けに来られなくってよ」
しみじみとした声で、言う。
もちろんダルクからは何の返事もねぇ。
と──。
俺はゴルドーの掲げるランプの元、ダルの服が赤黒く染まっているのに気がついた。
大量の血が染みて固まって、そのまま長い年月を置いちまった。
そんな色だった。
そしてもう一つ。
その血のついた服には無数の“穴”が開いていた。
単純に十二年の年月に風化して開いちまったってぇ穴じゃねぇ。
剣で滅多刺しにされて──……そうして出来た穴、みてぇだった。
俺の目の前に、ふいに“あの日”の光景が蘇ってくる。
血の滴る剣を下げた男が、座って息絶えたダルの前へやって来て、そして──。
ザンッ、とその剣をダルの上に振り下ろす。
何度も、何度も。
まるで、積年の恨みを晴らそうとでもする様に。
「──……ダルが、」
出した声が自分の物とも思えねぇ程に震えていた。
ゴルドーとジュードが、ほとんど同時にこっちを振り返る。
足元からは犬カバが俺を見上げていた。
「──ダルが殺されたのは、本当に反逆罪のせいだとか、飛行船の事でサランディールとこじれたせい、だったのか……?」
ただそれだけの理由で、死んじまってなお あんなに痛めつけられなけりゃならなかったのか……?
ぽつり、呟く様に言った先で──……。
しん、と皆が黙り込む。
ゴルドーもジュードも、きっと同じ疑問を抱いているのに違いなかった。
しばらくの沈黙の後、
「さあな」
と口を開いたのはゴルドーだった。
「──そいつぁ殺ったセルジオ本人にしか分からねぇだろーがよ。
本当の所をしゃべるかどーかは別だが、気になるってんならいずれ直接聞いてみるこったな」
お勧めはしねぇが、と一言付け加えて、ゴルドーは言う。
言う事は、何となく分かる。
どうせセルジオが本心を話した所で、この場にいる誰一人、その話に納得なんか出来やしねぇんだ。
どうせ大した理由じゃねぇ。
聞いたってこっちの胸クソが悪くなるだけだ。
と──何を思ったのか、ゴルドーが俺の頭をわしゃわしゃわしゃっとしてくる。
そーして乱暴にそのまま手を離し、俺とジュードへ向けて言う。
「さぁて、ムダ話は終ぇだ。
さっさとダルクを連れて帰るぞ。
こんなんでもトルスじゃ帰りを待ってる奴がいるんだからな」
言ってフンッと息をつく。
もちろん『帰りを待ってる奴』ってぇのはシエナとヘイデンの事だろう。




