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15

俺は言う。


「~だから、あの約束は反故にする。

ダルの仇なんかあんたが取る必要はねぇ。

落とし前もつけなくていい。

俺も……きっとシエナも、もう前を向いて歩きだしてるんだからよ」


そうだ、と思う。


あれから十二年も経った今更、ゴルドーがわざわざ手を下す意味も必要もねぇ。


言った先で──ゴルドーがやや鳩が豆鉄砲を食らわされた様な顔で俺の事を見る。


そうしてややあってゆっくりと口を開いた。


「……本気か?」


グッと眉間にシワが寄っている。


けど、バカな事言ってんじゃねぇっていう様な、そんな圧や険はねぇ。


俺はゴルドーの視線を真っ向から浴びて


「──ああ」


ハッキリとそう答える。


ゴルドーはしばらく沈黙していたが……。


はあ、と大きく一つ、息を吐く。


そうして


「──分かった」


と一言口にした。


「てめぇがそう言うなら、そういう事にしてやる。

約束は、反故だ」


言う。


そうして「だがよ」と未練たらしく続けた。


「あのクソタヌキ、一年前の内乱で本気で何も噛んでねぇとは思えねぇ。

必ず証拠掴んであの顔一発ぶん殴ってやらぁ」


その『一発ぶん殴ってやる』中には、もちろんダルクの恨みも込めるつもりだろう。


ま、それくらいは俺もいいとは思うけどよ、


「んな事言って、やり過ぎんなよ」


念の為釘は刺しておく。


ゴルドーはそいつには答えず、ただ口の端を曲げてニヤリと笑う。


その悪人面を見てるとやや心配はあるが……まぁ気にしねぇ事にしておこう。


……それはそうと。


ゴルドーやレイジス達がこーやって数日かけて本気で探しても、奴が内乱に絡んでた証拠は何も出てこねぇのか。


思い返してみりゃあサランディール国自体の事だってそうなんだよな。


噂じゃ『宰相が国を乗っ取って好き勝手している』ってな話だったが、いざ国内に入って城で働いてみると、そうパッキリと分かりやすい『悪い支配』はしてねぇ様に見えた。


国王不在なのでその間の政務を宰相がしてくれてる、そんな風にだって見えなくはなかった。


前にレイジスがセルジオの話をした時に『やましい事があり、自分が疑われていると勘づけば、その証拠は狡猾な者ほどうまく隠す』っつってた事があったが、こいつが正にそうだ。


分かりやすく悪者にならねぇ。


必ず自分を正当化する為の逃げ道を作っておく。


そして、悪どい事の証拠になる様な痕跡を残さねぇ。


セルジオの野郎はきっと、そいつが上手いんだろう。


……せめてアルフォンソが元気になってくれりゃあな……。


アルフォンソは確かにあの時俺に、内乱の首謀者はクロクスナーだと言いかけた……と思う。


アルフォンソなら、あの内乱の『全て』を知ってるんじゃねぇか……?


もちろんアルフォンソ本人にとって都合の悪い事も、ねぇとは言えねぇだろうが……。


んな考えに耽りかけてると。


「それと」


とゴルドーが──いつになく殊勝な様子でもう一つ声を上げる。


「──……()()()の事だが。

レイジス王子サマに許しをもらって、内々に引き取る事になった。

嬢ちゃんの話じゃ、あの道に繋がる城からの地下通路の入口は相当狭いらしいから今すぐにってな訳にはいかねぇだろうが」


言ってくる。


一瞬、何の話かと首を傾げかけたが。


すぐにゴルドーの言う()()()が誰の事なのか気づき、ハッとする。


──ダルクの事か。


今も城の地下通路に一人眠るダルクの亡骸を引き取るって、そういう事だろう。


──あのトルスの空っぽの墓の中に、やっと本人が収まるって訳だ。


そいつはなんだか──……。


今更ながらにひどく悲しい事みてぇに、思えた。


中身がねぇならねぇで何だかなぁと思うが、中身が入ったら入ったで……。


何だか本当に、ダルクが死んだと認めなきゃならねぇ様な、そんな気がしてよ。


ダルが死んだのなんか、とっくに分かりきった事だ。


今更ながらにそんな気分になるってなあ、何だか自分でもちょっと意外だった。


俺はそんなフクザツな気分をゴルドーに悟られねぇ様気を配りながら「そっか」と一言で口にする。


そいつにどう思ったかは分からなかったが……。


ゴルドーは一つ嘆息してみせる。


そうしてそれでこっちに背を向け「──また詳しい事は、決まり次第てめぇにも伝えてやる」とだけ言って歩き出す。


話は以上、とそういう訳だ。


何ともゴルドーらしい幕引きだったが、ふと……ゴルドーは一歩立ち止まって、もう一つ声をかけてくる。


「──……今回はラッキーだったな。

セルジオの野郎が兵をレイジス王子サマ達に差し向けて来てたら、今頃ここも血の雨が降ってたかもしんねぇ。

余分な争いも起こらず、飛行船の出番もなかった。

てめぇも何一つケガする事もなく、ピンピンしてやがる。

ダルクの野郎も、心底ホッとしただろうよ」


言ってくる。


そうして、俺がそれに何か反応を寄越す前に、そのまま再び歩き出して、行っちまった。


普段のゴルドーなら、絶対ぇに言わねぇ様な、そんな言葉だ。


ゴルドーも、今回の事じゃあ色々と思う事があったんだろう。


俺は──まぁゴルドー本人にゃあ届かねぇ事を承知で


「──……本当に、そうだよな」


そう、呟く。


今回は、ラッキーだった。


誰かが負傷したり傷ついたりする事もなく。


ダルが死ぬ原因の一端になった飛行船を、サランディールの為に使う事もなく。


ダルが守ってくれたんだ──なんて考えんのは、感傷に浸りすぎか?


俺は一つ静かに嘆息して、のんびりとその場に立ち尽くしたのだった──。


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