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「わんちゃんとノワールの貴族さんとの事件、私も道ゆく人にお話を聞きました!

リッシュ様のお姉様とダルク様が大活躍されてわんちゃんも人質の男の子も無事救出されたって。

でも、どれもこれもひどい事件ばかり。

ノワール国は昔からどことなく不穏な国だと聞いてはおりましたけれど、今の王様に代替わりされてからはなお一層、という感じですわね」


前半は勢いよく、後半はむぅぅ、と唸る様に、マリーがいう。


『リッシュ様のお姉様』のくだりじゃあ一瞬ギクリと身を知事込めた俺だが……ノワールの今の王様ってぇ言葉には思わず苦い気持ちになった。


ノワール王……『緋の王』とあだ名されるそいつは、ミーシャの元(?)婚約者だってぇ話を思い出したからだ。


俺は──ミーシャが今どんな表情でいるのか、ちょっとだけチラ見しそーになったが……やめた。


代わりに大仰に息をついて「まったくだぜ」とマリーの意見に同意する。


そーしてついでに、この話を打ち切る方向へ話を持っていく事にした。


「まーでもグラノス大統領や外交官、それに各地のギルドの面々まで足並み揃えてノワールを見張ってんだしよ、この国でこれ以上ノワールの名が上がるよーな事件は、きっともう起こらねぇよ。

っつーか大統領、いくら俺の予想が当たったからって、あのノワール王からの電話を受けてご満悦とかすんげぇヨユーじゃねぇか」


「余裕というより、神経が図太いんですわ」


マリーが半分笑いながら、けど確実に本心からの言葉で言ってのける。


大統領が聞いたらどう思うか知らねぇが……まぁあの人なら「ハッハッハッ、神経が図太いか!」ってな感じで明るく笑い飛ばしちまいそーな気もしなくもねぇ。


どっちにしてもマリーのおかげで何となく話の流れも変わった。


俺はそのついでに──ってな訳でもねぇが「ところで、」とマリーへ向けて口を開いた。


「マリーはいつ頃までこの街に滞在予定なんだ?

宿はもう押さえてあんだろ?」


問うと「ええ、」とマリーから明確な答えが返ってくる。


「一応今日から二泊三日の予定なんですの。

本当は一、二週間くらいこちらにいたいと言ったんですけれど、また前みたいに事件に巻き込まれたら大変だからって大反対されてしまって。

あんな事件にまた遭遇する確率なんてほとんどゼロだと何度言っても全っ然聞く耳を持たないんですの。

本っ当に頭が固くて困りますわ」


最後は半ばぷりぷりしながら言ってくるが、俺にゃあグラノス大統領が心配する気持ちも分からないじゃねぇ。


あんだけの大事件に大事な一人娘がたったの一度でも巻き込まれりゃ、そりゃ親なら心配くらいすんだろ。


って、まぁ俺は親になった事もねぇし自分の親の記憶もねぇから、こいつは完全に俺の勝手な想像だが。


と、おそらくは俺と似た様な感想を持ったらしいレイジスがやんわりと微笑んでみせた。


「それだけマリー嬢を大切に思っておられるという事でしょう」


「そうでしょうか?」


ぷりぷりとしながら首を捻ってそう返すのに、レイジスが落ち着いた大人の風格で頷いてみせる。


そいつに……マリーはちょっと口を曲げつつも、それでもちょっと機嫌を直して見せた。


「……それはともかく……。

なので、一応明後日にはこの街に迎えの馬車が来る予定なんですの。

もしよろしければ皆さんご一緒に乗って行かれますか?

リッシュ様とそのご友人もご一緒されると言えば、少し大きめの馬車をご用意する事も出来ると思います。

リッシュ様がいらっしゃるとなれば父はきっと張り切ってどうにか時間を作るはずですから……その時にレイジス様の件、探ってみられたらどうでしょう?

レイジス様達には近くに宿を取って待機して頂いていて……。

もちろん皆さんのご予定が合えば、という事にはなりますけれど……」


言うのに……俺はちらっとまずは隣のミーシャへ目線を向ける。


もちろん俺にもミーシャにも特段予定がある訳じゃねぇ。


だから俺が確認したかったのは、ミーシャが今回一緒に行くかどうか(・・・・・・)ってな方だった。


確かジュードの話じゃ、ミーシャは以前サランディールの姫様として大統領と会ったことがあるって事だっただろ?


外交官の中にもミーシャの顔を知るやつがいるかもしんねぇ。


もしかしたら──……いや、レイジスがそうと名乗り出る事になったとしたら確実に、同行するミーシャも正体を見破られるし、そもそもそれ以前に、たぶん自ら明かすハメにもなるだろう。


今んところレイジスの正体を知ったマリーにも『冒険者ダルク』で通そうとしてるミーシャだ。


『サランディールのミーシャ姫』の生存をあんまり多くの人間に知られたくねぇってんなら、今回も前みてぇにこの街で留守番するって手もある。


つーかまぁ大統領辺りに知られるくらいならいいとしても、話があちこちに広まって、そいつが隣国のノワール王の耳にまで届くとややこしいしな。


『ノワール王は、ミーシャ様の婚約者だったからな……。

どの様な形であれあまり関わって頂きたくは……』


ってのは前にジュードが言った言葉だが、正直俺もそこだけは同感だ。


そう思いつつ見やった先で、ミーシャは俺に涼やかなすみれ色の瞳で返し、そのままマリーへ向けて返答する。


「──私とリッシュの方では問題ない」


「こちらも問題ないよ」


ミーシャに続けて言ったのは、レイジスだ。


マリーがそれに「では、」とうれしそうに話を締めくくった。


「明後日ご一緒しましょう。

一応向こうでの皆さんのお宿もお取りしておきますのでご安心ください」


言ってくる。


ミーシャとレイジスがそれに「ありがとう」と二人揃って何の引っ掛かりもなく返したが……俺はちょっとだけ片眉を下げてミーシャを見た。


……本当に大丈夫か?


なんか分かんねぇが、じんわりと嫌な……予感とまでもいかねぇ不安が胸に巣食う。


マリー自身や、マリーがしてくれる事に対してって訳じゃねぇんだが──……。


ミーシャが俺の目線に気がついて、けど『何も問題ないわ』と言わんばかりにさらりと澄まして応える。


俺はそいつに──思わず小さくため息つきそうになんのを堪えて、全面の協力を申し出てくれたマリーへとりあえずは礼を言っておく事にした。


「──マリー、ありがとな。

恩に着るぜ」


心の底から感謝しつつそう言うと、マリーがポッと頬を赤らめつつ「とっ、とんでもないですわ」とあせあせしながら答えてきた。


「私に出来る事があれば、何でも仰ってください。

出来得る限りお力になりますわ。

それに私、リッシュ様と少しでも長くいられるだけですごく幸せなんですの」


きゃあぁ、と最後に両頬に手を当てながら、思い切った様にマリーがそう告げてくる。


俺はそいつに思わず目を瞬いて──


「へ?」


と間抜けに口を開く。


俺の足元で丸々と丸まった犬カバが、マリーを見て、俺を見て、そーしてなぜかその隣のミーシャの方まで見て──……


「クヒ、」


と何かを悟り切ったよーなフッとした調子で一声鳴く。


って、おいおい。


その『クヒ』は何のクヒだよ?


半ば焦りつつ犬カバの『俺はカンケーねぇぞ』フェイスを見る中──マリーは顔を赤らめたまま、「で、では、」とこっちも半ばあせあせしながら立ち上がる。


「〜今日は私、ここでおいとま致します。

馬車のお時間などはまた改めてご連絡致しますわ」


言うのに、レイジスもマリーに合わせてゆったりと立ち上がった。

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