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オレットとジェノと会った翌日も翌々日も、俺は(ひとまず表面上は)それまでと変わりなくメイドの仕事に勤しんでいた。
あれから二日間、俺はその二人のどちらとも鉢合わせするこたぁなかったし、もちろん二人の父親──宰相セルジオ・クロクスナーと出会う事も、その靴音を聞く事もなかった。
あの日──。
地下通路までダルクを追って来たあの足音が、セルジオのもんだったんだと確信したあの日──。
俺はガイアスの屋敷に戻ってからまたその名を聞く事になった。
口にしたのはジュードで、そいつは
「──大した情報、という訳ではないが。
騎士団長が、少しだけ気になる事を言っていた」
っていう言葉から始まった。
その騎士団長はジュードが城勤めをしてた頃の上司で、もちろん今回レイジス側についてくれてる、信頼の置ける人らしい。
団長の話によりゃあ、内乱の日、アルフォンソの様子がどっかいつもと様子が違ってて『どーも目が虚ろで受け答えもぼんやり』していた様に感じたそうだ。
それも朝からってんじゃなく、午前中セルジオの元を訪れ、二人きりで何がしかの話をした後からだってんだから、いよいよ怪しい。
今現在国を乗っ取って実質上国王みたいに国のトップに成り上がってるセルジオと、国王と王妃を殺して消息不明のアルフォンソ。
その二人が内乱の日の午前中、二人で会って、それ以降アルフォンソの様子がおかしくなって……なんてなぁ、確かにな~んかあったんじゃねぇかってな気がするんだけどよ。
それをアルフォンソ直属の護衛のはずのジュードが知らなかったってのは一体どういう事なんだ?と思ったが、そこにも理由があったらしい。
もしサランディールに内乱が起こらなければ、実はその三日後にノワールの緋の王がサランディールを訪れるはずだったんだそうだ。
その関係でジュードは、アルフォンソ自身にその警備体制についてしっかり確認してくる様に言われて、その日は朝からアルフォンソの元を離れていたんだそうだ。
その間ジュードの代わりは、これまたアルフォンソからの指示でジュードの上司、騎士団長がする事になった。
内乱が起こる数時間前にはアルフォンソは自室に下がり、騎士団長の役目はそこで終わり。
そこから後はアルフォンソの自室の扉の前に立つ二人の騎士が警備を担当したんだそうだ。
その後しばらく──と言っても深夜の話だったらしいが──して、あの内乱騒ぎが起こったらしい。
聞けば聞くほど妙な話だ。
フツー警備体制の確認なんて逆に団長だかなんだかがやる仕事じゃねぇのか?
普段からアルフォンソの警護をしてるジュードをそっちに充てて、何でわざわざ団長がジュードの代わりを務めんだよ?
当時ジュードも団長も同じ様に疑問には思ったらしいが、わざわざそいつを問いただす事はなかったんだそうだ。
どーもこーも、アルフォンソの行動には不審しかねぇ。
ジュードから んな話を聞かされ、おまけに昼間はセルジオがダルクの仇だった可能性がかなり高そうだって事まで知って……昨日はさすがのこの俺もあんまりよく眠れなかった。
ジュードにゃあ、セルジオがダルクの仇だったかもしれねぇ話はまだしてねぇ。
まだ確実とは言いきれねぇ……と心のどこかでそう思ったからだ。
まぁ、んなもんは言わなくて済む言い訳にしかならねぇかもしれねぇが。
と──。
んな事を考えながら、今日も(表面上は)いつも通り、はたきを片手に城の中で働いていると。
そそそ、ととあるメイド仲間の一人が俺のすぐ近くまでやって来て、ちらちらっと辺りに目を配る。
そーして誰もこの場所を通りかかりそうもねぇ事を確認してから、
「ねぇねぇリアちゃん、知ってる?」
と、その子が小声で俺に話しかけて来た。
歳は俺やミーシャともそう変わりねぇ。
人懐っこくって話し好きの子で、よく仕事中他のメイド仲間とおしゃべりしてはマーシエに口うるさく怒られている、そんな子だ。
まぁ城で情報収集にいそしんでる俺からすりゃあそのおしゃべり好きはわりかしありがてぇスキルでもあるんだが。
「ここの突き当りのこのお部屋あるでしょ?
あそこね、『開かずの間』って言われてるのよ」
ふふふ、と何だかちょっと楽しそうに、そんな話を振ってくる。
「開かずの間?」
問いかけつつ俺は、その子の視線の先へ同じく目を向ける。
確かにそこにゃあ突き当りに、立派な感じの扉がある。
「そうなの。
内乱で亡くなられた国王陛下の、お兄様のお部屋だったんですって。
その方ももう今から三十年以上も前にご病気で亡くなられててね、絶望した先王陛下が、そのお部屋の扉に鍵をかけて刀鍛冶の炉に鍵を入れて溶かしてしまわれたんですって。
誰もその部屋に入る事は許さん!ってお触れまで出してね。
それ以来誰もあの部屋に入った人はいないんですって。
きっと、よっぽどその方の事を大切に思ってたのね~。
ショックが強すぎたのよ」
うんうん、と妙に真剣そのものってな顔で、その子が言う。
俺はそいつに適当に相槌を打ちながら、扉の方を見やる。
──開かずの間、ね。




