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13

アルフォンソは、こーして明るいオレンジ色のシャンデリアの明かりに当たるとなお一層、ギクリとする程に顔色が悪かった。


青い目は霞みがかっていて、死んじゃいねぇのは分かるがほとんど意識なんかここにねぇんじゃねぇかと思える。


──このまま連れ帰って、医者に診せて、それで本当に元に戻るんだろうか?


そんな考えがふと頭の中をよぎる。


俺はけど──軽く頭を振ってその考えを追い出し、手にしたマントをアルフォンソに羽織らせた。


そーして頭にはしっかりフードを掛けてやる。


こうしてやると顔のほとんどをフードで隠す事が出来た。


俺はそのまま再度アルフォンソを背に負い、立ち上がる。


そーしてさっきやってきた扉とは反対側に向けて歩き出した。


扉脇のスイッチを押すと予想通り部屋のシャンデリアの明かりと、階段向こうの明かりがパッと消える。


そーしてついでに。


暗がりでよく見えちゃいねぇが……俺の繊細な耳に、向こう側の扉がゆっくりと閉まる音が聞こえた。


内心この仕組みに感心しつつも、俺は目の前にあるはずの扉のノブに手をかけた。


そのままひねって回すと、簡単にノブが回る。


俺はゴクリと一つ唾を飲み込んで──そっと薄く、扉を開いた。


人の気配は……どうやらなさそうだ。


音もしねぇ。


辺りは逆にビビる程にしんとした静けさに包まれている。


ほんの僅かに、埃っぽい空気が鼻をつく。


どっかの外の空気っていうよりも、完全に室内の空気だ。


真っ暗闇で何もかんも見えねぇってな訳でもなく、何となく薄闇、くれぇの暗さだった。


俺は、とりあえず出ても大丈夫そうだと判断して、扉をもう少し開けて部屋の向こう側へ足を置く。


そーして何の気なしにそのまま足に体重をかけた──……とたん。


『ギシッ』


足元の床が、すさまじく大きな音を立てる。


一瞬ギクリとして、アルフォンソを背負う腕に力を込める。


固まったままその場に立ち尽くしちまったが……特に誰かが出てきたり声をかけられる事もなかった。


……どーやら、本当に大丈夫そうだ。


俺は小さく息を吐いて、部屋に完全に入り込む。


そのまま後ろ手に扉をしっかり閉めておいた。


つっても、こっち側にはドアノブみてぇなもんはなかったから、普通に扉を押して閉めたって感じだが。


そーしてもう一度ふぅ~っと小さく息をついて──俺はようやく、顔を上げる。


──部屋の中は、どーやら物置小屋みてぇな雰囲気だった。


広さはたぶん、トルスにある俺ん家の、俺の部屋くらいなもんだろう。


そう広くもねぇ空間の左右共に、壁に沿って置かれた棚がずらっと一列に並んでいる。


棚の高さは俺の頭のちょっと上くれぇなもんだからものすげぇ高い訳でもねぇが、威圧感はそれなりにある。


棚の上には何か──雑穀だか小麦粉だか、何かは分からねぇが──が入った麻袋がいくつも積まれ、脇の方にはぐるっと円を描く様にして纏められたロープや薪が置いてあったりするみてぇだ。


棚のずっと上、壁の上部にゃあ横長の細長い窓があって、そこから丁度月が覗いていた。


月明かりも多少ながらも差し込んでて、だから『薄闇』になっているらしい。


目が慣れればたぶんもっと良く見える様になりそうだ。


俺は左右の棚と棚の間を通って反対側のドアの方へ行く。


ここのドアは、さすがにごくごく一般的な、庶民的な(っつうよりややボロけた?)木製の扉だった。


っつー事は、だぜ?


この先がようやっと本当の外って訳だ。


俺はふぅっと一つ息を吐いて、覚悟を決めて静かにドアを開ける。


途端、ほんのりと冷たい夜の空気が部屋の中に流れ込む。


適度な湿気を含んだ、土と木々の香りがする。


ドアを開いてみた先は、さっき地図で確認した通りに森の中、だった。


もちろん辺りにゃあ人影も、人の気配もねぇ。


月の淡い薄黄色の光がここまで届く。


俺達が出てきた小屋のすぐ隣には、ここよりもうだいぶ大きい家がある。


つってもそう豪華な家って訳でもなく、ごくごく一般的な、森の中の一軒家って感じだ。


俺達が出てきた小屋も、隣の家も、森にしっかり馴染む程には古そうだが、全く放置されてる感はねぇ。


小屋ん中も割にきれいに整ってたし、誰かが定期的に家の手入れをしてってるんだろう。


とにもかくにも、だ。


「ガイアスん家までは、すぐだからな。

しっかりおぶさっててくれよ」


背中のアルフォンソに小さく声をかけて──俺はさっき確認した地図を頭に浮かべ、森を早足で駆ける。


アルフォンソを無事にガイアスん家まで連れ帰る。


ただそれだけを考えて──……。



◆◆◆◆◆



森を抜け、街へ出ると俺はそのまま一分の休憩も取らずにガイアスん家に向かった。


深夜遅くって事もあってだろう、森ん中はもちろん、街に出ても誰かとすれ違ったり行き当たったりする事はなかった。


それでも、どこで誰が見てるか分からねぇ。


街ん中をほとんど駆け足に近い速度で駆け抜けて、ようやくガイアスん家の門の前まで来た時にゃあ俺は心底ホッとした。


そして──……。


その門の前にはある一人の人物が、まるで門兵の如く立っていた。


──ジュードだ。


門脇に灯る街灯が、その顔を照らしている。


向こうも俺の事に気がついたらしい。


ジュードは俺の方を見て、そーして瞬間 やや訝しげな顔をする。


俺が今朝(いや、昨日の朝、か?)出て行った時と服装が変わってるってのもあるだろうが、それより何より俺が“誰を”背負ってんのか、訝しんでんだろう。


「~リッシュ、こんな時間までどうした。

皆心配していたぞ。

それに、その人は──……」


言いかける。


だが俺はその言葉を最後まで待たず、半分息を切らしたままジュードの服を掴み、言う。


「~医者だ。

すぐにガイアスに言って医者を寄越してくれ」


それだけを、言う。


ジュードは──たぶん色々聞きてぇ事もあったんだろうが……。


ちら、と俺の背にいる人物の方へ目線をやり、全部を飲み込んで「分かった」と短く返してガイアスを呼びに行ってくれる。


俺はその場にへたり込みそうになる足をどうにか踏ん張らせて、その後をやや遅いペースで進む。


~どうにか、持った!


アルフォンソをちゃんと医者に診せてやる事が出来る!


アルフォンソのごくごく浅い、弱々しい呼吸に感謝しつつ──……俺はそのまま前へ前へと進む。


前から、慌てた様子でこっちへ飛び出してくるガイアスの姿が見えた──。


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