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人拐いの話題は、完全に忘れ去るにはちょっと出来ねぇ程最近、トルスでも起こった出来事だ。
それに『捕まった後の自死』ってのも、聞き覚えのあるワードでもある。
ジェノは言う。
「俺はその件が、親父達の目的に絡んでんじゃねぇかと踏んでいる。
現地で厳重な言論規制が敷かれている為に、事件の話は城の方までは届いちゃいねぇ。
だがその規制元を辿っていくと、どーも親父やノワール王の方へ行き着く様でね。
それに、『目が虚ろで受け答えもまともに出来ねぇ』ってのは、今のアルフォンソ殿下のご様子とも近い。
俺も何度かぶらっと人拐いの被害が増えてる地方に出向いてみたが……。
“何も出ねぇ”んだよな。
そこがいかにも親父のやる事らしい」
言う。
確かにジェノの言葉には一つ一つにキッチリとした説得力がある。
そういえばレイジスもセルジオについて似た様な事を言っていた。
『やましい事があり、自分が疑われていると勘づけば、その証拠は狡猾な者ほどうまく隠す』
『俺と兄は水面下で方々手を尽くし、セルジオの事を色々と調べたが、やつが国を裏切りノワールと内通しているという証拠はその時何一つ出てこなかった』
レイジスと、それにセルジオを一番身近に見ている息子のジェノがそう言うんだから、セルジオ・クロクスナーって奴はやっぱりそういう人間なんだろう。
更にもう一つ、ジェノは「それと、」と懐からある物を取り出した。
白い紙を小さく三角に折り畳んだ様な“何か”だ。
薬でも入っていそうな雰囲気がある。
ジェノはそいつをピッと人差し指と中指で挟み、軽く振って言う。
「親父の部屋から見つけたもんだ。
塔へ持って行くアルフォンソ殿下の食事に、親父が一振りこの中の粉をかけていたのを見た事がある」
「粉って……。
毒って事かよ?」
「そいつが分からねぇ。
薬剤や毒に詳しい信頼出来る筋のもんにこいつが何なのか調べてもらってるが、今の所どんな成分のもんなのか皆目見当がつかないそうだ。
既存の毒や薬じゃあないらしい。
アルフォンソ殿下の御身に関わる事だ。
もし数日中にあんたが来なけりゃ、直接レイジス殿下にこの事をお伝えし、そのまま渡す所だったが──」
言いつつ、ジェノはテーブルに滑らせる様にしてその三角に折った白い紙をこっちに寄越してくる。
「ジェノ・クロクスナーから、よりあんたからの方がいいだろう。
俺の話が信じられるかどうかもそっちで判断してもらえりゃあいい」
言ってくる。
俺はそいつを受け取って──思わず口をへの字に曲げる。
「そりゃ、別に構わねぇけど。
たぶんレイジスはあんたがセルジオの息子だからって理由でだけで物事を判断したり話を聞かねぇ様な奴じゃねぇぜ」
言うと「殿下自身はそうかもな」と半端な答えが返ってくる。
レイジス自身はそうでもその周りの人間は必ずしもそうじゃねぇと言いたいんだろう。
そいつは単なる想像ってぇより、これまでの人生で裏付けされた“事実”みてぇに聞こえる。
まぁ、親父さんが謹慎処分を受けてる今は特にか。
ジェノの言い分も全く分からねぇ訳じゃねぇから──俺は小さく息を吐いて「──分かったよ」と返事する。
「レイジスに話をしてみる。
アルフォンソの事も心配不要だぜ。
どこまで良くなるかは分からねぇけど、命に別状はねぇって事だからよ」




