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「──アルフォンソ殿下が親父にあの塔に幽閉されてる事に気付いたのは、半年くらい前だ。
真夜中、偶然親父があの塔に入っていく所を見かけたんでな。
怪しいと思って親父のいない隙を見計らって確かめに行ったら、そこに殿下がおられた。
その時にはもうやつれて意識も朦朧としておられたが、俺はその場は何もせず、事態を見守る事にした」
言う。
かなり意外だが、さり気なくアルフォンソの事に対してきちんと敬語を使っている。
俺の密かな驚きをよそにジェノは続ける。
「曲がりなりにも食事は与えられてる様だったし、何より殿下を死なすつもりならもっと早くにやってるはずだ。
俺がここで下手に殿下を助け出そうとしてる事を悟られると逆にその御身を危ぶませる事になるかもしれねぇ。
だから様子を見守る事にした。
オレットに倣って親父の腰巾着をやりながら親父の目的を探りつつ、誰が信用出来るのか、殿下を安全に救い出すのに最適なタイミングがいつなのかを慎重に見極めながらな」
「それで……そいつが今回、このタイミングだったって訳か」
言うとジェノがその通りとばかり頷いてくる。
けどだぜ?
「何で俺にアルフォンソの事を言う事にしたんだよ?
ガイアスやダンと俺が繋がってる事は、たぶん気付いてたんだろ?
だったら二人にその役を負わせた方が安心出来たんじゃねぇのか?」
「馬鹿が。
俺が二人のどちらかに接触を図った時点で親父に怪しまれるに決まってるだろうが」
すかさず、そんな風に切り返される。
この俺に向かって馬鹿たぁひでぇ言い様だ。
が、まぁ確かにジェノの言う事も分からない訳じゃねぇから、とりあえず口は挟まねぇ事にした。
ジェノはソファーの背もたれに乱暴に肘を預け、続ける。
「俺は無類の女好きなんでね。
城中で評判の『美人なリアちゃん』に接触すんのはクラインやラードレーに近付くよりかは不自然じゃねぇ。
例えリアちゃんが二人の親類縁者だったとしても、だ。
それにあんたの行動はある程度見させてもらっていた。
あんたなら上手くやるだろうと思ったんでね」
言うのに俺は「そいつはどーも」と返しておく。
ジェノは──ここで少しの間を置き、
「──親父の目的だが、」
と口を開く。
トーンが一段落ちた。
「俺にもよく分からねぇ。
内乱の後、アルフォンソ殿下を早々に亡き者にし、自分がこの国のトップに立ったってんなら話は分かる。
だがそうじゃねぇ。
どんな状態であるにしろ、殿下を隠し、生かしておかなけりゃあならなかった。
一方で内乱の後──つまりは殿下をあの塔に幽閉して以降、親父はノワールの緋の王とこれまで以上に懇意にしている。
緋の王と結託して殿下を使い、何かもっと大きな事に手をつける気だったはずだ」
「もっと大きな事──?」
ジェノは頭を振る。
ハッキリとした事は分からねぇってな意味だろう。
だが──……。
「……内乱が起こる数年前から、サランディールじゃ人拐いの被害が続出してんだ。
トルス北部からノワール国との国境付近でな。
たまに人拐いの犯人が捕まる事もあるんだが、皆一様に目が虚ろで受け答えもまともに出来ねぇ上に、捕まった後自死しちまう」
言うのに──俺は思わず目を軽く見張って、ジェノの話を聞く。




