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11

と、その時──。


ぎゅっ、と服の裾が掴まれて、弱く後ろへ引かれた。


俺は思わず顔だけで後ろを振り返る。


引いたのはもちろん、アルフォンソだった。


「ア──」


アルフォンソ?どうした?と声をかけかけた俺、だったが。


「私……は……」


アルフォンソが何かを訴える様な掠れた声で言葉を発したんで、思わずその口を閉じる。


何となく、そうすべきだと、そう感じたからだった。


「父……と……を……殺、め……」


その目は虚ろながら、どっか揺らいで見える。


まるで──んな事は本当はあり得ねぇんだが──今初めてその事実に気づいて動揺している様な、そんな様子だった。


そして──……アルフォンソは、言う。


「ないら……首謀者、は……クロ、ク…………」


アルフォンソが言いかけるのに、俺は大きく目を見開いて、アルフォンソの顔を見る。


アルフォンソの目が、また急速に元の『虚ろ』に戻っていっちまう。


俺の服の裾を掴んだ手からも力が抜けて、そのまますとんと下へ落ちる。


瞳の奥に僅かに取り戻しつつあった意識は、今はもうどこにも存在しねぇみてぇだ。


俺は──……少しの時を待ってから「……アルフォンソ……?」と小さく声をかける。


何かまた少しでもいいから反応を見せてくれりゃあいいなと思ったからだったが、その思惑はものの見事に外れちまった。


俺はアルフォンソを──……最初にそうしようと思ってた通りそのまま背に負って、後ろを振り返らず話しかける。


「……分かった。

俺は、あんたの言葉を信じるよ。

内乱の首謀者はクロクスナー……宰相セルジオだったってんだろ?

ジュードや他の皆にもちゃんとそう伝えるから──……。

だから安心して、しばらくの間ゆっくり休んでてくれ」


無論の事、アルフォンソからの返答はねぇ。


代わりにってな訳でももちろんねぇんだろうが。


アルフォンソが俺の背で溜息にもならねぇ程弱く小さな息を吐く。


俺はそいつに一つ頷いて──……そうして鉄扉のドアに手をかけたのだった──……。


◆◆◆◆◆


扉の先は、一本道の細い通路みてぇになっていた。


つってもあの時(・・・)俺が見た様な地下通路とは明らかに造りが違う。


壁、床、天井にゃあ大理石……って訳じゃあなさそうだが、白い石が使われている。


水がどこかで滴る音もしねぇし、あの時みてぇな嫌な薄暗さもねぇ。


ってぇのも、さっき降りてきた階段を照らしたのと同じ、オレンジ色の小さな明かりが通路の床の左右の端に等間隔に埋め込まれてて、そいつが通路全体を仄かに照らしているからだ。


その光景はまるで神殿とか聖地、みてぇな様子でさ、中々に荘厳だった。


つーか んな事より。


この通路、いったいどこまで続く気だ?


目を凝らして先を見ても、行き止まりが見えねぇ。


相当長いって事だけは確かだった。


まさかこれ、トルスまで続いてるとかねぇよなぁ?


んなトコまでこのメイド服で、食料も水もなしにアルフォンソを背負っていくとか絶対ぇムリだぜ?


つっても他に道なんかありゃしねぇんだから、文句言わずに進むしかねぇんだけど。


それにフツーに考えて、この道絶対ぇ牢に閉じ込められた人間が外に脱出する為の道だろ?


なら今の俺たちと同じく、食料も準備もほとんどナシに通る道のハズだ。


んな遠くまで一度も外へ出られねぇ造りになんか、する訳がねぇ。


そう、半分願い混じりに信じて──。


俺はアルフォンソを背負ったまま、先へ歩を進めたのだった──……。



◆◆◆◆◆


それから一刻以上も歩いたかどうか──。


よーやく通路の突き当たりが見え 辿り着いた時には、俺は心底ホッとした。


通路の突き当たりにゃあ上へ伸びる白い階段がある。


そいつも、塔から降りてきた時とは違って十段程度とかなり少ない。


正直今のこの体力で塔と同じ分階段を上がってくとかなってたらだいぶめげてたが、十段くらいなら張り切って上がってやるぜ。


俺はよいしょとアルフォンソを背負いなおして、アルフォンソへ向けても声をかける。


「──もーじきだからな。

疲れてっかもしんねぇけど、あとちょっと辛抱してくれよ」


アルフォンソはやっぱり虚ろな目をしたまま何の反応も見せなかったが、俺は気合を入れ直して段を上がり始める。


とにかくどーにかして一刻も早く外に出て、アルフォンソを安全な場所に連れて行かなきゃならねぇ。


医者にだってすぐに診てもらった方がいい。


こんなに瘦せこけちまって、声だってどこまで届いてるか分からねぇ。


微かな鼓動が背から伝わってくるんでちゃんと生きてると分かるが、こーして歩いててもいつ鼓動が止まっちまうかとヒヤヒヤする。


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