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あれから二日──
アルフォンソの容体は、少しは良くなってきた。
つっても、この二日間ひたすら眠ったままだし、ミーシャや医者、それにクライン夫人や屋敷の人達がほとんど付きっきりで看病してくれてるが、アルフォンソの声はただの呻き声さえも聞けてないらしい。
それでも『良くなってきた』って言えんのは、もっぱら顔色と、寝息が大分安らかになってきてるから、だった。
ダンやマーシエには既に事の経緯を話してある。
レイジスも、トルスにいたレイジスの家臣達(俺も、恐らくはジュードも知らなかったっぽいが、そーゆー人達がかなりの人数、トルスに集まっていたらしい。ま、俺はともかくジュードは信用されてなかったからな)やトルスの大統領が手配してくれたトルスの兵達と共にこっちに向かってくれている。
事態は一挙に進んでいた。
さてそれじゃあその間、肝心のセルジオはってぇと──……。
こいつは不気味なくらいに、《《何もなかった》》。
アルフォンソが塔から姿を消した事は、絶対ぇにもう気づいてるはずだ。
だが、身近に接する機会の多いダンの話では、やけに規則正しい生活も様子も、何もかもが“いつも通り“らしかった。
まるでアルフォンソが塔から抜け出した事どころか、そこに監禁されてたってぇ事実すら全く知らねぇみてぇに。
俺もこの二日間、急に休んじまうのは確実に怪しまれちまうだろーと踏んで、ちゃんと真面目にメイドの仕事に行ってた訳だが……。
肝心のセルジオどころか、その二人の息子──オレットやジェノにすら出会う事はなかった。
会ったらそれとなく親父さんに変わった様子がねぇか聞いてみようと思ってたんだけどな。
それに、特にジェノの奴には、どーゆーつもりで俺に塔の事を言ったのか、アルフォンソがいなくなった事に気づいてんのかいねぇのか、それとなく探ってみよーと思って、敢えて探してみたりもしたんだが……。
オレットが兄貴がよく行くっつってた演習場や鍛冶場を覗いてみても、タイミングが悪ぃのか何なのか、一度も出会わなかったんだよな……。
まぁ、絶対ぇに会わなきゃならねぇ訳でもねぇし、いいんだけどよ。
そーいや犬カバの事を言うのを忘れてた。
つっても大した話は全くねぇ。
俺がアルフォンソを連れ帰った翌朝、犬カバの奴、突然現れた(訳でもねぇんだが、まぁ犬カバにとっちゃあそういう事になるんだろう)アルフォンソの姿にかなりビビったみてぇだった。
ミーシャやクライン夫人や医者が懸命の看病をする中、自分もとでも思ったのかどうかは分からねぇが。
普段俺がいる時はわりと俺にくっついてる犬カバが、今度はアルフォンソの周りをず~っとうろちょろしててさ。
たまーに人の目を盗んではアルフォンソの顔の真横とかに来てその顔を拝んだり、あろう事かその顔にぽん、と手(いや、まあ前足か)を置いたりしている。
まぁ、すぐにミーシャ辺りに見つかって「ダメよ、犬カバ」なんてベッドから降ろされたり怒られたりしてたんだけどな。
それからそう。
ジュードの方は、もちろんアルフォンソの容体を心配してるみてぇだったが……。
あの内乱の日の事を考えてるんだろう、静かに黙したまま、何か考え込んでる事が多かった。




