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フツー大事な姫様が同じ馬にどこの誰とも分からねぇ男を乗せてるとなりゃあそれなりに何かしらの反応があっても良さそうなもんだが。
まぁ、姫の馬に乗るな、とか何とかギャーギャー言われてカッコ悪くも引き摺り下ろされるよか千倍いいんだけどよ。
まぁ、それはそれとして。
「……この重要な時にジュードもゴルドーも、一体どこ行きやがったんだろーな?」
半ばうんざり混じりの息を吐きつつ、俺は前のミーシャへ向けて問いかけるでもなく声をかける。
サランディール城に着くまでまだ少しある。
これくらいの無駄口を叩くくらいの余裕も時間もあった。
俺の独り言にも近い問いかけにミーシャは「うん……」とどこか気がかりそうに返事を寄越す。
もしかしたら、ミーシャも俺と同じく嫌な予感がすんのかもしんねぇ。
もし今この時にジュードが何か行動を起こすとしたら、一体何なのか。
ここまで割と真剣に考えてみたが……思い当たるとすりゃあ、答えは一つだ。
けど……。
あいつ、本気でそんな事するだろうか。
段々と空が明るんで、太陽の光が俺達の後ろ側から差してくる。
辺りを静かに照らし出す温かな光が、先頭にいるレイジスの背を明るく照らし出す。
そいつはまるで、この地に帰ってきたレイジスを歓迎して出迎えてくれている様な、そんな光だった。
俺もミーシャも、それ以上は何も語らず城までの道を行く。
そしてとうとうレイジス率いる俺達一行は、サランディール城へと辿り着いたのだった──。
◆◆◆◆◆
静かなどよめきが、辺りに起こる。
レイジス率いる一行が、サランディール城に入城したのは、それから間もなくの事だった。
レイジスと、そしてそこから一歩後ろにつくミーシャ。
俺と、そのすぐ足元をてこてことやや早歩きでついている犬カバは、二人のすぐ後ろについているガイアスの更に後ろに位置している。
そしてその後にはガイアスん家からここまでついてきた護衛や騎士達。
その大人数を携えて──レイジスとミーシャは城の中を迷いなく進んでいく。
もしかしたらセルジオの配下の騎士とかが剣を振り上げて二人に襲いかかるかも……なんて心配は、どーやら不要らしかった。
皆、レイジスとミーシャの姿を見て驚いて、更にこの大行列で恐れ慄いて道をそのまま開けてくれる。
中には帰りを待ち侘びてましたってばかりに、レイジスとミーシャに心から頭を下げたり泣いたりする人もいる。
俺もよくよく見知ったマーシエも、その一人だった。
向かう先は、この俺も流石に一度も足を踏み入れた事がなかった、王座のある謁見の間だ。
きっとそこに──セルジオ・クロクスナーの姿もあるだろう。
アルフォンソを監禁してあんなに弱らせ、政治の実権を握って好き放題して。
そして──ダルク・カルトの、仇でもある男。
グッと、握った拳に力が入る。
レイジスが謁見の間の大扉の前に着くと、その両脇を固めていた兵士二人が驚きに満ちた顔でレイジスを、そしてそのすぐ後ろに控えたミーシャを見る。
ここに着くまでにも何度も見かけた、まるで幽霊でも見た様な顔だったが、そんでもレイジスが何も言わなくても「殿下、お帰りなさいませ」ときちんと挨拶をし、大扉を慇懃な様子で内側に開く。
途端、キラキラと輝くシャンデリアの明かりが部屋の中から満ち溢れてきた。
レイジスが謁見の間に足を踏み入れると、そこには。
ある一人の男の姿があった。
中肉中背の四、五十代程の男だった。
オールバックにまとめられた白髪混じりの濃い色の金髪。
ダークグレーの眼は今は戸惑いと驚きに揺れていた。
その眼が、今ここに入ってきたレイジスとミーシャから、再びってな感じで自然と部屋の右の方へ向く。
そいつもそのはず。
そこではある二人の男が取っ組み合っていた。
ってぇより、一人の男がもう片方を床に組み伏せていた、っつった方が正しい。
組み伏せられた男のすぐ脇には、ギラリと光る抜き身の剣が落ちている。
だが、それより何より衝撃的だったのは、そいつが──そいつらが誰かって事の方だった。
そいつらは二人共、俺のよく知る人物、だった。
「ゴルドー、ジュード……!?」
「クッヒ!?」
俺が声を上げるのとほぼ同時、俺の足元近くで犬カバもギョッとした様な声を上げる。
そう──。
そいつは、床に組み伏せられてなお暴れ、逃れようとするジュードと、そいつを上からガッチリ押さえつけるゴルドー、だった。
「何やってんだよ、二人して んな所で……」
呆気に取られつつ言いかけるが、
「おい、王子サマよ、来んのが遅ぇじゃねーか!
何でもいいから助太刀寄越せ」
ゴルドーのいつものがなり声に消されちまう。
ゴルドーの言葉に、先頭のレイジスは涼やかに口の端を上げる。
そうして目線を護衛二人に向け、小さく頷く。




