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これまでのジェノの口ぶりを見るに、アルフォンソの事についちゃあわりかし心配してるじゃねぇかなあと思い、そう伝えてやると──。
そいつを聞いた瞬間、ジェノが一瞬ホッとした様に表情を緩ませる。
だが、そんな事は一切なかったみてぇにすぐに俺に向けて返してきた。
「〜さっきから気になってたがあんた殿下の事を呼び捨てに──」
するなとでもたぶん言おうとしたんだろうが──ジェノは最後までは言わず、ただハァ、と呆れまくりの大きな溜息を吐く。
そうしてシッシと手で追い払われた。
「〜まぁいい。
用が済んだらもう行きな。
『リアちゃん』が俺の部屋に連れ込まれたまま出てこねぇと今頃城中の話題になってるハズだぜ。
もしあんたの勘違いじゃなくレイジス殿下がリアちゃんに惚れてるんだとしたら、耳に入ったらマズいだろうしなあ」
最後はいつもの冗談だか本気だか分からねぇ口調で言われて、俺はげっと顔をしかめる。
ジェノはいつものニヤニヤ笑いで片方の口の端を上げ、フッと笑って俺から視線を外す。
いやいや、マジでシャレにならねぇぞ。
あんたはレイジスのリアにかける想いを知らねぇから笑ってられっけどよ……。
いや、こんな所で油を売ってる場合じゃねぇ。
俺は即座にそう判断し、その場をさっさと後にする事にしたのだった──。
◆◆◆◆◆
それからしばらくの後──。
レイジスの執務室にて、
「レイジス殿下、ミーシャ姫に於かれましては、」
と、床に片膝を付き頭を垂れ、いかにも真面目な騎士らしい挨拶をしたのはもちろんジュード……。
……じゃあなく、なんとあの、ジェノだった。
あれから──。
俺はきちんと『リッシュ』の姿に戻ってからレイジスと、偶然その場に居合わせたミーシャにジェノの知る話をし、アルフォンソの食事にかけられたってぇ謎の白い粉も見せた訳だが──。
レイジスはミーシャやダン、ガイアス、そしてジュードと(いらねぇってぇのに)ゴルドーまでをも自室に集め、そこへジェノを呼び出したのだった。
入って早々のきっちりとしたジェノの挨拶に、レイジスは
「堅苦しい前置きは抜きにしよう」
と軽く手を上げ遮って続きを口にする。
何だか態度と口調にピリリとした厳しさを感じる。
事が事だけに、レイジスだって思う所があるんだろう。
「──ジェノ・クロクスナー。
君がリッシュくんに話した内容は、一通り把握しているつもりだ。
まず、何よりも一番に確認しておきたい事があるんだが──」
ジッとジェノの目を見るレイジスの顔はいつになく厳しく真剣だ。
周りの空気も、レイジスの空気に合わせる様に妙にピリリとする。
その空気感に、俺が思わずごくりと息を呑む中──。
レイジスはピリリとした口調と厳しい視線もそのままにジェノに向かって問い正す。
「君がリアさんを自室に連れ込んだというのは事実なのか?」
至って厳しく、ふざけた所なんか一ミリもない調子でレイジスが言う。
それに──。
「へっ?」
思わず目を瞬き、俺が言うのとほぼ同時、ジェノが意表を突かれた様に
「──は……?」
と声を上げる。
レイジスの横に並ぶミーシャは「兄上……」とかなり呆れきった声をかけるし、ジュードはただ、どこか遠くへ目線を転じる。
ダンとガイアスは、こいつは揃って狐につままれた様な顔でレイジスの横顔を見た。
ゴルドーは── 一国の王子様を見ているとは思えねぇ程怪訝な目をレイジスへ向ける。
そして「おい、王子様よ、リアのヤローは……」と余計な事をごくごく普通に言いかける。
俺は「わ、わ、わ!!」と慌ててその間に割って入った。
だが、幸いにもレイジスの関心はゴルドーより『リアを自室に連れ込んだ』ってぇジェノの方にあったらしい。




