13
アルフォンソは病人、なんだしよ。
手荒な事にはしねぇと思うが……。
んな事を考えるくらいしかやる事がねぇから、なんだか気分まで鬱々してきちまう。
あ~あ~、全く、ヤメだヤメだ。
んな事、俺が今ここであーだこーだ考えてたってしょうがねぇ。
ちょっと気晴らしに城ん中でも彷徨いてくるかぁ。
もれなく見張りの騎士がくっついて来るだろーけど別に関係ねぇや。
庭園にでも出て外の空気でも吸ってこよう。
そう思い立ち、すっくと腰掛けていたベッドから立ち上がる。
そーしてそのままジュードにも『一緒に行くか?』と声をかけてやろうかとも思ったんだが……。
こいつは、今はやめておく事にした。
ジュードが んな気分になれねぇだろう事は何にも言わなくっても分かる。
無理に連れ出した所で、気が晴れる訳じゃねぇだろ。
今はそっとしておいてやろう。
そう考えて、俺は「ちょっと外の空気吸ってくる」とだけジュードに言い置いて、そのまま部屋を出る。
分かっちゃいたが、ジュードからは何の返事も反応もなかった。
そうして部屋を出て一歩歩き出すと、こいつも案の定、部屋の外扉の前に立っていた二人の騎士の内の一人が俺の後についてくる。
どこに行くのか聞かれたり咎められたりはしねぇから、そのまま何の気もねぇ様な顔で城内をのんびりと歩く。
城の中は、何だかいつもとは少し違っていた。
何となくバタバタとして、忙しそうで。
忙しねぇ感じもあるが、皆の表情はどことなく明るい。
まるで忙しいのが『うれしい』みてぇだ。
ふと廊下の先に目をやると、見知ったメイド仲間が二人、明るい表情で廊下の調度品を拭いてるのが目に入った。
向こうも俺に気がつく。
ニコッと笑いかけてみると二人揃って顔を赤くして「きゃぁ」と控えめな黄色い声が上がった。
「~リッシュ・カルト様よ。
重傷のアルフォンソ殿下をお助けになられた……」
「素敵ねぇ」
通りすがりに、んな囁く様な声が届いた。
どーやら俺がつい最近まで一緒に働いてた『リア』だとは気づかれちゃいねぇみてぇだ。
うんうん、こう可愛い女の子達にチヤホヤされんのは本当に気分がいいぜ。
やっぱ息抜きに部屋を出てみたのは正解だった。
……と、そう思ったんだが。
「おい、リッシュ!
てめぇまたその辺ふらついてやがんのか!」
可愛い女の子達とは全く真逆の、がなる様な怒鳴り声が廊下中に響く。
──言わずもがな、ゴルドーだ。
んげっ、何でゴルドーの野郎が……。
見ればゴルドーの怒鳴り声に、メイド仲間の女の子達がそそくさとその場を離れていく。
あーあ。
せっかくいい気分だったってぇのに。
思いつつ俺は「またって、」とぶうたれたまま反論する。
「んなにいつもふらついちゃいねぇだろ。
今だって気分転換にたまたまこーして出て来ただけだってぇの。
外の空気を吸いに出るくらい別にいいだろ」
言ってやるが、まぁゴルドーの事だ、話して通じるなんてこたぁねぇだろ。
と、そう次の怒鳴り声に密かに身構えた俺だったが。
ゴルドーは──思いの外 一、二秒程もそのまま押し黙って──そうしてやや抑えた声で、言う。
「──……ちょっと来い。
お前に話がある」
それだけ言って、俺に背を向け歩き出す。
「~は?
おい、ゴルドー?」
思わず声を上げ呼び止めるが、もちろんゴルドーは止まりもしねぇしこっちを振り向きもしねぇ。
話があるって。
あんまりいい気分も予感もしねぇが……。
それでも俺は、そのゴルドーの後に仕方なくついていく事にしたのだった──……。
◆◆◆◆◆
俺が『外の空気を吸いに出るくらいいいだろ』と言ったからって訳じゃ決してねぇんだろうが。
ゴルドーの足は城内を出て、人気のねぇ中庭の方へ向かっていく。
いつもはやたらと早足でせかせか歩くゴルドーだが、今日は何となく歩調が鈍い。
体調がどっか悪いとかガラにもなく俺の歩調に合わせてくれてるとかそういう感じは一切しねぇ。
が、まるで両足に重しでもついてるみてぇな、そういう歩き方だ。
だから俺は──思わず訝しみながら、同じくゆっくりとそのゴルドーの後を黙ってついて行く。
見張りの騎士は途中までは俺の後について来ていたが、ゴルドーの野郎が「俺が見張るから問題ねぇ、レイジス王子サマにも許可は取ってある」と説明すると一つ頷いて中庭に出る手前辺りで待つ事になった。
と、背中越しにゴルドーが一つ声をかけて来た。
「……お前の飼ってる犬のせいで、王の間はしばらく封鎖だとよ。
全くとんだモンをお見舞いしてくれたな、あの犬コロは」
口悪く、言ってくる。
けど──。
何となく、だが。
ゴルドーが俺に『話したい事』は、ほんとはそいつじゃねぇっていう感じがした。
んな回りくどく別の話振って前振りなんてするタイプじゃねぇんだが……。
俺はますます訝しく思いながらも、とりあえずはその話に合わせてやる事にする。




