17
ジュードにも近くの席を勧め、執事がコーヒーを二人の前に出して部屋を出るのを待ってから──フォルスターはジュードに向かって話を続ける。
「お前もガイアスから聞いているだろうが、私も殿下と姫の為出来る限りの事をさせて頂く所存だ。
姫からも先日、わしの協力に対する礼状が届いてな。
このフォルスター、命の限り殿下のサランディール奪還に力を注ごうぞ」
『姫からの直筆の嘆願の手紙』の部分はどこか嬉しそうに、フォルスターは言う。
そうしてその事に本人も気づいたのだろう、それを誤魔化す様にこほんと一つ咳払いをして「それで、」と話を切り替えた。
「ジュード。
アルフォンソ様の行方を知っておるのか」
問いかけてくる。
その単刀直入な問いかけに、ジュードは一瞬内心でギクリと身を硬くする。
内乱の日のアルフォンソの姿が──国王を弑逆するその姿が脳裏に浮かんだ為だったが。
フォルスターは一つ重たげな息を吐き、首を横に振る。
「──いや。
そうであれば今頃レイジス殿下と共に動いておられただろうな。
すまぬ、馬鹿げた事を聞いた」
返事を聞かずともジュードの答えに見当をつけたのだろう。
実際もちろんジュードはアルフォンソの行方を知らないのだから、その見当は正しかった訳だが……。
──……団長も、あの日アルフォンソ様が王と王妃を手にかけた事に、気付いておられないのか……。
あの日あの場にいたのはジュードだけだった。
レイジスもミーシャも知らないのだから、もちろん団長だって知らずにいて当然だ。
思いながらも……ジュードは目線を下に下げ、あの日の事を思う。
王座の前で血の滴る剣を持ち、佇むアルフォンソの姿──。
感情の込もらない、無機質な薄紫の目。
まるで別人の様だった──……。
そんな事を思っていると。
まさかジュードの考えを読んだ訳ではなかろうが、フォルスターが「そういえば」と当時の事を思う様に口を開く。
「……あの日のアルフォンソ様は、どこかいつもと様子が違っておられたな。
どうも目が虚ろで、受け答えもぼんやりとしていて……。
まるで別人の様な……。
のちに起こる内乱の事を、予期でもしておられたのだろうか……」
愁う様に、じんわりと苦くフォルスターが呟く。
それは何気ない、独り言の様な呟き、だったのだろうが。
ジュードはその言葉に思わず、
「~団長もそう思われますか?
あの日のアルフォンソ様は、まるで別人の様だったと……」
問いかける。
そう──。
それはずっと、ジュードが抱いて来た思いだった。
普段とは全く異なるアルフォンソの姿。
あの無機質な目。
王と王妃を手にかけた、その行動──……。
『そもそもアルフォンソにゃ内乱を起こす理由も、王や王妃を殺さなきゃならねぇ理由もねぇんじゃねぇのか?』
『黙って大人しくしてりゃあ、いずれは王になって、サランディールを支配出来る立場にあったはずだ。
それなのに内乱なんか起こして挙げ句の果てに失敗でもしてみろよ、それこそ王位継承権とか何やら剥奪されて、悪けりゃ投獄されるか処刑だろ?
そのリスクを取ってもアルフォンソに内乱を引き起こす理由なんて、あるかよ?』
以前、リッシュに言われた言葉を思い出す。
そうなのだ。
アルフォンソには、王と王妃を殺さなければならない理由も、内乱を起こさなければならない理由もなかったはずだ。
もし仮に──ジュードにはとても信じられないが──アルフォンソが本当に王位簒奪を考えていたのだとしても、あの聡明な人に、リッシュが言った様な事が分からなかったはずはない。
──まるで別人の様にいつもと違っていて。
アルフォンソであって、アルフォンソではない様な。
フォルスターは一つ唸って、頭を振り、ジュードの問いに答える。
「~後々思い返してみればの話だ。
わしがそう勝手に思っただけの話よ。
……レイジス殿下と、ミーシャ姫が生きておられた。
この上アルフォンソ様の無事まで願おうというのは虫が良すぎた。
つまらん戯言だ、忘れよ」
言うが……ジュードはそれに素直に従う事が出来なかった。
「~団長、あの日、アルフォンソ様の事で団長が気づかれた事、どんなに些細な事でもいいのでお話し頂けませんか?
俺は──……アルフォンソ様の行方を……その生死も含めて、知りたいと思っています。
どうか、お願いします」
ジュードが頭を下げ、言うのに……フォルスターは少し驚いた様にそのジュードを見る。
それまでの──と言ってももう一年も前の話だが──ジュードなら、フォルスターが『忘れよ』と言えば、どんなにか納得出来なくともきっとグッと言葉を飲み込み「はい」と返していただろう。
──少し、変わったな。
父親の様な気持ちで思い、フォルスターは思わず微かに口の端を和らげる。
とは言えフォルスターには、アルフォンソについてさほど有益な話など出来そうもなかったが……。
それでも当時フォルスターがアルフォンソに感じた違和感を、ジュードに話したのだった──……。




