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部屋に戻ると、ずっとそこにいたんだろうジュードと共に、今は少し気まずい顔があった。
紺色の短髪に、薄紫の目の男──。
レイジスだ。
俺のベッドの端に腰掛けて、ジュードとは向かい合う形でいる。
俺が帰って来た事に気がつくと、向こうもやや気まずそうに「ああ、リッシュくんか」と声をかけてくる。
俺の見張りの騎士は、そのまま部屋の扉の前で待機するつもりらしかったんで、俺はそのまま後ろ手に扉を閉めて、肩をすぼめる様にしてそれに応える。
ジュードはレイジスと向き合う形で、同じく自分のベッドの端に腰掛けちゃあいるが、頭は下を向いている。
この状況──どこをどう見たって、深刻な話の途中だろう。
せっかく戻ってきた所だけど、もう少しどっかふらついてきた方がいいか──?
と頭を巡らせる俺に。
レイジスは俺に向けて一つ嘆息し言う。
「──適当に掛けてくれ。
俺は君達を叱りに来た訳じゃない」
嘆息はされたが、口調は至って穏やかだ。
今更また部屋を出て行くってのも何だか憚られて──……。
俺は肩をすぼめたまま、手近にあった丸椅子をちょっと引き出し、そこに座る。
レイジスからもジュードからもやや遠いが……今はこれくらいの距離感で丁度いいだろう。
俺がそろそろと席についてから一呼吸置いて──……レイジスは未だ俯いたままのジュードへ向けて声をかける。
「──セルジオ・クロクスナーが、この一年、アルフォンソ兄上をあの右塔に監禁していた事を認めた」
その、言葉に。
俺はハッとして思わずその場で腰を浮かせかける。
ジュードも同じくハッとしたんだろう、ずっと俯いていた顔をようやくレイジスへ向ける。
レイジスはその視線を真っ向から受けながら、続ける。
「セルジオの言葉は一貫している。
あの内乱の日、兄上が王と王妃を殺害した所を見た、と。
幸い気がついたのは自分だけだった。
その時既に王子は錯乱状態であり、自分は王子の名誉を守る為やむを得ず極秘裏に王族の牢としてその昔使われていた右塔へ幽閉する事にした──と」
レイジスが言い終えるか終えないかという所で、
「~嘘だ!」
きつく強い口調でジュードが言う。
「~あの時、あの場には俺しかいなかった!
それにアルフォンソ様は錯乱状態になってなどいな……!」
いなかった、と言おうとしたんだろう。
だがその言葉が、自分が当時見たものをそのまま語っちまってる事に気がついたらしい。
ジュードはそのままグッとその先の言葉を飲み込み止まる。
確かに俺が聞いた話の印象でも『淡々と』『冷徹に』っつぅ言葉は浮かんでも『錯乱』の感じはなかった。
セルジオや他の誰かがその場にいたってぇのも信じられねぇ。
まさかレイジス、適当な話をこさえてジュードがこーして口を滑らすのを狙ったのか──?とも思ったが。
その横顔を見る限り、どーやらそういう訳でもなさそうだ。
たぶん、セルジオがそう語ってるってぇのは本当の事なんだろう。
声と動きを止めたジュードを静かに見つめ──レイジスは言う。
「──……俺には、何が真実なのかは分からない。
自分の目で見た内乱前までの兄上の様子、今出ている証言を組み合わせて、何が真実で何がでたらめなのか考え、答えを導き出す事しか出来ない。
それが自分の気に入らない答えであっても」
レイジスの口調がやんわりとして穏やかで──だけどズッシリとした覚悟が感じられる声音だったから、なのかもしれねぇ。
「──……もし……」
ジュードがそう、苦しみ混じりの声を、発した。
「──……もし、俺があの日目にした事をあなたに話したとして……。
それがアルフォンソ様を救う一助になるでしょうか……?
俺がアルフォンソ様のお立場を、完全に地に落とす事になるかもしれません」
グッと感情を押し殺した様な、そんな苦い口調と言葉に──……。
レイジスは静かに一つ、鼻から息をつく。
そうして出したのは、意外にもあっさりとした言葉だった。
「──その時はその時だ」
ごくごくシンプルに、簡単に出されたその言葉に、
「~なっ……」
ジュードが意表を突かれて声を上げる。
レイジスは軽く肩をすくめて見せた。
「そうとしか言いようがない。
俺はまだジュードの口から何も聞いていないんだから。
だがどちらにしてもこのままだと兄上の立場は相当に悪いもので終わる。
例えお前の話を聞こうと聞くまいとこれ以上兄上の立場が悪くなる事はないだろう。
プラスになる事はあってもマイナスに転じる事はない」
言う。
確かに、それはその通りなのかもしれねぇ。
すでに今の状態だってアルフォンソは『王と王妃を殺した』『内乱の首謀者』っていう扱いだ。
ジュードが見たのはその内の、王と王妃を殺した所、なんだからよ……。
これ以上にアルフォンソの立場が悪くなる事は、ねぇ。
ジュードもレイジスの言葉に納得はしたみてぇだった。
レイジスは言う。
「ジュード。
内乱の日、お前と兄上に何があった?
知っている事を、話してくれ。
お前と同じくらい、俺だって兄上を救いたいと思っている。
その為のピースがどこにどんな風にあるか分からない。
救う為には、出来るだけ多くのピースが必要なんだ」
熱く、真剣にレイジスが言う。
その真剣さがジュードにも伝わったんだろう。
ジュードは一呼吸置いて、そして──。
「──全て、お話しします。
どうかアルフォンソ様に、寛大なご配慮をお願いします」
頑なだったジュードの心が、ようやく解けた──。




