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それまでずっとうな垂れたままだったジュードが、バッと俺の方を睨みやる。


いや、()()なんて生優しいモンじゃねぇ、本気で視線だけで射殺されるんじゃねぇかって程強い睨みだ。


自分が睨まれてる様な気がするんだろう、俺とジュードの間に挟まった犬カバがぎゅっと身を縮めて毛を逆立てて震え出す。


そいつに気付きつつ俺は敢えてそっちの方には視線をくれずレイジスとミーシャに向かって続きを口にする。


「──……アルフォンソをガイアスの屋敷に連れてくる時、アルフォンソ自身がそんな感じの事を呟いたんだよ。

自分が父と母を殺したのか……?って。

疑問系だったし、正気だったかどうかも正直よく分からねぇ。

記憶もあやふやみてぇだった。

レイジスの兄貴やミーシャにこれ以上余計な心配かけたくねぇからさ、とりあえずジュードに話した訳だけど……。

ジュードは内情を知ってそうなセルジオの野郎を誰より先に問いただそうとここに一番乗りしたんじゃねぇのかな?」


素知らぬ顔で、言う。


後はジュードがそうだって言ってくれりゃあひとまずこの場は収まるはず……!と期待した俺だったが。


レイジスが──しん、とした冷たい目を俺に向ける。


そしてそいつはその隣に座るミーシャも同じだった。


「……リッシュ、」


ミーシャが呆れ半分、非難半分に、言う。


レイジスが嘆息した。


「……リッシュくん。

君はあの時ジュードに『セルジオを葬り去ろうとしたのか?』と言っていたな?

ジュードがセルジオを“問い正しに”行ったのではないと知っていた。

ではジュードは何故セルジオを殺めようとしたのか?

考えられる事は一つしかない。

“アルフォンソ兄上が父王と母を殺したと知っていたから”。

その事を知るかもしれないセルジオが全てを話してしまう前に奴をこの世から消そうとした──。

そういう事なんじゃないのか?」


言ってくる。


俺はそいつに「あ~……と……」と思わず視線を泳がせた。


ミーシャとレイジス、それにゴルドー、ガイアス、ダンの問い詰める視線がものすごく痛ぇ。


けどよ……。


これ以上の事──ジュードが内乱の時に実際に見た光景──を、この俺が言っていい訳ねぇじゃねぇか。


といってジュードがそいつを話すかっつったらそいつはもちろん話さねぇだろうし。


この場をどうしたら切り抜けられるってんだ……?


悩む俺に──だろう、もちろん──業を煮やしたのは、レイジスでもミーシャでもなく、ゴルドーの野郎だ。


ガタンッと椅子を蹴る様にして立ち上がり、


「あ~っ、ったく!!」


なんて声を上げながら俺の方までずんかずんかとやってくると、有無を言わせず俺の胸倉を引っ掴んで無理矢理立たせた。


「てめぇは」


と耳にギンギン響くバカでかい声で怒鳴る。


思わず顔をしかめて耳を塞ぐが、ゴルドーは構わず声を上げる。


「何バレバレのウソついてやがんだ!!

アルフォンソだか何だか知らねぇが、そいつが親父とお袋殺したってんだったらそう素直に言いやがれ!!

真実を一番知らなきゃいけねぇのはてめぇでもお付きの騎士でもねぇ、ミーシャとレイジスだろーが!!

そいつをハッキリさせとかねぇと二人がこの後宰相とノワール王相手にどう対応していくのか困る事も分からねぇのか!?

てめぇら二人がだんまりを決め込んでそれでこの問題が解決すると思ってんのか?ええ??

あのセルジオの野郎はそこをネタに反逆罪を免れようとしてんだぞ!!」


ギャアギャアと俺の顔近くで怒鳴り散らす。


おまけにダンッと怒りをぶつける様に俺のすぐ横のテーブルの上に拳を叩きつけた。


俺の背中の向こうで犬カバがビクッとしてその場で飛び上がる姿が目に浮かぶ。


くっそ~……。


ゴルドーのくせにやたらに痛いとこばっかついてきやがる。


そりゃ俺だってゴルドーの言う事くらい分かってるさ。


分かってっけどよぉ……。


「──リッシュ、」


ミーシャが嘆願混じりの声をテーブルの向こう側からかけてくる。


その声がどこか悲しげだ。


それでも、俺ぁ……。


グッと口を引き結び、ゴルドーの顔すら避けて黙秘を貫いている──と……。


「──ジュード」


レイジスが、いつにも増して真面目で冷静な声で、ジュードへ向かって声をかけた。


「お前が、憶測や想像で兄上が父と母を弑虐したなどと考えるはずがない。

──……見たんだな?

()()()()()


レイジスの言葉に。


後ろに控えていたガイアスとダンが大きく一つ息を呑むのが、分かった。


ジュードからは、何の返事もない。


レイジスはそれに「──分かった」とだけ返して、そうしてそのまま椅子を引いて立ち上がった。


そのまま何も言わず退出しようとする。


答えはもう見出した、ここにはもう何の用もない。


そう言外に告げている。


「〜ちょっ、待った、レイジス……」


思わず声をかけかけた俺より先に。


ジュードがガッと椅子を蹴る様に立ち上がって、ここへ来て初めて声を上げる。


「〜違います!

違う!

俺は何も見ていない!

アルフォンソ様は誰も手にかけたりなどしない!」


そいつは──側で見てても胸が痛む程に切実な声だった。


レイジスはそいつに一瞬足を止めたが、それだけだった。


こっちの方は一切振り向かず、


「兄上の事は、然るべく対処をする」


固い口調でそれだけ言って、そのまま部屋を出ていった。


ガイアスと、それにダンが俺やジュードの顔を後ろ髪引かれる様に見つつも、その後を追う。


後に残ったのは俺とミーシャ、犬カバにゴルドー、そしてジュードだけ、だ。


ゴルドーが半ば腹いせ混じりに、俺を掴んでいた胸倉をそのまま突き飛ばす様にして手を離す。


後には何とも言えねぇ重く苦い空気だけが残った。


「……アルフォンソ兄上は、どうして──……」


ミーシャが悲しげに呟く声に俺は──何一つ、言うべき言葉が出なかったのだった──……。


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