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「〜兄上、一体どうしてダメなのですか?
納得出来ません!」
バンッとレイジスの机の上を両手の平で叩き──ミーシャは言う。
……まぁ、予想通り、か。
緋の王をも交えた今後のサランディールに関する話し合いの場に割って入って来なかっただけマシと言えばマシだが。
そんな事を考えながら……レイジスはしれっとして、手元にあった書類からも目を離さず「そうかな?」とだけ答えてみせる。
すかさずミーシャが「そうです!」と返してくる。
「どうして私が彼らに同行するのに反対されるのですか?
ジュードはいいのに。
兄上はいつも私の意見を尊重して下さるじゃありませんか。
〜ダルクさんには、ご存命の時に直接という訳ではないけれど、とても助けて頂いたの。
リッシュの事も心配だし、それに──……」
「──リッシュくんにはゴルドー殿がついておられるだろう?
護衛にはリッシュくんにとっても馴染み深いジュードを付けている。
それともこの二人では不安だとでも?」
「〜なっ……。
そんな事、言っていないわ。
私は……」
「──お前は今はもう『トルスの冒険者ダルク』じゃあない。
この『サランディール国の姫君』なんだ。
そうやすやすとどこへでも行ける身分ではない。
今、この混乱の中でその姫君が半月以上も──しかも異国の地で十二年も前に亡くなった見ず知らずの人の供らいに出るなんて、どこの誰が許可出来ると思う?」
半分はなるべくやんわりと、もう半分は少し厳しい口調でレイジスは言う。
書類を一枚横へやって、そうしてようやっとミーシャの顔を見た。
予想通り『それでも納得出来ない』と、しっかり顔に書いてあった。
レイジスは苦笑いしそうになるのを堪え、ごくごく真面目な厳しい表情を作り、言う。
「今回、お前をリッシュくん達と行かせられない理由は他にもまだある。
一つ。
今のこの状況下でお前の私的な用件の為に大勢の兵をつけ、半月以上も旅に出させる訳には行かない事」
言いかける間にもミーシャはすぐさま何か反論しそうになっている。
レイジスはそれを片手で遮り、
「お前が何と言おうとそういう事になるんだ。
身分上な」
と前置き、「二つ、」と先を続けた。
「アルフォンソ兄上のご容体だ。
今は回復の兆しを見せておられるが、いつ何があるかはまだ分からない。
兄上に、あの内乱の事で何かしゃべられては困るという者も城内にはいるかもしれない。
一人でも多く、信の置ける人間を兄上の側に置いて置きたいんだ」
「〜それじゃあジュードは?
兄上はまだジュードの事を信頼されていないという事?」
「信頼しているから、今回リッシュくんにつけたんだ。
リッシュくんはリアさんの双子の弟くんだからな。
何かあっては俺はリアさんに顔向け出来ない。
ジュードは腕も立つし、リッシュくんとも今や旧知の間柄だ。
雑用に使ってもらえればいい」
と、言った先で──特に何故か『リアさんに顔向け出来ない』の辺りで──ミーシャが何故かちょっと冷たい目線を向けてきたが……。
レイジスは構わず「三つ、」とその件に区切りをつけて話を先に進めた。
そしてこれこそが、レイジスが今最も憂慮している事だとも言えた。
「──緋の王の事だ」
言うと──流石のミーシャも少し眉尻を下げた。




