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◆◆◆◆◆


「安心せい、医者の手配はさせとる。

空いてるベッドも一応あるが、そこまで行けるか?」


と、俺の元までやって来てすぐ開口一番に聞いてくれたのはガイアスだ。


その視線はチラッと一度俺の後ろ──アルフォンソの方へも向いたが、たぶん顔がフードに隠れてて誰なのかまで分からなかっただろう。


俺もとにかく必死だったから、説明も何も頭から吹っ飛んじまってた。


ガイアスの問いかけに「ああ」とだけ返事すると、ガイアスがそいつに頷き「こちらだ」と早足で先導してくれる。


屋敷に入り、廊下を少し行くと、ジュードが険しい顔で ある部屋の戸を開けて通れる様にして待っていた。


俺はそのジュードの脇を通って、ガイアスに続いて部屋の中に入る。


と、中でベッドの用意をしてくれてたんだろう、クライン夫人が夜着にショールを羽織った様な格好で心配そうな顔で俺を見た。


「とにかく、こちらへ」


たぶん、普段からちゃんと手入れをしてるんだろう、多少急いで用意した様な感じはあっても、清潔で整ったベッドだった。


夫人に言われるまま、俺はやっとのことでそのベッドの上にアルフォンソを下ろす──が。


何でか腕全体が震えちまって、アルフォンソから手を離す事が出来ねぇ。


その俺の様子に気づいたんだろう、ガイアスが俺の腕にポン、と一つ手を置き、


「──もう、大丈夫だ」


温かく、何だかすげぇ安心する様な声で、言う。


それでようやっと──俺はアルフォンソから手を緩めるが出来た。


近くに来てたジュードが、俺の代わりにアルフォンソの体を支えてくれる。


「すぐに医者も来るから安心せい。

だがしかし、一体何があった?

お前が帰って来ぬと皆心配していたのだぞ。

それに、この御仁は一体どこの…………」


俺からアルフォンソの方へ視線をやり、言いかけたガイアスの動きが、ピタ、と止まる。


ふと気づいて見てみると、重病人をベッドに横にさせる前にと思ったんだろう、クライン夫人がアルフォンソからフードとマントを取り払ってくれた所らしかった。


その間その体を支えてくれていたジュードも、目の前の人物の顔に目が釘付けになっている。


「──……ア、ルフォンソ……様……?」


まるで死人でも見た様な顔と声で、ジュードが口にする。


それに──……


「~なんと、まさか……!」


ガイアスが、やっぱりジュードと似たり寄ったりの声を上げる。


クライン夫人でさえも、夫とジュードの反応に、驚いた様にアルフォンソの顔を見た。


──と、丁度そこへ──


「旦那様、お医者様が到着なさいました!」


執事が、医師(カバン)を持った医者と共にやってくる。


ガイアスも、ジュードもクライン夫人も、俺も。


皆一様に何とも言えねぇ表情でその医者の姿を見たのだった──。



◆◆◆◆◆


「〜アルフォンソ兄上……!」


ミーシャがようやっとアルフォンソと対面する事が出来たのは、医者の診察が終わってしばらくして後の事だった。


時刻は深夜も深夜。


普段なら俺はもちろんミーシャだってきっとぐっすり寝入ってる様な時間帯だ。


アルフォンソは、たぶん今日(もう昨日、か?)の疲れもあんだろう、今は静かに眠っている。


呼吸は相変わらず浅く弱々しいが、医者の処方した薬が少しは効いてるのか、おぶってここまで来た時程危うい感じはしねぇ。


顔色もほんのわずかにはマシになってるよーな気もする。


ミーシャがそっと静かに、痩せこけたアルフォンソの頬に触れる。


その心配の眼差しが切なそうで苦しそうで──……。


何だか俺までぎゅっと胸を締め付けられる様な心地がした。


「──滋養のある物を取らせ、養生すればきっと良くなるでしょう。

三、四日は私もここに詰めます。

どうかご安心を」


医者が丁寧な口調でミーシャにそう告げる。


ミーシャは片指で目元に浮かんだ涙を拭い、医者に「よろしくお願いします」と答える。


医者が、しっかりとした眼差しでそれに頷いた。


──ガイアスが(っつぅよりまぁ、実際はクライン夫人が、な気もするが)手配してくれたこの医者は、クライン家御用達の、どーやら相当に信頼できる筋の人らしい。


こんな深夜に呼び出されたってぇのに、白いカッターシャツに紺色の少しシワのついたズボン、それに白衣を羽織っていて、格好もそれなりにちゃんとしている。


流石の流石にヒゲまでは当たっちゃいねぇのか、うっすらと無精髭は生えていたが。


後から聞いた話じゃこの先生、いつ何時こーゆー重病人が出るか分からねぇから、寝る時も寝巻きなんか着たりせず、いつもこの格好でいるんだそうだ。


そのままソファーなりベッドなりで寝ちまったりするから、大抵いつもどこか服にシワがついている。


腕も確かだし、口も固ぇ。


患者やその家族にも親身に接してくれるいい医者らしい。


ふと俺は、前に肋を骨折した時に診てもらったあのじーさん医師の顔を思い出す。


あのじーさんだってまぁまぁそこそこの医者なんだろーが、立派さじゃやっぱりこっちの先生に負けてる気がする。


まぁ、アルフォンソを安心して任せられる医者がいてくれて、本当に良かった。


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