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そう判断して、俺はあくまで『リアとして』話を進める事にした。
こほん……と可愛らしく──つっても、あんまり可愛らしくしすぎんのも考えモンだからある程度で──咳払いをして、十分距離を取ったまま本来聞きたかった話に話題を移す。
「今日ここに来たのは、あなたに聞きたい事があったからです」
「うん?」
恋人の話でも聞いてんのかってぇ程甘い声で返してくる。
こいつは、絶対ぇわざとだ。
嫌がらせのつもりか俺の反応見て楽しんでんのかなんか知らねぇが、直感的にそう確信する。
ここで反応したら奴の思うツボだ。
俺は敢えてそいつを完全ムシして話を続ける。
「あなたは、アルフォンソ……殿下が、セルジオ・クロクスナーによってあの塔に幽閉されていた事を知っていたんですか?」
アルフォンソ、と呼び捨てにしかけたのを誤魔化しつつ、前置も置かずそのものズバリを聞いてみる。
ちょっとは何かしらの反応があるかと思ったが、ジェノは全く堪えなかった。
ニヤニヤ笑いもそのままに「さあ?」とすっとぼけてくる。
「知らねぇなぁ。
親父様は秘密主義なんでね。
バカ息子の俺にそんな重要事項を教えたりはしないさ」
「でも、あなたは怪しんだ。
『夜な夜な右塔の辺りを歩いている』お父様に不信感を持ったんじゃありませんか?
お父様が足を運ぶ右塔に一体何があるのか……。
あなたが自分で確認しに行っていたとしても別に驚かないわ」
『夜な夜な右塔の辺りを歩いてる』ってぇのは、ジェノ本人が前に俺に言った事だ。
口ぶりはただの世間話風だったが、あの時俺にそう声をかけてきたのに何の意図もなかったとはどうしても思えねぇ。
そう思い言った先で、ジェノは相変わらずのニヤニヤ笑いで俺をおちょくる様に茶々を入れる。
「~驚かないわ、って。
──分かったよ、『リアちゃん』で通すつもりだってんならまぁ付き合ってやるよ」
へへっと笑うジェノのこの顔……。
はっ倒してやりたくなるぜ。
だがまぁこいつの挑発に乗る気はねぇ。
俺はこほんと一つ咳払いして話の筋を戻す。
「──もし私の言う事が正しかったとして。
あなたがアルフォンソ殿下があの右塔にいたのに気がついたとして。
一つ疑問があるわ。
あなたはどうしてその時に何の行動も起こさなかったのか。
アルフォンソ殿下をすぐに助けるでもなく、お父様に直接話をするでもなく。
ただ単に関わり合いになりたくないと思っていただけだと言うのならまだしも、私に右塔の話をしてきた事から考えるとそういう訳でもない。
あなたの真意は、一体どこにあるんです?
もし、お父様ではなくアルフォンソ様やレイジス……様の力になる気があるなら、私に力を貸してくれません?
あなたの知っている事を教えて欲しいんです。
セルジオ·クロクスナーの身近にいるあなたに」
頼みっつっうよりは、『取引』するみてぇな調子で、問いかける。
ジェノはソファーに腰掛けたままゆったりと腕を組んだ。
俺の顔を見る。
初めて、ニヤニヤ笑いが止まった。
投げやりに人さし指を立て、問いかけてくる。
「俺の事を信頼出来るのか?」
眉間に皺が寄っている。
恐らくそいつは、本心からの疑問なんだろう。




