10
こちらが意を決して聞いたというのが多少なりとも伝わったのだろうか。
マリーは少しの逡巡の末──小さく、
「……こんな事お話しをしても、騎士様を困らせてしまうだけと分かっているのですが」
と口を開く。
しょんぼりと、視線をジュードから、自身のスカートの上に握った手へ向けて、マリーは言う。
「……。
私、リッシュ様の事が、好きだったんです」
言ってくる。
ジュードは──全く、予想だにしていなかった話の方向に、思わず目を瞬いてマリーを二度見した。
いや──マリーがリッシュに気がある事くらいは以前から気がついていたが。
今ここで──しかも自分にその話がされようとは、夢にも思っていなかったのだ。
ジュードの驚きをよそに、マリーは言う。
「──本当に、好きだったんです。
山賊に拐われかけた時に助けて頂いた日から、ずっと。
でも……。
リッシュ様のお心は、ミーシャ様でいっぱいだったのですよね。
きっと、私なんかと出会う、ずっと前から……。
そんな事も分からなくって、私、一人で勝手に舞い上がってしまって……」
スカートの上でぎゅっと握り締めた両の手が、白くなってしまっている。
何か気の利いた事を言ってやりたいとも思ったが、ジュードには到底無理だった。
だから、無言のまま聞くに徹する。
「ミーシャ様のおめかしをするのは、とっても楽しいんですの。
あんな服も似合うかな、こんなアクセサリーはどうかしらって、侍女と悩むのも、皆さんがミーシャ様にほぅって見惚れる姿を見るのも、とても楽しくって。
だけど……。
それと同時に、ふと気づくと……辛い、って、思ってしまうんですの。
リッシュ様がミーシャ様に向けられる優しい目も、笑顔も、私に向けられるものとは全然違う。
それが……何だか切なくて……悲しくて。
そんな風に思ってしまう自分も、許せなくって。
ぼんやりそんな事を考えていて……それで先程は騎士様とぶつかってしまったんですわ。
私の元気がないとしたら、きっと、そんな事を考えていたせい、だと思います」
言って──マリーが悲しげに微笑む。
ジュードはやっとの事で、
「そう、でしたか……」
と何の意味もない言葉を返した。
他に言うべき言葉が見つからなかった。
もしここにいて、マリーの話を聞いているのが自分でなければ──。
それこそレイジスや、今は亡きダルク・カルト、それにリッシュだったなら、きっともっと、きちんと気の利いた事を言えってやれるだろうにと思う。
悲しげに微笑むマリーの頬に、ぽろりと涙が零れる。
慌てるジュードに、マリーがパッと両手で自分の顔を覆う。
そうして──
「ごめんなさい。
大丈夫ですから……。
でも……少しだけ、ここで泣かせて下さい……」
言った声が、全然大丈夫そうではない。
だが……。
ジュードは静かに黙したまま、一つ頷いた。
マリーがそれに気づいたかどうかは分からなかったが……。
それでもジュードは、マリーの涙が収まるまで、ずっとその隣にいたのだった──。




