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「あ〜っと、そーいやミーシャ、」
言うと、ミーシャがきょとんとして俺を見る。
俺は、なるたけいつもどーり、へらへらっとした調子になる様注意しながら、言う。
「──俺達、しばらくサランディールを離れっから。
ゴルドーがさ、あの地下通路で眠ってるダルクをちゃんとトルスの墓に葬るってんでさ。
俺やジュードも、一緒に行く事にした。
どーせ今ここで俺らにやれる事もそうはねぇしさ。
ダルクの為にも、早い方がいいと思って。
レイジスにもちゃんと許可も取れてるみてぇだし、半月くらいはかかるかもしんねぇけど、まぁ今が丁度いい時だろ」
言うと──。
きゅっ、とミーシャが俺の服の裾を引く。
そうして
「──大丈夫?」
とひどく気遣う様に声をかけてきた。
犬カバも何故か心配そうな目で「クヒ?」と俺に尋ねてくる。
俺はへらっと笑って「大丈夫だって」と言ってやる。
「ダルクを殺したセルジオだって今は動けねぇしさ。
別に道中何の危険がある訳じゃなし。
まったく何の問題もねぇよ」
それはほんとだ。
ゴルドーもジュードも行くってんだから追い剥ぎやらなんやらに遭う事もねぇし、問題なんかただの一つもねぇ。
だがミーシャはそれでも納得はしてくれなかったらしい。
心配そうな表情で俺を見つめてからゴルドーへ向けて、言う。
「──ゴルドーさん。
ダルクさんのお供らい、私もご一緒しても構いませんか?
リッシュの事も心配だし、それに──。
おかしいと思われるかもしれないけれど、私、ダルクさんにはとてもお世話になったと思うから……」
「キュッキュー!」
ミーシャの言葉に乗っかる様に、犬カバも言って、尻尾をパタパタと振ってみせる。
どーやら『俺も行くぜ!』とでも言ってるらしい。
ゴルドーはそんな二人(いや、一人と一匹、か)の顔を見、「俺ぁ別に構わねぇが」と、言いかけたんだが……。
その先を遮る様にジュードが
「その件についてですが、」
と口を挟んだ。
「──すでにレイジス殿下より言伝があります。
ミーシャ様は必ずサランディール城に留まる様に、と」
ジュードの言葉に。
「えっ?」
ミーシャが眉を寄せ、問い正す。
ジュードはだが、怯まなかった。
「──申し訳ありません。
ですが今の殿下のお言葉は、ミーシャ様の兄としてのものではなく、『国王代理としての』ものであると賜っています。
ミーシャ姫には従って頂く他ありません」
キッパリと、一ミリの隙もなくそう告げる。
ミーシャは、珍しく口を尖らせた。
「そう言え、とレイジス兄上に言われたのね?」
ミーシャの鋭い突っ込みにジュードがピクッと眉を動かす。
まぁ、当然図星なんだろう。
それにジュードがこうまでキッパリ言うって事は、ジュードにこれ以上何を切り出したってムダそうだ。
そいつをもちろん分かってだろう、ミーシャは「いいわ」とジュードに見切りをつける様に言い放つ。
「私が直接兄上と話します。
──リッシュ、ゴルドーさん、それまで少しだけ待っていて頂けますか?」
一応俺の名を一番に入れちゃあくれたが、口調からするとほとんどゴルドーへ向けて、ミーシャは言う。
その、ちょっとした気迫に、
「〜お、おう」
「〜分かった」
半ば気圧されつつも、俺とゴルドーが返事する。
ミーシャは……その気迫もそのままに、ついでに何気に戦々恐々とミーシャを見上げる犬カバも抱っこしたままに、サッと踵を返して──。
そーしてアルフォンソの寝室を後にしたのだった──。




