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15

アルフォンソの行方を、オレットは全く知らねぇのか。


オレットに話を聞く事が出来れば、多少なりとも何かの糸口を見つける事が出来るかもしれねぇ。


「……そういえばさっき、内乱の時のお話がありましたけど……」


そう、問いかけようとした、まさにその時。


カッカッカッと乱暴に、それでいて妙に威圧的に歩く足音が後ろから響いた。


この足音、どっかで──?


思いかけた、ところで。


「おいおい、何だあ?

オレット、こんな所で女と逢引かぁ?

お前も隅に置けねぇなあ」


ぷわん、と背後から酒の匂いがする。


声の主であり、足音の主でもある男が、俺のすぐ隣に立った。


濃い色の金の短髪に、軽薄そうな灰色の目。


どことなく目の前のオレットと顔つきが似ているが、体格がまるで違う。


どっちかっつぅと細身の『文系』なオレットに対して、男はいかにも『武闘派』だ。


赤色の制服は、士官の物だった。


いや、まさか、と思いつつ男をぽかんとふり仰いだ先で男がオレットに向けて言う。


「宰相閣下がお呼びだぜ。

お前が来るのが遅いからって、俺がこんなカビ臭い所まで来る羽目になっちまった」


「──兄さん、」


オレットが、男に言うのに──……。


俺は思わず嫌~な目で、隣に並んだ男の顔を見た。


……やっぱりな。


こいつが噂のジェノって訳か。


ジェノが、俺の視線に気づいたんだろう、軽薄そうな目をそのまま俺へ向ける。


そーして一、二秒後、


「~おっ?」


といきなり好奇の声を上げた。


……うっわ、ヤベ……。


俺がサッと目線を逸らすのに構わず、ジェノはわざわざ俺の目線の先へ回り込んで俺の顔を見る。


ぷわん、と酒臭さが鼻を突いた。


俺の嫌~な顔にジェノが気付いた様子はねぇ。


に、と笑って話しかけて来る。


「なんだ、かわいーじゃん。

こんなしみったれた場所にオレットと二人でいるからどんな地味女かと思ったけど」


言いながら、ジェノが俺の肩に手を回して自分の方に抱き寄せる。


「~ちょっ、兄さん……!!」


オレットが声を上げてくれるが、そんなモンにはまるで意味がなかった。


ジェノは俺の首筋に顔を寄せて、俺の耳元で囁く。


「~君、リアちゃんだろ?

城中の噂になってるよ。

新しくメイドで入ったガイアス・クラインの姪がめちゃくちゃかわいいって。

あんたに手を出したらクラインのおっさんと内務卿が黙ってないみたいだけど。

お互い相思相愛ってんなら話は別だよな?」


そんな事を、低い声で囁いてくる。


ぞ、わわわわわ……っと、俺の全身に鳥肌が立った。


おいおい待て待て。


お前と俺が相思相愛なんかなぁ、一生涯、何が起こっても絶対ぇに有り得ねぇから!


てーか初対面でいきなり抱き寄せてきて『お互い相思相愛』、とか何言ってんだ、こいつ。


「~兄さん!いい加減にしてくれ!

宰相閣下がお待ちなんだろう!?

すぐに行かないと」


「んだよ、お前だけ先に行ってろ」


「そんな訳にいかない事は兄さんも分かってるだろ。

さあ、ほら!」


言って、オレットが俺から無理矢理にジェノを引き剥がしてくれる。


ジェノはチッと舌打ちなんかしてみせたが、どーやらこれ以上逆らうつもりはないみてぇだった。


ヘラ、と笑って俺に語りかける。


「またな、リアちゃん。

今度は邪魔者のいない所で二人でゆっくり楽しもーぜ」


「~兄さん!」


言って、オレットが図書館の外へ向かって兄貴を背中から押し出していく。


途中、俺の方を振り返り、本当に申し訳ないって表情で一つ会釈したが……。


……何か無駄にダメージ受けたよーな気がするぜ……。


オレットが『ジェノに近づかない方がいい』って言うのも頷ける。


「いつまでも背中押してんじゃねぇよ。

一人で歩ける」


「分かったよ」


そんな会話を交わしながら、クロクスナー兄弟が図書館を出ていく。


その、遠ざかっていく二人の足音を聞くともなしに耳にして──。


俺は不意に心臓が止まるんじゃねぇかと思う程ギクリとした。


カッカッカッと乱暴に、それでいて妙に威圧的に歩く足音と、それとは逆にほとんど音がしねぇ程静かな足音。


この二つの足音に、聞き覚えがあったのを思い出したからだ。


「あ……」


思わず、声が漏れる。


その二つの足音は、昨日あのダルクの仇に数歩遅れて付いて歩いていた二つの足音と、どっちも違わず同じだった。


ふと、俺の頭にその内の一人が話していた『声』が蘇る。


『閣下、この後のご予定ですが──』


その声は、オレットの声じゃなかったか──?


じゃあ、あの先頭を歩くカツカツという冷たい響きを持つ靴の音は、まさか……。


──宰相、セルジオ……?


その事実に──俺は心臓がドクンドクンと重く苦く響くのを感じた──……。

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