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はぁ~っとマリーは一つ息をついて──ドキドキと高鳴る胸にそっと手を当てた。
腰まで届く茶味がかった長い金髪に、青い瞳。
トレードマークの淡いピンク色のワンピース。
マリーの斜め後ろにはいつも通り、彼女付きの若いメイドが一人控えている。
マリーは青い瞳を恋色に輝かせながら「とうとう、」と一つ声を出す。
「……とうとう、来てしまいました」
リッシュ・カルトに会いたくて会いたくて、頑固者の父であるグラノス大統領をも説得し、再びこの街までやってきた。
リッシュの暮らすこの街には人拐いに拐われかけた恐ろしい思い出もあるが、それ以上にリッシュという素敵な男性と知り合えたという素晴らしく良い思い出もある。
「リッシュ様……お元気でいらっしゃるかしら」
急にお尋ねしたりして、ご迷惑ではないかしら。
再会出来る喜びと不安をないまぜにしながら──彼女、マリー・グラノスはその街に足を踏み入れたのだった──。
◆◆◆◆◆
「それで、」
と俺は口を開く。
飛行船の甲板から場所を移し、今は同じ洞窟内に置いてあるテーブルと椅子に丁度四人、腰を下ろした所だ。
俺の右横にはミーシャが、その正面(つまりは俺の斜め向かいだ)にはジュードが座る。
そして俺の真正面にはレイジスが掛けた。
犬カバは……まぁ、いつもどーり俺の足元でくるんと丸まってそこにいる。
ともあれ俺は話を続けた。
「これからどーする?
まさかこの四人と一匹でサランディール城に乗り込んで、宰相を討ちに行くって訳じゃねーんだろ?
前に何か計画があるみてぇな事を言ってたよな?
どっかに協力者でもいるってぇのか?」
聞く。
レイジスの口ぶりじゃ、元々宰相を討つ為のちゃんとした『計画』があって、そこに俺の飛行船が加わればなお良いみてぇな感じだった。
つまり、俺の飛行船があってもなくてもサランディール城に攻め入り宰相を討てる用意・計画は立っていたってぇこった。
レイジスはこう見えて案外キレ者だ。
そのレイジスがずっと考えてた計画が、ジュードと二人どーにか城に乗り込んで、どーにかたくさんの城の兵達をぶっ倒し、やり過ごして宰相を討つ、な~んて杜撰な物であるはずがねぇ。
けどだからっつって、サランディールから離れたこの街で一体どーゆー人間がどれだけこの計画に協力してくれんのかと言われると、さっぱり分からねぇ。
それで聞いてみたんだが、レイジスからは案の定、さらりと滑らかな回答が返ってきた。
「サランディール国内に、信用の置ける者達が幾人かいる。
すでに内密に俺の無事を伝えてあり、サランディール奪還にも手を貸してくれるそうだ。
彼らが兵を興してくれるのと同時、俺も彼らと共にサランディール城に乗り込み宰相を討つ」
僅かの迷いもない、きっぱりとした回答だった。
だが……。
『俺とジュードも』とは、言わねぇんだな。
俺とジュードも彼らと共にサランディール城に乗り込み宰相を討つ。
普通ならそう言う所だ。
俺の引っ掛かりに、おそらく当人のジュードも気付いてんだろう。
苦く苦しむ様に目をすがめ、目線をテーブルの方へ押し下げている。