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ちなみに普段ならいの一番にここにやって来そーな犬カバはってぇと、どーやらまだ一人、俺のベッドの上でぐーすか寝こけちまってるらしい。
全く、呑気なもんだぜ。
まあ別にどうだっていいんだけどよ。
と──ガイアスが『少しいいか?』という目で俺を見、部屋の外を目線で示す。
俺はそいつに頷いて、先に背を向け部屋を出るガイアスの後に続く。
途中、戸口のすぐ横に、半ば放心した様に立つジュードの姿があったんで、俺はその腕をトンと小突いて一緒に来いよと促した。
ジュードの目線は一度ベッドで眠るアルフォンソの方へ向いたが……。
それでも俺の後についてくる事を決めたみてぇだった。
ガイアスの後に続いて俺とジュードが入ったのは、部屋を出てすぐ左隣にある部屋だった。
広さは、さっきの部屋とそう変わりねぇ。
ローテーブルが一つあって、それに合わせたソファーがそのテーブルを挟んで二脚あって、奥には小さな文机があって。
この屋敷の誰かの部屋ってよりかは、客人とかが泊まった時に隣の部屋と合わせて使ってもらう様な、そんな感じの部屋だった。
ガイアスは、ジュードが一緒についてきた事に気づいても、特に何も言わなかった。
ソファーの片側に先に腰掛けると、俺達にもその前の席に座る様促す。
そうして俺ら二人がソファーに掛けるのを待って「それで、」と俺の方へと口を開いた。
「── 一体、何があった?
殿下は今日までどちらにいらしたのだ?
何故あの様な事に……?」
予想はしていたが、開口一番質問の嵐だ。
隣のジュードからも同じ事を聞きてぇって顔を向けられている。
俺は今日一日(つってももう“昨日“の事になっちまう訳だが……)起こった事を、順を追ってガイアスとジュードに説明する。
ひょんな事からジェノ・クロクスナーから、セルジオが夜な夜な城の右塔の辺りを歩いてるって話を聞いた事。
警備の目を潜り抜けてその右塔に忍び込み、ついでに最上階にあるってぇ開かずの間の扉をちょいと開けて中へ入ると、そこにアルフォンソが壁に背を持たせ掛け座り込んでぐったりしていた事。
実際その顔をこの目で拝んだ訳じゃねぇから絶対だとは言い切れねぇが、そこにセルジオらしい足音の人物がやってきた事。
そいつがその場を去ってから部屋の中を探ると隠し通路が見つかって、そこからアルフォンソをおぶって城の外へ出て、この屋敷まで早足で帰ってきた事……。
「あんな状態だからほとんど口も効かねぇし、しゃべる言葉も途切れ途切れだし、本人の意識もしっかりしてたっつっていいのか微妙なところもあるんだけどよ……。
アルフォンソは道の途中、『内乱の首謀者はクロク……』とまで言いかけたんだ。
俺はクロクスナー……つまりは宰相セルジオ・クロクスナーの事だと思った」
表向きはガイアスに向けて。
けどどっちかってぇと実際には、隣に座るジュードへ向けて言う。
この一年間、ジュードが最も知りたかっただろう事だ。
本当はもっと細かく──自分が王と王妃に手をかけた事に、アルフォンソが何故か動揺してる風だった事とか──まで話してやりたかったが、ガイアスにまでその話を聞かれんのはどうなのか、まだよく分からねぇからな。
ジュードもガイアスも、俺の話が終わってもしばらくは何も口を開かなかった。
頭の中で整理する情報が多すぎたんだろう。
そこからしばらくの後、ようやっとその沈黙を破ったのはガイアスの方だった。
「──だとすれば、あまり悠長に構えてはおられんだろうな。
アルフォンソ殿下があの塔からいなくなった事は、どれほど遅くとも明日の夜には奴にも知れよう。
その時真っ先に疑いの目が向く場所の一つに当然この家もあろうからな。
問題は、その時奴がどんな行動を取るか、だ」
「ああ。
それに──……考えすぎかもしんねぇけど、ジェノの事も気にかかんだよ。
あいつが俺にあの塔の話をしたのは、偶然とかじゃねぇ気がする。
もしアルフォンソの事を知ってて、俺が城内を探ってんのも知っててその話をしてきたんだったら……。
一体どーゆーつもりなんだ?
親父の悪行を晒して、あいつに得になる事なんか何もねぇだろ?」
今の自分の地位だって危ないどころか、この先の未来だってそのせいで閉ざされるかもしれねぇってのにさ……と半分は問いかける様に、もう半分はほとんど断定的に言うと、ガイアスが深く息を吐いた。
「ジェノ・クロクスナーか。
あれも読めん男だからな。
だがまぁ、分からん事をここで考えておっても仕方あるまい。
私はひとまずトルスにおられると言うレイジス殿下に連絡を取ってみる。
リッシュくんも夜通し歩いて疲れたろう。
少し休むといい」
最後の二言のうちに立ち上がって俺の肩にポンポン、と労いの手をやって、ガイアスはその足で部屋を出ていく。
たぶん、電話か何かしにいってくれたんだろう。
その辺はガイアスに任せちまって良さそうだ。
パタンと部屋の戸が閉まると──部屋の中は横並びに座る俺とジュードの二人だけになった。
しん、とした空気が流れる。
こーなるとこーして二人仲良く(?)並んで座ってんのが異様な光景に感じてくる。
つっても んな事思ってんのは俺だけで、ジュードの方は全く別の事を考えてるみてぇだ。
険しい表情と、目。
得にその目には、強い信念にも似た“何か“が宿っている様に見えた。
俺はそいつに気付きつつも……小さく息をついて、さっきガイアスの手前言えなかった事をジュードに話しておく事にした。




