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「まぁ別にいいだろ。

とりあえずあの場は収まったんだからよ」


肩をちょっとすくめてそう切り返してやるが、そこに対するゴルドーからの返事はねぇ。


まるっきりのムシだ。


別にいいけどよ。


なんかいちいちらしくねぇんだよな。


普段なら俺の減らず口に『あの場の何がどう収まったってんだ?』とか何とか、一言くらいは言ってきそうなもんだ。


と──ゴルドーの足が、ゆっくりとその場に止まる。


辺りには、誰もいねぇ。


中庭は至って静かで、あるのはきれいに整えられた樹木や草花、そしてベンチが一つだけ、だ。


ゴルドーがいなけりゃ、ちょっくらベンチに座ってうたた寝でもしようかってぇ様な、そんな気候でもある。


ゴルドーが、言う。


「──てめぇももう気づいてるだろ。

セルジオ・クロクスナー。

あの野郎が、十二年前ダルクを殺した張本人だ」


そう言って、こっちを振り返ったその目と声には、強いもんが宿っている。


真っ直ぐ向き合って出された言葉に俺は──


「──……ああ」


そう、重く、苦く一言で返す。


~ゴルドーの野郎も、気付いてたのか。


「レイジス王子サマは、あの男を『国として』裁くつもりだ。

罪状は自分が国の頂点に立つ為に内乱を引き起こし、無為な争いを生んで国を混乱させた事。

だがノワール王とセルジオ本人が、そいつはアルフォンソがやった事だと口を揃えて主張してやがる。

どちらにも証拠はねぇが、あのアルフォンソの従者とかいう元騎士の様子じゃ、奴らの主張の方が正しそうだ」


ゴルドーの言う『アルフォンソの従者とかいう元騎士』ってぇのは無論ジュードの事だろう。


そして俺は──残念ながら、ゴルドーの言う通りそいつが正しいって事を、知っている。


俺からの返答なんか最初(ハナ)から期待しちゃいねぇんだろう、俺の返事を待たずにゴルドーは続ける。


「今後の調べ次第だが、セルジオの野郎を何の罪にも問えねぇ可能性もある。

ダルクを殺したのは確実にあの男だが、そもそもダルクはサランディールじゃ反逆罪を被ってたらしいからな。

そいつをただ処罰しただけだなんて言われちまったらよ、国としちゃあ何の罪にも問えやしねぇだろーがよ」


言う。


「~ダルがサランディールで反逆罪を食らってた事、知ってたのか?」


思わず驚いて問うとゴルドーが片眉を上げて


「ったりめぇだ、このゴルドー様の情報網を舐めんなよ」


さも当たり前の様に言ってくる。


俺が はぁ、と多少気の抜けた返事をするとゴルドーは んな事はどうだっていいんだよとばかりに鼻を一つ鳴らして続ける。


「~俺は、あの男がダルクにした事を許す気はねぇ。

レイジス王子サマが奴を罪に問えねぇ、罰せれねぇってんならこの俺様自ら手を下してやらぁ……!

奴を地獄に送り込んでやる……!」


剣呑な表情と本気の目で、ゴルドーが言う。


奴を一発ぶん殴って終わり、なんてぇ生優しい事を言ってんじゃねぇって事が、肌感覚に瞬時に分かった。


ジュードと同じに、セルジオの野郎を斬り殺そうってぇのか、はたまた殴り殺そうってぇのか、とにかくそういう意味合いだ。


そいつに俺は思わず「~待っ……」と口にしかけた。


……だが、その先が続かねぇ。


自分の全てが急にフリーズしちまったみてぇだ。


ゴルドーがぐりんと大きな目で俺を見る。


まるで鬼みてぇな顔だ。


けど……。


俺は口を薄く開けたまま、その先の言葉を口にする事が、出来なかった。


──待ってくれ、ってか?


セルジオに手を下すのを?


何の為に?


俺だってセルジオの野郎を許せねぇ気持ちは同じだ。


レイジス達が、今の時点じゃセルジオをどうにも出来ねぇってのは、理屈的には分かる。


だけど。


じゃあセルジオの野郎が──……ダルクを殺したあの男が、何の咎めもなしに今まで通りのうのうと生きて行く事を俺は、許せんのか?


──もし奴に鉄槌を下すつもりがあるんなら。


たぶん今、このゴルドーの話に《《乗る》》べきだ。


ダルクの仇を本気で取ろうってんなら──……。


俺が完全にフリーズしちまったからだろう、頭の上からゴルドーが「何だ?」と恐ろしい声で問いかけてくる。


俺の脳裏に、今はもうすっかり忘れちまっていたダルクの顔が浮かんできた。


ニッカリ笑った顔。


俺がやらかした失敗に、全くお前はって呆れ返ってる顔。


シエナに怒られて反省してねぇ顔。


そして最後の、血の気のねぇ、もう動かねぇ、顔。


ダルクが死んだと、殺されたと聞いた後、シエナは泣いていた。


いつの間にかグッと握った両の拳に力が入る。


「〜お、れは……」


言いかける俺に、ゴルドーはフンと一つ鼻で息を吐いて、言う。


「〜まぁいい。

俺は一応てめぇにゃ宣言しとこうと思っただけだ。

てめぇの答えなんざ別に求めちゃいねぇ……」


「〜俺は!」


ゴルドーの声を遮る様に俺は、大きく声を上げる。


ゴルドーが軽く目を見張って俺の方を見た。


構わず俺は、言う。


「〜セルジオの処分は、サランディールの人達に任せるべきだと思う。

ダルクの事は、俺だって許せねぇよ。

今だってあの日の事を夢に見るし、正直セルジオの靴音や声を聞いただけで動悸がする。

シエナだって、ダルが殺されたって聞いて、泣いてたって知ってる。

けど──違うんだよ。

ダルクがあいつに殺された事と、あいつをダルクと同じ目に合わせる事は。

そんなモンには、何の意味もねぇんだ」


ゴルドーは珍しくも、口も挟まず俺の言う事を聞いている。


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